第2章10話
本作はカクヨムと同時掲載となっております。
また、本作は現在制作途中の作品となっております。
そのため、今後の展開に応じてストーリーや設定、名称などに調整や変更が入る可能性があります。
できる限り違和感のない形で更新していく予定ですが、あらかじめご了承いただけますと幸いです。
木々の隙間から暖かい光が差し込み、目が覚める。
「さて、アイツら探してみっか」
携帯食料をポリポリと齧りながら森の中を散策する。
――違和感。
魔物は基本的に人間と同じで、夜に眠り朝活動を始める。
だが、もうそこそこに日が出ている頃なのに、森がやけに静かすぎる。
仙師候補生に全て狩り尽くされてしまったのだろうか?
様々な憶測を巡らせていると――
それは突然現れた。
視界の奥に、横たわっている物が見える。
最初は魔物の死体かと思ったが、それはすぐに否定された。
「嘘だろ...?」
それは昨日、俺たちに試験のルールを説明していた試験監督の死体だった。
仙師候補生の死体ならば、まだ不運の事故で納得できる。
だが、正式な仙師……しかも恐らくこの人は仙士級だ。
この森の魔物程度に遅れを取ることは無いはず……。
すぐさま初日に配られた信号符を取り出し、空に発射する。
パンッと音を立て、色鮮やかな煙が立ち上る。
しかし数分待っても、誰も来る気配がしない。
「一体どうなってんだよ...」
最悪な予感が頭をよぎる。
(まさか……仙師候補生が試験官を殺したのか?)
同時に、一気に不安が募る。
シエルとリュカは無事だろうか。
2人を探しに駆け出そうとした時――
感じたことの無い仙素を感知する。
不安定な動きを繰り返し、歪んでいる。
――――――
森の奥で、霧がゆっくりと濃さを増していた。
白く滲む視界の中で、音だけが奇妙に歪む。
何かが確実に、この森の均衡を崩し始めていた。
森の霧が濃くなり、嫌な予感が背骨を走った。
視界が白く染まり、音が吸われる。
自分の足音すら、半拍遅れて聞こえる感覚。
「……おい?」
今朝、偶々鉢合わせ、お互い既に合格ラインに達していたので行動を共にしていた受験者の姿がない。
リュカはゆっくりと振り返った。
――そこにあったのは、先の男の死体だった。
胸部を斜めに深く裂かれている。
明らかに、試験にいる低級魔物の攻撃で受けた傷じゃない。
「……クソッ!どうなってんだよ!」
不安をかき消すように大声を出す。
リュカは両手斧を構え、ガッシリと握り込む。
刃は分厚く、実戦向けに重心が前にある。
同時に、仙纏の出力を上げておく。
「いるんだろ?出てこいよ」
恐怖を押し殺し、挑発する。
(...近くにいる、必ず)
霧の奥で、何かが動いた。
人影。
ゆっくりと歩み出てくる。
「ッ!?...歪人か!?」
散々小さい頃から教えられてきた歪人。
姿形は人間と酷似しているが、仙素が人間のそれとは違う。
ユラユラと歪んでいて、不規則な動きをしている。
身長はリュカより頭一つ高い。
肩幅が広く、軽鎧を着込んでいる。
だが、鎧の隙間から漏れる仙素は、不気味に歪んでいた。
赤黒く、脈打つような流れ。
顔立ちは人間と全く変わらない。
歪人は口元をニヤつかせて言う。
「……俺の存在に気づくとはな...他のやつはどいつもこいつも歯応えが無くて退屈していたところだ...お前は少しは楽しめそうだ...」
低く、掠れた声。
両手には、湾曲した双剣。
刃は薄く、しかし異様に長い。
「何故歪人が王都にいるんだ!?」
「そんなつまらないこと今はどうでもいいだろ?俺の名はザイル...行くぞ!」
言い終わるより早く、ザイルが踏み込んだ。
――速い。
リュカは反射的に斧を構える。
ガキィィン!!
金属と金属のぶつかり合いが霧を裂く。
衝撃が腕に直撃する。
「……っ!」
重い。
見た目以上の膂力。
ザイルは一歩も引かず、双剣を連続で振る。
受け止めきれない斬撃が皮膚を切り裂く。
(こいつ、強い……!)
リュカは後退しながら斧で受ける。
だが、完全には止めきれない。
肩を浅く切られ、血が滴る。
「ほら、どうした?」
「これは仙師になる為の試験なんだろ?もっと頑張れ」
ザイルの笑みが、濃くなる。
その瞬間、ザイルの仙素がより一層歪んだ。
「――血走りッ!」
ザイルの血管が、赤黒く浮き上がる。
呼吸が荒くなり、瞳孔が開く。
次の瞬間。
視界から、ザイルが消えた。
(……!?)
