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死にかけて異世界に飛ばされたのにチート貰ってないのですが~アブソリュートスレイヤー~  作者: もさん


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第2章11話

本作はカクヨムと同時掲載となっております。

また、本作は現在制作途中の作品となっております。

そのため、今後の展開に応じてストーリーや設定、名称などに調整や変更が入る可能性があります。

できる限り違和感のない形で更新していく予定ですが、あらかじめご了承いただけますと幸いです。

 木々の隙間から差し込む淡い光が、瞼の裏を薄く照らした。


 シエルは、浅い眠りから目を覚ます。


 最初に感じたのは、静けさだった。


(……静かすぎる?)


 鳥の声も、獣の気配も、ほとんどない。


 試験会場である結界の森は、本来なら低級の魔物が一定数放たれている。

 完全な安全地帯ではない。

 それなのに、今は妙に空気が澄みすぎていた。


 胸の奥に、小さな違和感が残る。


 だが、それ以上に――シエルは自分の腕輪へ視線を落とした。


 そこには、既に規定数を満たした証が刻まれている。


(……良かった)


 昨日の戦いは、夢ではなかった。

 自分は確かに魔物を倒し、試験の条件を満たした。


 安堵が胸に広がる。


 けれど同時に、どこか物足りなさもあった。


(……あの二人)


 ゲンジとリュカの顔が浮かぶ。


(探してみよっかな.....)


 シエルはゆっくり立ち上がる。


 服についた土を払い、呼吸を整える。

 そして、歩みを進めながら体内の仙素を薄く巡らせた。


 感知を広げる。


 木々の間を、目に見えない波が静かに通っていく。


 しばらくすると、仙素感知に反応が現れる。


(……人?)


 魔物ではない。


 仙素の質が違う。


 シエルは僅かに眉を寄せ、その方向へ足を向けた。


 落ち葉を踏む音を抑えながら進む。


 少し先。

 木々の隙間に、人影が見えた。


 近づき――足が止まる。


(最悪……)


 そこにいたのは、ザルクだった。


 学院で何度もしつこく絡んできた男。

 シエルを見下し、中傷し、執拗に突っかかってきた相手だ。


 そして、その隣にはもう一人。

 普段からザルクと行動を共にしている候補生の一人が立っていた。


 シエルに気づいたザルクが、ゆっくりと口元を歪める。


「よぉ」


 その声には、最初から良からぬ気があった。


「丁度いいとこに来たな」


 ザルクは周囲を見回す。


 木々に囲まれた森の奥。

 教師も、他の候補生も見当たらない。


「ここなら邪魔も入らねぇ」


 一歩、近づいてくる。


「.....この前の借り、ずっと返してやりたかったんだよ」


 シエルは息を細く吐いた。


 怖くない、と言えば嘘になる。


 だが、今の自分は今までの自分とは違う。

 日々特訓を積み、魔物を倒し、試験の合格規定数にも無事到達した。


(……私も、過去と決別したい)


 逃げてばかりでは、何も変わらない。


 そう思った、その時だった。


 ――ドスッ。


 鈍い音がした。


 ザルクの身体が、前のめりに揺れる。


「……え?」


 シエルの声と、ザルク自身の声が重なった。


 ザルクの背後。


 仲間だったはずの男が、剣を突き立てていた。


 背中から胸へ。

 刃が深く貫いている。


 ザルクの口から、赤い血が溢れた。


 ぐぷっ、と声と血が口から同時に溢れてくる声が聞こえた。


「な……んで……?」


 意味を理解できないまま、ザルクは膝から崩れ落ちた。


 地面に倒れ、動かなくなる。


 一瞬で、空気が変わった。


 嫌悪でも、怒りでもない。

 もっと冷たいものが、森の中に広がっていく。


「……あなた……一体……」


 シエルの声が、僅かに震えた。


 男が、ゆっくりと振り返る。


 その瞬間。


 今まで人間のものに見えていた仙素が、ぐにゃりと揺らぐ。

 表面だけを取り繕っていた何かが剥がれ落ちるように、流れが歪み、脈打ち、濁っていく。


(……違う)


 シエルは一歩退いた。


(人間じゃない)


 父の書斎で見た資料。

 幼い頃、断片的に聞いた言葉。

 人間に酷似しているが、人間ではない存在。


「……歪人」


「正解です」


 男は穏やかに答えた。


 今までザルクの仲間として振る舞っていた男は、まるで仮面を外したように微笑む。


「私はレグスといいます。お嬢さんは?」


 丁寧な声音だった。


 だが、その笑みに温度はない。


「……」


(歪人……お父さんが、研究していた……)


 人間と歪人は本当に殺し合うしかないのか。

 歩み寄る道はないのか。


 そんな研究をしていたせいで、父は周囲から疎まれた。


 だからシエルにとって、歪人はただの敵ではない。

 父の人生を狂わせた存在であり、父が理解しようとした存在でもあった。


(でも……なんで?)


