第2章9話
本作はカクヨムと同時掲載となっております。
また、本作は現在制作途中の作品となっております。
そのため、今後の展開に応じてストーリーや設定、名称などに調整や変更が入る可能性があります。
できる限り違和感のない形で更新していく予定ですが、あらかじめご了承いただけますと幸いです。
――森に足を踏み入れてから、しばらくは何も起きなかった。
足元は柔らかく、踏み込むたびに湿った土がわずかに沈み込む。
靴裏を通して伝わるその感触が、現実感を強く意識させた。
視界を完全に遮るほどではないが、低木や絡みつく蔦が多く、見通しは決して良くない。
俺は意識的に仙素を薄く巡らせる。
視界に頼れない環境では、五感よりも仙素による感知の方が遥かに信用できる。
――反応。
左前方、木の根元付近。
次の瞬間、影が跳び出した。
(あれは……ゴルムか)
人型の魔物。
背丈は人間よりやや低いが、異様に発達した筋肉が全身を覆っている。
皮膚は灰褐色で、岩のようにざらついており、腕は太く短い。
突き出た顎と小さな目が、獣じみた印象を与えていた。
ゴルムは喉の奥から低い唸り声を上げると、そのまま真正面から突進してくる。
単純な動き。
だが、力任せの一撃は侮れない。
一歩、踏み込む。
同時に、想像を形にする。
――想創武装。
手の中に、刀が生まれる。
輪郭が定まり、質量を持ち、現実へと固定される。
同時に仙素を刀へと集中させる。
刃がわずかに震え、密度を増す。
振り抜く。
抵抗は、ほとんどなかった。
筋肉質な腕ごと、ゴルムの拳が上下に分断される。
そのまま刃は首へと滑り込み――
音もなく、断ち切った。
頭部が地面に転がり、遅れて胴体が崩れ落ちる。
「……ふぅっ」
軽く息を吐き、腕輪へ視線を落とす。
数値が変化している。
――5ポイント。
合格ラインは50。
(この調子なら……余裕だな)
肩の力がわずかに抜ける。
その後も、同程度の魔物が点在していた。
ゴルム、ゴブリン。
それに類する低級魔物。
どれも単独行動。
どういう生態系なのか、群れで行動する個体は見当たらない。
個別に処理するだけで済む。
昼を過ぎる頃には、既に合格ラインの半分を超えていた。
他の受験者の姿も、時折視界に入る。
互いに一瞬だけ視線を交わし、すぐに逸らす。
警戒はしている。
だが、それ以上踏み込もうとはしない。
協力も、干渉もない。
必要以上に関わる理由がないからだ。
(この程度、一人で切り抜けられなきゃ話にならないか……)
恐らく誰もが、どこかでそう考えている。
日が傾き始めた頃。
「……この辺で野営するか」
周囲を軽く索敵する。
大きな反応はない。
簡易的な野営の準備に取りかかる。
焚き火は使わない。
火を焚けば、魔物を引き寄せる可能性がある。
代わりに、小さな火球を浮かべる。
最低限の明かり。
それで十分だ。
配布された味のしないパサパサとした携帯用の保存食を齧りながら、腕輪の数値を確認する。
――50。
合格点、ぴったり。
(……ここまでは、まあ想定通りってとこだな)
正直なところ、余裕すらある。
シエルとリュカも、おそらく同じように進めているだろう。
あいつらならこの程度問題ない。
むしろ――
(物足りないぐらいだろう...)
森の中は、夜になるにつれて急激に冷え込む。
湿った空気が、体温を奪っていく。
遠くで、何かが動く音がした。
枝を踏む音。
擦れるような気配。
低級魔物か、あるいは別の受験者か。
判断はつかない。
(……どっちにしろ、警戒は必要だな)
背を木に預ける。
目を閉じる。
完全には眠らない。
仙素を巡らせたまま、意識だけを浅く保つ。
いつでも反応できる状態を維持する。
(やる事もないし……明日は合流するか)
リュカとシエル。
このまま試験終了まで待っていてもいいが――
せっかくだ。
あいつらの様子も見ておきたい。
そんなことを考えながら。
不気味な程静かに夜は更けていく。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
本作はカクヨムと同時掲載となっております。
また、本作は制作途中のため、今後の展開や構成の都合により、ストーリーや設定、名称などに調整・変更が入る場合があります。
より良い作品になるよう試行錯誤しながら執筆しておりますので、温かく見守っていただけると嬉しいです。




