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死にかけて異世界に飛ばされたのにチート貰ってないのですが~アブソリュートスレイヤー~  作者: もさん


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第1章2話

本作は現在制作途中の作品となっております。

そのため、今後の展開に応じてストーリーや設定、名称などに調整や変更が入る可能性があります。

できる限り違和感のない形で更新していく予定ですが、あらかじめご了承いただけますと幸いです。

柔らかい布の感触が背中にある。

 鼻の奥に、薬草と消毒液が混ざったような独特の匂いが刺さった。


(……ここは)


 ゆっくりと瞼を開ける。

 そこは、綺麗ってほどではないが、それなりに清潔さは保たれている部屋だった。

 石と木で組まれた壁。窓から差し込む光。粗末だがきちんと整えられたベッドの列。

 見慣れない天井――いや、そもそも部屋全体が「知らない世界の病院」みたいな空気を纏っている。


 俺はとっさに上体を起こそうとして、脚に鈍い痛みが走るのに顔を歪めた。


「……ッ!...いってぇ……」


 包帯がぐるぐる巻きにされている。血は止まっているようだが、まだじんじんと熱を持っている。


「エルダ・ノクス……シェラ=ヴァイン」


 近くから声がした。

 振り向くと、簡素な鎧を着込んだ男が椅子に腰掛けていた。


「ヴァル=ネア?」


「……あ、えっと...」


 喋っているのは明らかに人間の男だ。

 それなのに、その口から出た音は、俺の知っているどの言語とも違っていた。


(何言ってんだ……? 英語でも中国語でもない……)


 兵士の男は首を傾げ、俺の顔を覗き込む。


「ルクス、ヴァルネ……? シア=レド……ゼル?」


 音としては聞き取れる。だが意味にならない。

 脳の表面を言葉が滑っていくだけで、理解が追いつかない感覚。


 言葉が通じない。

 それだけで、急に心細くなった。


「っ……」


 何か言おうと口を開いた瞬間――


 ズキン、と頭の奥が強く締めつけられた。


「ぐっ……!」


 額を押さえる。視界の端が白く弾ける。

 同時に、脳内に情報が流れ込んできた。

 。分厚い書物を一気に全部読み込んだような疲労感がくる。


 ――


(今の情報は…言葉か…!?)


 まるで自分の記憶であるかのように脳に焼き付く。

 だが、俺はこんな言語を知らない。


 頭痛が突如ふっと軽くなる。

 息を吐き、顔を上げた。


「おい、本当に大丈夫か? 顔色がひどいぞ」


 さっきまで意味不明だった言葉が、今度ははっきりと慣れ親しんだ日本語と同じように理解できた。


(……あれ、この言葉は...)


 自分でも戸惑いながら、恐る恐る口を開く。


「あ、あの……助けていただき、ありがとうございます」


 兵士の目がぱちりと見開かれる。


「おお、喋れるじゃないか。アンタ3日も寝てたんだぞ。最初は全然反応がなかったから、てっきり言葉が通じないのかと思ったぞ」


 言葉が通じている。

 さっきの莫大な情報が、まるで言語パックでもインストールしたかのように、俺の中に定着している感覚がした。


(……これは、あの謎の声の仕業なのか...?もしそうならチートやスキルの1つでも欲しいもんだが...まあいい.....)


 自分でもよく分からない。だが、理解できるならそれでいい。


「ここは、どこなんですか?」


 ストレートに尋ねると、兵士は少し驚いたように眉を上げた。


「ここは王都ルーベルトのはずれにある小さな町、アルネスだ。お前さんはそのすぐ近くの戦場で倒れてたのを、俺たちが拾ってきたってわけだな」


 兵士は胸を軽く叩いて笑う。


「俺はカイル。アルネス駐屯隊の仙師だ。で、あんたの名前は? どこから来た?」


 

仙師?兵隊的な意味だろうか...


名前。

 出身。

 その単語に、思考が一瞬止まる。


(素直に『日本から来ました、さっきまで鉄骨に潰されてました』って言うのは絶対違うよな……?)


 自分で想像してみても、頭がおかしいとしか思われない。

こんなよく分からない世界でそんな事言うのはリスキーだろう。


そもそも、あの事故の瞬間をどう説明する?