 シエルは息を呑む。


(歪人が、人間の仙素に見せかけていた……? そんなの、聞いたことがない)


 仙素の歪みこそが、歪人を見分ける大きな特徴のはずだった。

 それを隠せるなら、結界も感知も意味を失う。


 言葉が出なかった。


 レグスが一歩踏み出す。


「あのまま彼と戦っていれば、貴方が勝っていたでしょうね」


 淡々とした声だった。


 今しがた人を刺し殺したとは思えないほど、平坦な口調。


「ですが――そんなことは、どうでもいい」


 レグスの目が細くなる。


「いざ、楽しみましょうか」


 殺気。


 その瞬間、シエルの身体が先に動いた。


 迷っている余裕はない。


 シエルは手をかざし、仙素を一気に集める。


 体内から溢れた仙素が掌へ集中し、熱へ変わる。

 圧縮された炎が膨れ上がり、常人の数倍はある巨大な火球となって森を照らした。


 空気が震える。

 葉が熱で縮れ、周囲の温度が跳ね上がる。


 シエルはそれを、真正面から叩きつけた。


 ドゴオオオオオンッ!!


 爆炎が弾け、森の一角を赤く染め上げる。


 レグスの姿が炎に飲まれた。


 熱風が頬を叩き、シエルは思わず目を細める。


(倒せた......?)


 そう思いかけた瞬間――


 炎の中で、影が揺れた。


「ゴッ……ゴホッ……!」


 咳き込む声。


「これは、驚きました……まさか仙師候補生の中に、こんな逸材がいるとは……!」


 レグスが立っていた。


 衣服は焼け焦げ、皮膚も裂けている。

 普通なら倒れていておかしくない傷だ。


 それでも、レグスは笑っていた。


 シエルの胸に、奇妙な安堵が生まれる。


 殺していなかった。


 その事実に、ほんの一瞬だけ気が緩んだ。


「ですが、甘いですねぇ……」


 レグスが一歩踏み出す。


「なぜ、即座に追撃を加えないのです?」


 シエルの息が詰まる。


「……降伏してください」


 自分でも驚くほど、弱い声だった。


「実力差は、今ので分かったはずです」


「……なるほど」


 レグスの口元が歪んだ。


「貴方――殺すのを躊躇っていますね?」


「……っ!」


 言葉に詰まる。


 図星だった。


 目の前の相手は歪人だ。

 ザルクを殺した敵だ。


 それでも、人間と同じ姿をしている。

 言葉を話し、笑い、血を流している。


 父が理解しようとした存在。


 父が、もしかしたら共に生きる道を探していたかもしれない存在。


 それを、自分の手で殺す。


 その覚悟が、刃を鈍らせた。


 その一瞬を、レグスは逃さなかった。


 真正面から踏み込んでくる。


 シエルが攻撃できないと、分かっているかのように。


「非常に、がっかりです」


 レグスの仙素が鋭く収束する。


 歪んだ仙素が腕へ集まり、肉体の形そのものを変えていく。

 腕の輪郭が硬く伸び、刃のように研ぎ澄まされた。


「――裂閃」


 刃と化した腕が振り抜かれる。


「ッ……!」


 避けきれない。


 シエルは咄嗟に身体を捻る。


 だが、斬撃は肩口を深く裂いた。


「っ……あッ……!」


 焼けるような痛みが走る。


 血が散り、足元が揺れた。

 呼吸が乱れ、膝が崩れる。


(痛い……!)


 熱い。

 怖い。

 身体が、言うことを聞かない。


 レグスがゆっくり歩み寄る。


「ほら、やはり」


 見下ろすような声。


「覚悟が足りない」


 次の瞬間、レグスの蹴りがシエルの腹部を捉えた。


 バゴッ!


