第2章8話
本作はカクヨムと同時掲載となっております。
また、本作は現在制作途中の作品となっております。
そのため、今後の展開に応じてストーリーや設定、名称などに調整や変更が入る可能性があります。
できる限り違和感のない形で更新していく予定ですが、あらかじめご了承いただけますと幸いです。
王都北部。
仙師学院の敷地をさらに奥へ進んだ先に、その森はあった。
視界に入った瞬間――空気の質が変わるのが分かる。
肌に触れる感覚が、わずかに重い。
呼吸の奥に、目に見えない圧のようなものが混じる。
木々は鬱蒼と生い茂っている。
だがそれは、ただの自然ではない。
どこか“作られた環境”のような、違和感を孕んでいる。
森の外周には、淡く光る膜のようなものが張り巡らされていた。
目を凝らすと、空間そのものがわずかに歪んで見える。
(あれが、仙素で構築された結界か……)
事前に聞いていた通りだ。
仙素によって形成された、試験専用の閉鎖空間。
その前に、仙師候補生たちが集められていた。
ざっと見て、百人前後。
年齢はばらつきがあるが、大半は若者だ。
緊張で肩を強張らせている者。
武器を何度も点検している者。
仲間と小声で軽口を叩いている者。
様々な様相が入り混じっている。
これまでの授業や模擬戦の延長線。
そう捉えている者が、ほとんどだろう。
(……まあ、俺もその一人か)
胸の奥にある僅かな違和感を、意識の外へ押しやる。
その時。
「集まれ」
低く、よく通る声が場を制した。
前方に立っていたのは、複数の試験官。
いずれも仙師。
纏っている空気から見て、仙兵級から仙士級といったところだろう。
そのうちの恐らく仙士級であろう者が、一歩前へ出る。
「私が本日試験監督を務める、グレイスだ。試験についての説明を始める」
「ここは試験用の《結界森》だ」
淡々とした口調で告げる。
「仙師および候補生の訓練・試験専用に構築された領域になる」
視線が、候補生たち全体をなぞる。
「森全体には強固な結界が張られている。低級魔物が外へ出ようとすれば、結界に焼かれる仕組みだ」
わずかに間を置く。
「内部で行使された仙術も、外部へ漏れることはない」
つまり。
何が起きても、外には影響しない。
試験場としては、これ以上ない環境だ。
その直後。
見覚えのある腕輪が、順に配られていく。
以前ギルドで受け取ったものと同型だ。
「その腕輪は、討伐数を自動記録する」
試験官が続ける。
「森にはゴブリンなどの低級魔物が生息していて、それらを討伐してもらう。一体討伐当たりに5ポイント与えられる」
静かに言葉が落ちる。
「試験期間は二日間。規定数である50ポイントに達すれば合格だ」
周囲がわずかにざわめく。
「他の候補生と協力することも許可する。ただし、その場合はポイントは最後にトドメを刺した者にのみ配布される」
合理的なルールだ。
個人能力を見るか、連携を見るか。
選択は各自に委ねられている。
「万が一、身の危険を感じた場合は――」
小さな結晶片が掲げられる。
「この信号符を使用しろ。確認次第、試験官が介入する」
それを聞いて、ほっと息をつく者もいれば、鼻で笑う者もいた。
――とどのつまり。
これは“実戦”だ。
その認識は、全員が共有している。
隣を見る。
リュカは腕を組み、眠たげな目で森を眺めていた。
「……まあ、この感じなら楽勝だな」
軽い口調で呟く。
「自信があるのは結構だが、慢心しすぎるなよ」
小さく釘を刺す。
「わあってるって」
気の抜けた返事。
だが、その奥には確かな自信も感じられる。
前方へ視線を移す。
シエルがいた。
静かに呼吸を整えている。
以前よりも、明らかに仙素の流れが安定していた。
(……シエルもコンディションは悪くなさそうだな)
そう思ったところで――
試験官が合図を出す。
「ではこれより、試験を開始する」
一拍の間。
「各自、任意の地点から森へ侵入しろ」
結界が、ゆっくりと開かれていく。
空間が揺らぎ、道が生まれる。
ひとり、またひとりと森へ足を踏み入れていく。
草を踏む音が重なり、やがてばらけていく。
俺たちも、言葉を交わすことなく歩き出した。
結界をくぐった瞬間――
外の空気が、ぴたりと遮断される。
音が、ほんのわずかに遠のく。
森の中は、想像以上に静かだった。
風が葉を揺らす音。
枝が擦れる微かな音。
遠くで何かが動く気配。
すべてが、研ぎ澄まされたように感じられる。
仙素を薄く巡らせ、周囲を探る。
――すぐに、魔物の気配を捉えた。
(……焦る必要はない)
低級魔物なら、特訓でも何度も狩ってきた。
やることは変わらない。
積み上げてきたものを、そのまま出せばいい。
――それだけだ。
だが。
(……なんだ、この感じ)
胸の奥に、引っかかるものがある。
言葉にできない違和感。
緊張しているのだろうか。
真相は分からない。
一抹の不安を胸に抱えたまま、
俺はゆっくりと、森の奥へ歩みを進めた。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
本作はカクヨムと同時掲載となっております。
また、本作は制作途中のため、今後の展開や構成の都合により、ストーリーや設定、名称などに調整・変更が入る場合があります。
より良い作品になるよう試行錯誤しながら執筆しておりますので、温かく見守っていただけると嬉しいです。




