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死にかけて異世界に飛ばされたのにチート貰ってないのですが~アブソリュートスレイヤー~  作者: もさん


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第1章1話

本作は現在制作途中の作品となっております。

そのため、今後の展開に応じてストーリーや設定、名称などに調整や変更が入る可能性があります。

できる限り違和感のない形で更新していく予定ですが、あらかじめご了承いただけますと幸いです。

――鼻を刺す、鉄の匂い。


 目を開けた瞬間、胸がぎゅっと縮んだ。

 まず見えたのは、赤黒く染まった土だった。焦げ臭さが混じり、空気そのものが死んでいるような匂いを放っている。

 ゆっくりと視線を上げる。


 転がる無数の死体。酷いものは臓腑が飛び出ている。散乱した剣、折れた盾、吹き飛んだ鎧片。

 よく見えないが、人間の兵士らしき者たちの死骸に混じって、巨大で獣じみた怪物の死体も倒れている。


(な、なんだよこれ……どこだ、ここ)


 自分の声が震えているのが分かった。

 さっきまで俺は、雨の中の建設現場にいた。鉄骨が傾き、落下し――

 身体が潰れた、あの瞬間の感覚は、まだ皮膚の裏に残っている。


 ……なのに。


 自分の体を確かめると、あの致命的な潰れ方が跡形もない。

 骨の軋みも、激痛も、血の痕さえ残っていない。


 服は土埃と返り血のような汚れで汚れている。手に力を入れても痛みはない。顔に触れても、皮膚の裂けた感触がない。


(これは、夢、なのか……?)


 冷たい風が容赦なく頬を撫で、泥の湿気が足元から伝ってくる。

 信じられないが、“生きている”感覚だけが妙にリアルだった。

 混乱だけが、胸の奥を埋め尽くしていく。


 ザッ……ザッ……。


 状況把握に手間取っていると、背後で大きな足音が近づいてくる。

 土を押し潰す、湿った重たい音。

 嫌な汗が背中を伝った。


 振り向いた瞬間――心臓が跳ね上がる。


「オ、オオオ……」


 目の前に立っていたのは、まるでフィクションの世界から現実に抜け出したかのようなオークだった。

 分厚い黄色がかった皮膚、猪のような鼻、むき出しの牙。

 粗末な革鎧をまとい、鉄斧を肩に担いでいる。

 緑の眼がぬらりと光り、俺を見て嬉しげに歪む。


 しかも、一体ではない。

 左右の丘の陰、瓦礫の向こう――次々と姿を現す。

 五体、十体……いや、それ以上。


 あっという間に囲まれた。


「う、うわぁ……!?来るなッ!」


 叫んでも、反応はない。

 むしろ、おもちゃを見つけた子供のようにケタケタと笑い合う声が返ってくるだけだ。


 舐め回すような視線。

 下卑た笑い。

 牙を鳴らす音。

 わざと武器を打ち鳴らし、俺の怯えを楽しんでいる。


 ――なんとなく理解した。

 この後、自分に何が起きるのか。

 本能が、拒絶するように告げてくる。


 恐怖で、体が壊れそうになる。


 その群れの中から、一体が前へ出た。


「グルォ……ボルゥシャ……ガルッ!」


 意味は分からない。だが――

 “俺がやる。お前らはそこで見ていろ”

 そんなところだろうか。


 巨大なオークが、ゆっくりと歩み寄ってくる。

 獲物が見せる恐怖を、味わっている。


 腰が抜け、後ずさる。


「く、来るな……来るなって……!」


 その言葉に反応したのか、オークの口元がさらに吊り上がった。


 そして――

 斧が振り下ろされる。


 ズバァンッ!


「ッ……!?」


 肩に鋭い痛み。

 焼けるような感覚と共に、鮮血が噴き出す。


 浅い。

 多分――わざとそうしたのだろう。

 死なない程度に。

 嬲るために。


(これは、夢じゃない……!)


 痛みが、あまりにも痛すぎる。

 筋肉が裂ける感覚。血の匂い。

 全部が“本物”だ。

 思考が、痛みに飲まれていく。


(さっき、変な声が聞こえて……それでここに……)


 頭の中にバカバカしい考えが浮かぶ。


(まさか……ここって……異世界ってやつ……?)


 震える手を空にかざす。

手は空を切るだけで何も起きない。


(なんかスキルとか……あんだろ...そういうのないのかよ……)


 希望が、あっさり折れる。

 次の一撃で、終わる。


 ――死ぬ。

 ……死ぬ?