「クッ……!」


 身体が地面を転がる。


 土と落ち葉が頬に貼りついた。


(あんなに……皆と特訓したのに)


 記憶が、痛みの中で蘇る。


――――――


 夕焼けに染まる訓練場。


 木々を揺らす風の中で、何度も仙術を撃ち続けた日々。


 汗と土の匂い。


 笑い声。


 その時間だけは、確かに温かかった。


「なあ、シエル」


 特訓の合間。


 ゲンジが、珍しく真面目な顔でそう言った。


「何です?」


「お前が仙師になりたいのは、見てれば分かる」


 ゲンジは少し言いづらそうに続ける。


「でも仙師になれば、この先、歪人って奴とも戦うことになるだろ」


 シエルは黙った。


「歪人は人間と姿が似てるらしい。人のこと心配できるような身分じゃないが、お前は戦えるのか?」


 ゲンジの目は真剣だった。


 その言葉が、胸に刺さった。


 ……恐らく、戦えるのかとは殺せるのか?という意味だろう。


「失礼ですね」


 シエルは精一杯、平静を装った。


「私がそんな甘い覚悟で仙師を目指していると思っていたのですか?」


「そうか……ならいいんだが」


 ゲンジはそれ以上、何も言わなかった。


 でも、本当は分かっていた。


 自分にできるのか?


 歪人だけではない。

 仙師になれば、人間と戦うことだってあるかもしれない。


(正式に仙師になれば……私にも覚悟が、決まるはず)


 そう思っていた。


 今はまだ未熟でも、いつかは。


 いつか本物になれば。


――――――


 意識が、現実へ引き戻される。


 肩は痛い。

 血が流れ、足が震えている。


(……私、強くなった気でいただけだ)


 何も変わっていない。


 その事実が、胸を刺した。


 情けない自分に腹が立つ。


 そして、自分を見下ろし、覚悟を持たず、情けない女だと思っているレグスにも。


 シエルは震える手を持ち上げた。


 パンッ、と自分の頬を叩く。


 乾いた音が、森の中に響いた。


 痛みで意識が研ぎ澄まされる。


 視界が、少しだけ鮮明になる。


「何か心変わりがあったのか知りませんが.....今更遅いッ!」


 レグスが踏み込んでくる。


「もう私の間合いです!」


 確かに、近い。


 巨大な火球を作るには距離が足りない。

 無理に撃てば、自分まで巻き込む。


 レグスはそう判断している。


 だから、真っ直ぐ来た。


「舐めないでくださいッ!」


 シエルは腕を下ろした。


 そして、腰へ手を伸ばす。


 指先が、隠していた短刀の柄に触れた。


 次の瞬間、シエルは前へ出た。


「なっ――!?」


 レグスの顔に、初めて明確な動揺が浮かぶ。


 火球を放つ為、距離を離すと思っていたのだろう。

 だが、シエルは逆に懐へ飛び込んだ。


 予想だにしない動きにより生まれる、一瞬の遅れ。


(絶対逃さない.....!)


 レグスの刃を寸前で避け、抜き放った短刀が、レグスの首元を抉った。


 ザシュッ。


 刃が肉を裂く感触が、手に伝わる。


「……ぐッ……かはッ!」


 レグスの身体が揺れる。


 首元から血が溢れ、膝が折れた。


「近接戦闘も……できたのですか……」


 レグスは苦しげに笑う。


「人を見た目で判断するのは……駄目ですね……」


 そのまま、地面に倒れた。


 今度こそ、動かない。


 シエルはしばらく、その場から動けなかった。


 短刀を握りしめたまま、荒い呼吸だけが漏れる。


 手が震えている。


 自分が殺した相手の姿は――人間と、何も変わらなかった。


「……ッ」


 目を背けたかった。


 だが、しっかりと見据え直す。


 逃げたら、また同じになる。


 シエルは震える息を吐き、短刀を下ろす。


 そして、倒れたレグスの先へ歩き出した。


 ゲンジとリュカの顔が浮かぶ。


 小さく息を吸う。


「……行かなきゃ」


 まだ試験は終わっていない。


 足は重く、傷も痛む。


 それでも前へ進む。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

本作はカクヨムと同時掲載となっております。

また、本作は制作途中のため、今後の展開や構成の都合により、ストーリーや設定、名称などに調整・変更が入る場合があります。

より良い作品になるよう試行錯誤しながら執筆しておりますので、温かく見守っていただけると嬉しいです。

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