第1章3話
本作は現在制作途中の作品となっております。
そのため、今後の展開に応じてストーリーや設定、名称などに調整や変更が入る可能性があります。
できる限り違和感のない形で更新していく予定ですが、あらかじめご了承いただけますと幸いです。
どこかで、鳥の声がする。
柔らかいものが背中にある感覚。
だが天井は街の医療施設とは違う、低い木の梁。
「……また……この感じか……」
ぼそりと呟くと、自分の声が妙にかすれて聞こえた。
周囲を見渡すと、そこは小さな家の一室だった。
棚には乾燥させた薬草、奇妙な形の瓶がずらりと並び、壁には束ねたハーブが吊るされている。
全身にずきりと鈍い痛みが走り、思わず顔をしかめる。
「いって……」
「まだ動くんじゃないよ」
奥の方から、しゃがれていながらもよく通る声が飛んできた。
のそのそとカーテンの奥から現れたのは、尖った帽子こそかぶっていないが、どう見ても「森の魔女」としか形容できないような老婆だった。
背は低く、背中は少し曲がっている。
しかし、その目は驚くほど鋭く、年寄り特有の弱々しさとは無縁だ。
「ありがとうございます。助けていただいて」
俺が頭を下げると、老婆はふん、と鼻を鳴らした。
「家のすぐ近くで死なれたら、こっちの気分が悪いからね。あんた、仙師って感じでもないのに、こんな森の中で何やってたんだい」
確かに、今の自分はどう見ても戦う者ではない。
別世界から来たことはひとまず伏せて、アルネスの町で目覚めたこと、金がなくてギルドで討伐依頼を受けたこと、グリムレットを狩っていたらゴブリンに囲まれて、気づいたらここにいたことを、ざっくりと話した。
老婆は腕を組み、じっと俺を眺める。
「ふむ……あたしゃそこそこ長く生きてるし、この世界のあちこちを旅したがね。そんな妙な服装の部族なんて見たことも聞いたこともないよ。アンタ、まだ何か隠してるだろ?」
視線が、妙に刺さる。
嘘をついても一瞬で見抜かれそうな目だ。
(……嘘ついたら、何されるか分からんしな....)
俺は、意を決して口を開いた。
「……信じてもらえるかは分かりませんが、俺の身に起こった事全て話します」
地球という星のビル群の立ち並ぶ日本で生まれたこと。
建設現場で鉄骨の事故に巻き込まれて、死にかけたこと。
正体不明の声の主に助けられた(?)こと。
そして、気づけばオークと人間が戦っている戦場にいたこと。
思いつく限りを、できるだけ正確に話した。
老婆は途中で何度も目を丸くしたり、眉をひそめたりしたが、最後まで口を挟まずに聞いてくれた。
「……ふぅむ。到底信じられる話じゃないがね」
話し終えた後、老婆は大きくため息をつく。
「嘘にしては筋が通ってるし、空想にしては事細かに話ができすぎてる、何より、あんたの顔は嘘をついてる感じには見えないねぇ...」
じろり、と視線が刺さる。
「あんた、その話が本当だとするとこの世界のことを何にも知らないんだろう? だったら、怪我が治るまでここにいな。」
「……いいんですか?自分で言うのも何ですがこんな怪しいヤツを...」
「あたしみたいにこの世界に長くいるとあんたみたいな変てこなのは好奇心を唆るからねぇ...」
老婆はそう言って、ニヤリと笑った。
「名乗りが遅れたね。あたしゃ、イレーネ。元・仙師さ。」
仙素という力
イレーネは、湯気の立つ茶をひとすすりしてから、ぽつりぽつりと語り始めた。
「この世界じゃね、人間と魔物、そして歪人の争いが、ずーっと昔から続いてる。あんたがいた街――アルネスもね――最近は魔物どもの動きが活発になってて、仙師たちがあちこち駆り出されてる。不運だったねぇ、よりによってオークと仙師の戦場なんかに連れてこられるとは」
「歪人?」
亜人かなんかだろうか。
「あんたの世界には歪人は存在しないのかい?歪人ってのは言わば人類の敵...って言えばいいのかねぇ...」
煮え切らない言い方で老婆は言う。
人類の敵...見た事もないが仲良くはなれなそうだ。
「……そういえば、あの時。仙師?でしたっけ、火の玉みたいなものを放ってました。あれは、一体...」
「確かにあんたの話の中に仙素や仙師はなかったね。この世界も仙素が無ければあんたの世界に近いものになってたのかもしれないねぇ...話を戻そうか、あんたの見た火の玉、それは“仙術”だよ」