 あの時、俺はほぼ確実に死にかけていた。

 意識が消えかける中で、急に目の前が藍色の空間になって、謎の声を聞いて――気づいたらオークと人間が殺し合う戦場のど真ん中にいた。


(転生……っではなさそうだよな...あの声はまだ生きてるみたいな事言ってたし...。どっちかっていうと転移させられたって方がしっくりくるな.....)


 現実離れしすぎていて、自分で考えてても頭がおかしくなりそうだ。


「……名前は、ゲンジって言います」


 とりあえず本名だけは隠してもしょうがない。


「出身とかは……よく分からない、というか。気づいたらあそこで倒れてて……。記憶もあやふやで、何も持ってなくて、文無しってところです」


 なるべく“記憶喪失の不幸な男”っぽく、言葉を慎重に選びながら話す。


 カイルは顎に手を当てて、じっと俺の格好を眺めた。


「ふむ……確かに見たことのない服だな。遠い土地の部族かと思ったが……記憶を失ってるってんなら、それ以上は無理には聞かないさ」


 そう言って、彼は少しだけ肩をすくめる。


「災難だったな。近頃は魔物どもの動きが激しくなっててな。この街も物資は足りてない、あまり大した援助はしてやれんが……」


 カイルは腰の袋から小さな革袋を取り出し、俺の枕元にぽんと置いた。


「これくらいならオーク討伐報酬の余りからなんとかできる。1週間程度ならこの街で過ごせるくらいの金だ。……せっかく生き延びたんだ。大事に使えよ。」


 革袋を握ると、ジャラ……と金属の触れる音がした。


「……ありがとうございます。本当に助かります」

カイルの優しさに感動する。


「礼なんざいらねえよ。オークの群れの中から無防備で生き残る奴なんてそうはいねえ。運だけは良いみたいだ。ちゃんと活かせよ」


 カイルは笑い、ひらひらと手を振って医療室を後にした。


 残されたのは、ベッドの上の俺と、小さな革袋と――知らない世界。


「さて……これからどうすりゃいいんだ?」 


ようやく本格的に、自分の置かれた状況を考える余裕が出てきた。


 死んだと思ったら、異世界。

 魔物と人間が争い、 言葉はよく分からない「何か」でどうにかなったが。


(……やっぱ、異世界転移とか召喚とか、そういうやつなんだろうな。笑えんが...)


 笑えないが、どうやら現実だ。


とりあえず、ここで飢え死にするのだけは御免だ。


俺は医療施設を出て、アルネスの町を歩いていた。


「お……おお……」


 思わず、感嘆の息が漏れる。


 高層ビルもコンビニもない。

 代わりにあるのは、映画のセットから飛び出してきたような中世風の街並みだ。


 石畳の通りの両側には、木と石で組まれた家々。

 布を張った露店からは、香ばしい肉の匂いや、見たこともない魚を焼く匂いが漂ってくる。

 吊るされた香草、色鮮やかな果物。


 通りの向こうには、鏡のように光を反射する剣や鎧を飾った店も見えた。


(これ……流石にテンション上がるなぁ...)


 状況としては「見ず知らずの地に一人放り出された無一文」なのに、

 視界に映るものは、フィクションの世界で散々見た「異世界」そのものだ。


 革袋の中の金を指で確かめる。

 数枚の銀貨と銅貨。価値はまだよく分からない。宿の相場を壁の張り紙でざっと確認したところ、カイルの言う通り一週間は過ごせそうだった。


だが、のんびり観光している余裕はない。


(気になることは山ほどあるけど……まず金策だな。働かないと待つのは餓死だけだ...)