違う。
速すぎて、目で追えない。
背後から気配。
リュカは咄嗟に後方に斧を振り回す。
だが、斧は空を切る。
脇腹に、鋭い痛み。
「ぐっ……!」
リュカは歯を食いしばり、踏み込んだ。
「調子に……乗んなッ!」
斧を横薙ぎに振る。
「ヒュ〜!」と言いながら紙一重で避け、反撃の剣を突き出す。
体に届くギリギリでなんとか受ける。
何度も、何度も。
腕が痺れ、息が荒れてくる。
(間違いなく格上だろうな...)
だが――
「俺だって半端な特訓はしてねぇぞッ!」
自分の仙素をさらに絞り出す。
身体が、今の限界を超えて軋む。
だが、その一瞬。
世界が、少しだけ遅く見えた。
ザイルの動きが、僅かに鈍る。
(...見えるッ!...)
リュカは前に出た。
真正面から。
ザイルの剣を斧で弾き、全体重を掛けタックルする。
「なっ……!」
ザイルが目を見開く。
身体がグラつき、バランスを崩す。
リュカは叫んだ。
「――俺はなぁ!!」
斧を、振り上げる。
「器用な事はできねぇんだよォ!!」
全体重を乗せた、渾身の一撃。
――ズンッ!!
斧が、ザイルの肩口に叩き込まれた。
骨が砕ける感触。
「がぁぁっ……!!」
ザイルが膝をつく。
血が、霧に混じって舞う。
まだ微かに生きている。
「...俺がッ!こんなガキにッ!」
リュカは息を整えながら、斧をザイルの前に構える。
「お前、どうやって王都に入ってきた?」
ザイルは、斧を受けた肩を押さえながら、歯を剥き出しにして笑った。
骨が砕けているはずだ。
それでも、痛みを堪える素振りすら見せない。
「……王都に入った方法、か……」
血を吐きながら、肩で息をする。
「堂々と正門から入ったさ」
「そんな訳ねぇだろ」
即座に否定する。
「歪人の仙素を感知する防衛装置が反応するはずだ……」
思考を巡らせる。
だが――
次の瞬間。
ザイルの仙素が、再び膨張した。
赤黒い流れが霧へと溶け込み、周囲の空気ごと歪ませる。
ザイルの輪郭が、わずかに揺らぐ。
「もう油断はしない――血走りッ!」
ザイルの全身が赤黒く染まり、仙素が脈打つように膨れ上がる。
直後、踏み込んだ。
――速い。
先ほどよりも、さらに。
視界の端で、残像のように揺れる。
明らかに、出力が上がっている。
(血流を無理やり加速させて……仙纏で底上げしてるのか……!)
理屈は分かる。
だが、それを対処するのは別だ。
ザイルが消える。
リュカはそれを迎え撃つように斧を振る。
――だが、刃は空を切った。
「遅えんだよッ!」
背中に衝撃。
双剣が、背を裂く。
「ぐ……っ!」
踏ん張る。
倒れた瞬間、終わる。
(……考えろ)
ザイルの動きは速い。
だが――完璧じゃない。
無駄がある。
呼吸が荒い。
肩の傷も、確実に効いている。
(……ついて行こうとするな)
思考を切り替える。
追うな。
読め。
リュカは大きく斧を構え――あえて、大振りに振り抜いた。
明らかに外れる軌道。
ザイルが嗤う。
「見誤ったな!死ねッ……!」
――来る。
こいつの攻撃は近接のみ。
大振りの隙を見れば、必ず背後を取る。
そこに合わせる。
(……そこだッ!)
斧を振り抜いた勢いのまま、体を180度回転。
そのまま、下から斜め上へと振り上げる。
「……ビンゴッ!」
振り向いた先。
そこにいた。
双剣を構え、踏み込もうとしていたザイルの姿が。
――ガギンッ!!
手応え。
双剣の一つが、弾き飛ばされる。
「なっ……!」
予想外の一撃に、ザイルの動きが止まる。
その一瞬を逃さない。
踏み込む。
「オオオオオッ!」
斧の切っ先に、仙素を一点集中させる。
渾身の横薙ぎ。
刃が――ザイルの喉元を通る。
ザイルの首が、くるりと回りながら宙を舞った。
血が噴き上がる。
身体が崩れ落ちる。
動かない。
完全に沈黙した。
「……ハァ……ハァッ……」
荒い呼吸が漏れる。
斧を地面に突き立て、体を支える。
「……勝った……」
全身から力が抜けていく。
だが、意識はまだ繋いでいる。
「ハァッ……ゲンジ……シエル……あいつら無事なのか.....?」
あの二人は――
無事でいるのか。
胸の奥に、不安が残る。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
本作はカクヨムと同時掲載となっております。
また、本作は制作途中のため、今後の展開や構成の都合により、ストーリーや設定、名称などに調整・変更が入る場合があります。
より良い作品になるよう試行錯誤しながら執筆しておりますので、温かく見守っていただけると嬉しいです。