「仙素、仙術……?」
「この世界のあらゆる生命には、“仙素”って呼ばれる命の源が流れてる。人間みたいに知恵あるもんは、その仙素を扱って、いろんなことに活用するわけだ。火を出したり、水を操ったり、身体能力を強くしたりね」
もう完全にファンタジーだ、今更驚かないが。
「あっ、もしかして、俺がこの世界に連れてこられたのも、その仙術とやらのせい、なんでしょうか」
俺の問いに、イレーネは一瞬、目を細めた。
「そんな芸当、聞いたことないよ.神様でもいなきゃ成せないことだろうねぇ……」
それ以上は語らず、イレーネは首を振った。
(何か、引っかかってる感じだな……)
「ま、あんたが何でこの世界に来たかを知るにしても、生き延びるにしても――まずは力がなきゃ話にならないさ」
イレーネはにやりと笑い、俺を指差した。
「中々おもしろい話も聞かせてもらったしね。あたしがあんたを鍛えてやるよ。これでも昔はそこそこ実力のある仙師だったからね」
最初は取って食われるものかと思ったが人は見かけによらないみたいだ。
「何から何まで助かりま...」
.....グゥゥ〜
心の底から感謝の念を伝えようとすると、腹の奥から情けない音が鳴った。
「……」
気まずい空気に耐えかねていると、イレーネが肩をすくめた。
「あんた、この世界に来てからまともに飯も食ってないんだろ。まずは腹ごしらえしな。この世界の食事ってやつを作ってやるよ」
イレーネは立ち上がり、慣れた手つきで鍋や食材を準備し始めた。
しばらくして、テーブルの上に湯気の立つ皿が並ぶ。
香草で味付けされた肉のスープ、見たことのない芋のようなものをつぶして焼いたもの、そして黒いパンのようなもの。
「さ、食いな」
「いただきます……」
スープを一口すすると、香草と肉の旨味が口いっぱいに広がった。
地球のジャンキーな食べ物と比べるとやや素朴な味だが、妙に体に染みる。
「……うま」
思わずこぼれた本音に、イレーネはニヤリと笑う。
「そりゃよかった。仙師は長生きだからね。まずい飯なんか食ってたらやってられないよ」
貪り食らうように腹を満たし、気絶するように眠りについた翌朝。
目を覚ますと、体の痛みがほとんど引いていることに気づいた。
「……あれ、もう動く」
恐る恐るベッドから降りてみる。
まだ違和感はあるが、歩くことはできそうだ。
「それも仙術のおかげさ」
いつの間にか背後に立っていたイレーネが、ふふんと鼻を鳴らした。
「肉体の再生を早める仙術をかけてやった、傷が浅けりゃ、一晩である程度まで回復するさ」
(あんな魔物が住む世界で回復手段がなけりゃそりゃやっていけないよな...)
「もしかして、死んだ人を生き返らせたりとかも――」
純粋に気になった俺の言葉を、イレーネは即座に切り捨てた。
「それは無理だよ。仙術は確かに便利だが、全能って訳じゃない。死人を蘇らせたり、瀕死の重症を完全に治癒したりはできない。仙素はあくまで“生きてるもの”を後押しする力だ」
「……そう、だよな」
ふと親父のことが、頭をよぎる。
もしこの世界に、死者蘇生の力なんてものがあったら――と、一瞬だけ考えてしまった自分を、心の中で苦笑いしながら打ち消した。
「さ、そろそろ“仙素の基本”ってやつを教えてやろうかね、来な」
イレーネは、家を出た所にある木の前に俺を立たせる。
「仙術で一番大事なのはね、“イメージすること”さ。ソレが本当に起こっていると錯覚する程の想像力が、空想を現実に引きずり出す」
そう言って、イレーネは片手を前に突き出した。
「よく見てな」
次の瞬間、イレーネの手のひらの前に、ふわりと小さな火球が浮かび上がった。
メラメラしたオレンジ色の光が、部屋の中を揺らす。
「これが、仙術の訓練で一番最初に教えられる“火球”(ファイアボール)だ。とりあえず、あんたもやってみな。手から火を出すイメージをするんだよ。」
俺はごくりと唾を飲む。
「……分かりました」
期待と不安が入り混じった声で言う。
見た通りに、手を前に出す。
目を閉じて、集中する。
ガキの頃は馬鹿みたいに練習してた魔法。フィクションで飽きるほど見てきた魔法。そのイメージを、ありありと頭の中に描く。
(手の前に、炎の球が浮かんで――)
視界の裏側で、イメージが鮮明になっていく。
だが、火は宿らない。
(そりゃ、そうだよな...)