 通りで荷物を運んでいたおじさんに、恐る恐る声をかけてみた。


「あの、すみません。この街で、手っ取り早く金を稼ぐには、どうしたらいいでしょうか」


「手っ取り早く? そりゃあ、ギルドだな。腕に自信があるなら、魔物退治でもなんでもやりゃいい。仙師じゃなくても、雑用の依頼もあるだろうよ」


 流石異世界、やっぱり出てきたギルド。


 おっちゃんに教えられた方角へ歩いていくと、すぐに目立つ建物が目に入った。

 周囲の家より一回り大きく、立派な木の看板に「仙師ギルド」と彫られている。


「“いかにも”ってやつだな……」


緊張を押し込み、扉を開ける。


 中は思った以上に賑やかだった。


 壁際には大きな掲示板があり、そこに貼られた紙を真剣な表情で眺める人々。

 奥には酒場のようなカウンターがあり、飯や酒を前に談笑する鎧姿の男たちやローブの女がいる。


 受付カウンターには、書類をまとめている若い女性がいた。


 俺が近づくと、ぱっと愛想よく顔を上げる。


「こんにちは。どのようなご用件でしょうか?」


「あー、その……誰でもできるような、簡単な依頼って、ありますか?」


 いきなり「異世界初心者なんですけど」なんて言えるわけもなく、できるだけ普通っぽく言う。


「仙師じゃなくてもできる仕事という感じですかね?」


 受付嬢は俺の服装を上から下まで見て、苦笑した。


仙師とやらの服装とは程遠いのだろう。


「正式に仙師登録していない方でも受けられる簡単な依頼ですと……そうですね、グリムレットの討伐が最も簡単ですよ」


「グリムレット? どんな魔物なんですか」


 聞き慣れない単語に眉をひそめると、受付嬢は慣れた口調で説明を始めた。


「ゴブリン族の下級種です。危険度は最低ランク。新人さんの腕試しにぴったりですね。身長はせいぜい成人男性の腰くらいまで。ゴブリンと比べるとだいぶ痩せコケていますし、持っている武器も木の枝や、錆びた短剣程度です。……その分、報酬も日銭程度ですが」


(なるほど、チュートリアルモンスターって感じのやつか……)


 ついゲームみたいな感覚で位置づけしてしまう。


 とはいえ、俺はオークを一体とはいえ殺している。

 まぐれとはいえ、あの巨体にトドメを刺したのだ。


(あの化け物よりはマシだろ……流石に)


「じゃあ、それをやります」


「はい、承知しました。それではこの腕輪をつけておいてください」


 受付嬢は、金属でできた簡素な腕輪を差し出した。


「討伐した魔物の数などは、その腕輪で確認されます。後で買取業者が森に入って、死体を回収してくれますから大丈夫ですよ。あ、後、森には普通のゴブリンもいますから、くれぐれも気をつけてくださいね〜」


 最後の語尾だけ妙に軽い。


(普通のゴブリン……まあオークよりは弱いだろうけど...出会わないに越したことはないよな)


 腕輪をつけ、軽くお辞儀をしてギルドを出た。


アルネスの町から少し外れると、すぐに鬱蒼とした森が広がっていた。


「……金に困って、とりあえず討伐依頼とか受けちゃったけど……」


 森の入り口で立ち止まり、自分で自分に呆れたように呟く。


「よく考えたら、今から“魔物”を殺しに行くんだよな……」魔物、なんてフィクションの世界でしか聞かないがこの世界ではちゃんとした生物だ、しかも人間の腰ぐらいの大きさはあるらしいし、そんなのを殺せるだろうか?


とはいえ、俺にはあとが無い。


 ここでビビって引き返しても、金が尽きれば本当に終わりだ。


 足元に、手頃な木の枝が落ちていた。

 先端が尖っていて、即席の槍のように使えそうだ。

それを拾い上げる。


 不安を紛らわせるように握り直していると――


 遠くで、小さな影が動いた。


 サッと木陰に身を隠し、そっと様子を伺う。


「あれが、グリムレットでいいんだよな...」


 緑色の肌をした、やせ細った小さな魔物。

 身長は確かに俺の腰くらい。

 ぼろ布のような腰巻きをつけ、手には木の棒とも剣ともつかないものを持っている。

 近くの地面を掘ったり、鼻を鳴らしたりして、うろうろしている。


(確かに、強そうじゃないな……)


 そっと距離を詰める。

 一歩、一歩――


ミシッ。


 乾いた枝を踏み砕く音が、森の静けさの中に響いてしまった。


 グリムレットの耳がぴくりと動く。

 黄色い目がこちらを向いた。


「……やべッ」


 俺の声に呼応するように、ぎゃ、と甲高い声を上げると、グリムレットはどう見ても敵意むき出しの顔で突進してきた。


「お、おい! 普通に襲ってくるのかよ!」


どこかで「雑魚は逃げ出すもの」と勝手に思っていたせいで、余計に焦る。


 とはいえ、動きは遅い。

 ふらつくように走り、木でできたぼろい剣を振り下ろしてくる。


(これならッ――!)