(……なんで俺、こんな必死になってんだよ)


 ついさっきまで。

 どうでもよかったはずだ。

 生きるのも、死ぬのも。

 あのまま鉄骨に潰されて終わってもいいと、どこかで思ってた。


 なのに。


(なんでだよ……なんでこんなに、怖ぇんだよ……!)


 心臓が暴れる。

 息が荒れる。

 体が、勝手に生きようとしている。


 ――ふざけんな。

 死にたくないなんて、今さらかよ。


 だが、その時。

 恐怖の奥底に――

 まったく別の感情が、混ざっていることに気づいた。


(……でも……これ……)


 こんな状況なのに。

 気分が高揚しているの気づく。


 散らばる剣。魔物。戦いの跡

 全部、作り物じゃない。

 現実だ。

 血も、痛みも、恐らく全部。


 なのに。

 男なら、一度は夢見る世界だ。

 そのど真ん中に、自分はいる。


 最悪の状況だが。


 足を引いた瞬間、何かに触れた。

 硬い。

 ――死体だ。


 その手元に、一本の剣。

 血と泥がこびりついた刃。


 ここは、人間とオークが戦い――

 人間が負けた戦場の中心。


(……俺も、こうなっちまうのか)


 その時。

 不意に、父の声が蘇る。


「ゲンジ、どんなに辛くても……孤独でも、必死にもがいて生きろ。幸せになれよ」


「親父はどうなんだよ……幸せなのかよ」


「俺か?俺は幸せに決まってんだろ?」


 笑いながら肩を組んできた、髭面の親父。

 ――なんで今、思い出したんだろう。

走馬灯ってやつだろうか。


 胸の奥で、何かが弾けた。

 情けなく生きることから逃げていた自分。

 全部に、腹が立つ。


(一回死にかけたんだ……)


 拳を握る。


(折角拾った命……捨ててたまるかよ!)


 恥も、プライドも、全部捨てる。

 生きるためだけに、思考を回す。


「うっ、うわぁあああ!」


 わざとらしい怯えた声を上げながら後ずさる。

 本当に体は震えているが、それでいい。


 そのまま、そっと手を後方の地面へ伸ばす。

 硬い感触――剣の柄。

 触れた。


 周囲のオークが囃し立てる。

早くしろと急かしているようだ。


 それに呼応するように、目の前のオークが斧を振り上げる。


 ――今だ。


「うおらあああぁっ!!」


 地面を蹴る。

 剣を掴み、全力で突っ込む。

本来なら持ち上げるのも精一杯だろう。

だが、腕が折れても構わないほどの力みで剣を持ち。

 突き出す。


 オークはまさか獲物が突っ込んでくるとは思わなかったのだろう。

反応が遅れた。


 刃が顔面に触れる。

 ぐにゅ、と。

 眼球を貫く感触。

 骨に当たる鈍い衝撃。


「ガァアアアアア!!」


 絶叫。

 だが次の瞬間――

 斧が振り下ろされる。


「ぐぁああああああああああああああッッ!!!」


 焼ける。裂ける。砕ける。

 肩の傷口に、さらに叩き込まれる衝撃。

 視界が弾ける。


 それでも。

 剣を離さない。

 両手で抱え込み、そのまま体ごと押し込む。


 オークの体が群れの中へ傾く。

 倒れる勢いに乗り――

 そのまま、群れの隙間へ飛び込む。


(逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ!!)


オーク達の怒号が左右から響いてくるが身を屈めながら走り抜き、全速力で逃走する。


 死体を踏み越え、泥を蹴り、走る。

 恐らく人生で一番速く。


 だが――


 ヒュッ。


「がッ……あああああああああッ!!!」


 ふくらはぎを貫く痛み。

 矢だ。

オーク共がこちらに撃ってきたのだろう。


 脚が崩れる。

 地面に叩きつけられる。

 呼吸が乱れる。

 視界が白く染まる。


「クソッ……結局こうなんのかよ……」


 その時。


 ドドドドド――ッ!


 大地を震わせる音。


「――!! ――!? ――!!」


 聞いたことのない言語。

 金属音。怒号。

 騎兵が突っ込んでくる。


 剣が閃き、血が舞う。

 一人の兵士が叫び――

 綺麗な球体の炎が放たれる。

 オークが炎に包まれる。


(……魔法……?)


 現実が崩れる。

 誰かが俺を抱き上げる。


「――――!」


 声が遠い。

 視界が閉じていく。


(……やっぱり……ここは……異世界……なのか...)


 そのまま、意識は闇に沈んだ。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

本作は制作途中のため、今後の展開や構成の都合により、ストーリーや設定、名称などに調整・変更が入る場合があります。

より良い作品になるよう試行錯誤しながら執筆しておりますので、温かく見守っていただけると嬉しいです。

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