「才能、ないか...」
「若い奴は諦めるのが速いねぇ...誰でも当たり前にできるもんじゃねぇさ、普通は1ヶ月ほど必死こいてやっと手が熱くなる程度だよ」
呆れた声で続ける。
「あんた...オークを倒した時、仙師の死体の剣を持ち上げてオークの顔面を貫いたってさっき抜かしてたじゃないか、そんなヒョロっちい体でそんな事できるとは思えん、恐らく死地に追い込まれて仙素が反応したんだろう、いいから続けな」
確かに、オークを倒した時、腕がちぎれると思うくらい必死に力んでいた気がする...。俺は魔法なんて存在しない世界で生きてきた人間だ。心のどこかで自分が魔法なんて使える訳がない...そう自己暗示を掛けているのかもしれない。
「そうだ...」
魔法を使えない自己暗示を
掛けているなら魔法を使える自己暗示を掛けてみては?...昔、テレビで見た催眠術を頭の奥底から取り出す。
「あと、仙術を出す時は技の名前を発声するといい、言葉に出す事でイメージが鮮明になりやすい」
イレーネの言葉を取り入れる。
余計な思考を、押し込める。
――無理だ。
――できるわけがない。
そんな考えを、意識の外へ追い出す。
(イメージするんだ……)
手の前に、炎がある。
揺らめき、燃えている。
熱が、そこにある。
思い出すんじゃない。
――“今、そこにあるもの”として捉える。
「火球」
――
「アッツッ!」
突然の熱に目を開ける。
目を開けると、掌の前には、パチパチと弱弱しい炎がいた。
「お、おおおお……!、アッツ!」
変な声を出しながら熱さにジタバタする。
すると集中が途切れてしまったのか火が消えてしまう。
イレーネの目が、まん丸に見開かれた。
「あんた才能が無いなんて言ってたがかなり筋がいいじゃないか、もしかしてあんたの世界の人間は仙素の適性が高いのかねぇ...」
「確かに、創作物でそういった物の想像や妄想なんかを数え切れないほどしてきたしなぁ...」
「数日は火球だけを集中しようと思ったがやめだ、あんたにはもう1つ、この世界で最も重要な仙術を教えるよ」
イレーネは再び手をかざす、だがその手は明らかにこちらを向いている
「お、おいおい!何する気だ!?」
「早とちりすんじゃないよ!あんたに何かしようってんじゃない、あたしの手を思い切りぶん殴ってみな」
そういうとイレーネは挑発的な顔で手をヒラヒラさせる
「殴るって...ヒョロく見えるが、俺だって男だぞ?それにおばあさんを殴るのは良心が...」
「グダグダうるさいねぇ!この世界じゃあんたは虫ケラみたいなもんだよ!さっさとおやり!」
「ま、まあそこまで言うなら...」
イレーネの剣幕に思わず押される。
そして、思い切り振りかぶって拳を手のひらに叩きつける。
ゴッ!
まるで石と石がぶつかったような鈍い音が響く
「ウッ!?痛ってぇッ!?」
思わず涙が出る鈍い痛みが拳に来る。
「ハッハッハ!ババアを舐めてるからこうなるんだよクソガキが!」
ケタケタと嬉しそうに魔女が言う。
「いいかい?これは仙師が最も使う基本的な仙術、仙纏だよ。仙纏とは仙素を己の体に纏わせ身体能力を向上させる、魔物に対抗する技だよ」
すると今度はイレーネは木の前に立つ。
「仙纏は防御は勿論、攻撃にも利用できる」
イレーネが拳を構え木に向かって拳を放つ
バキャッ!
気持ちのいい音ともにイレーネの拳は木を貫通する。
「これ...俺に殴らせる必要あった...?」
「あたしの教訓では仙素ってのは身体で覚えるのが一番手っ取り早いのさ、ほれとりあえずそこの木でやってみな」
反論したい気持ちを抑え集中を高める。
さっきのイレーネの手は鉄を殴ったのかと錯覚するほど硬かった、自分体が鉄になるのをイメージする。
ほんの少しだけ体に力が湧いてくる気がした。
「仙纏」
目を開け木に向かって正拳突きを放つ。
コッ!
乾いたような軽い音と拳に痛みが走る。
「ま、最初はそんなもんさね、これからは常に仙纏を意識しな、仙纏は仙素を感じ取るのにいい練習になるからね」
そこからはひたすらに仙纏を意識しながら火を出す練習を続けた。
しかし2つの仙術を同時に行う事で意識が分散され最初と比べて上手くいった実感はあまり湧かない。
「ハァッ...!なんか...クラクラしてきた...」
「体内の仙素量が減ってきたんだろうね、仙素をちゃんと使えてる証明だ、いい傾向だよ」
「仙素量ってのは生まれつきで決まったりするのか?」
「勿論生まれつきの才能や骨格で最初から多くの仙素量を持つものもいるが、仙素の扱いに慣れれば慣れるほど量は増えるね、仙素ってのは質量のないエネルギーみたいなもんさ、食事や睡眠により得られる仙素を無意識にどれほど体内に抑えられるかで仙素量は上下する、仙素量が多ければ多いほど無意識に維持するのが難しくなるが、仙素を普段から使えばこの能力はどんどん成長していくからね」
「なるほど...全く意識していない今でも俺は仙素を体内に格納しているのか...」
「それじゃ、今日はもう寝て仙素を回復させな...明日から地獄が始まるんだからね」
「え?」
そうして俺の仙素修行の1日目が幕を閉じた。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
本作は制作途中のため、今後の展開や構成の都合により、ストーリーや設定、名称などに調整・変更が入る場合があります。
より良い作品になるよう試行錯誤しながら執筆しておりますので、温かく見守っていただけると嬉しいです。