反射的に前蹴りを繰り出す。

 靴底が奴の顔面を捉え、「グギャッ!」と情けない悲鳴とともに、グリムレットは仰向けに派手に倒れた。


「悪いな……!」


心臓が跳ねるのを感じながら、倒れた首元めがけて木の棒を思いきり突き立てる。

 ぐぷ、と嫌な手応え。

 しばらくバタバタともがいていたが、やがてぴたりと動かなくなった。


 青い匂いと鉄の匂いが、鼻を刺す。


「……ふぅ。これなら、なんとかなりそうだな」


そう自分に言い聞かせながら、その後も慎重に森を歩き、何匹かのグリムレットを同じように仕留めていった。


「そこそこ狩ったし……そろそろ帰るか」


 腕輪がほんのり光っている、そこそこ倒したということだろうか。

まあこれだけ倒せば日銭にはなるだろう。


 安堵と疲労が混じったため息をついた、そのとき――


 ガサッ。


 近くの茂みが大きく揺れた。


「……?」


 振り向いた瞬間、言葉を失う。


 グリムレットとよく似た体格だが、明らかに肉付きが良く、目つきも鋭い。

 手には、さっきまでの木の棒とは違い、使い込まれた鉄の短剣。


 そいつが、一匹、二匹、三匹、四匹――ぞろぞろと茂みから現れ、俺を囲むように散開した。


「ゴブリンか……!」


なんて言っている間にも、奴らは素早く位置を取り、完全に包囲してきた。


(やばい、コイツら統率が取れている……!)


ひときわ前に出た一匹が、低く唸るような声を上げ、そのまま飛び込んでくる。


「っ……!」


 グリムレットよりは明らかに速い。

 だが、対応できないほどではない。


 さっきと同じように顔面めがけて前蹴りを叩き込み、そのまま木の棒を真っ直ぐ首に突き立てる。


 ――その瞬間。


 ズバッ。


「っぐあぁ!?」


 背後から、鋭い熱がふくらはぎをえぐった。


 治りかけていたはずの脚が、また焼けつくような痛みに支配される。


「クソがッ……!」


 突き立てた木の棒を手放し、背後のゴブリンに振り向きざまに裏拳を叩き込む。

 小柄なゴブリンの顔面に拳がクリーンヒットし、そいつは地面に叩きつけられた。


グシャッ!


その頭を躊躇なく踏みつける。

 骨が砕ける感触と、ぬるりとした嫌な感覚が足底を通じて伝わってきた。


(生き物だからって躊躇してる場合じゃねぇ……!アッチも本気で殺りに来てんだッ...!)


 動かなくなったゴブリンが持っていた短剣を素早く拾い上げる。

 残りは二体。


左側から飛びかかってきたゴブリンの喉元めがけて、ありったけの力で短剣を突き出す。

 刃が喉を貫通し、そのまま頭蓋にぶつかる感触。


 同時に――


「っ……!」


 右側から、合わせるように接近していたゴブリンの短剣が俺の横腹を刺し貫いた。


「ああああッ……!」


 激痛が全身を襲う。

 だが、ここで止まったら、本当に終わる。


 喉に突き立てた短剣を乱暴に引き抜き、そのまま足元にしがみついているゴブリンの頭に突き刺した。


 がくり、と体から力が抜け、最後の一匹も地面に崩れ落ちる。


「っ、はぁ……はぁ……マジで……死ぬとこだった……」


 息が荒い。

 脚と横腹からは止めどなく血が流れ、視界の端が暗くなっていく。


「出血が……早く、戻らないと……」


 一歩踏み出すたびに、足元がぐらりと揺れた。


 それでも、なんとか森の外を目指して歩き続ける。


 やがて、世界がぐにゃりと歪んだ。


 石につまずいた拍子に、そのまま前のめりに倒れ込む。


 地面の冷たさが、遠のいていく意識と一緒にぼやけていった。


(この景色.....またかよ……)


 耳の奥で、誰かの足音が聞こえた気がする。


(だ……誰だ……)


 そこまで考えたところで、意識は暗闇に沈んだ。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

本作は制作途中のため、今後の展開や構成の都合により、ストーリーや設定、名称などに調整・変更が入る場合があります。

より良い作品になるよう試行錯誤しながら執筆しておりますので、温かく見守っていただけると嬉しいです。

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