2-2 暗殺ムーブ
視界の悪化はサバイバーも同じ。そして暗さがミュータントとサバイバーのどちらに有利に働くかといえば、間違いなくミュータントだ。視界が悪くなれば接近戦が増え、サバイバーの持つ射程の優位性は大きく損なわれる。だから、夜はどこかの建物に籠城して過ごすのが一番安全なんだろう。けど初めての夜戦でそこに思い至れるかはわからないし、実行できるかも別問題だ。イベント開始からまだ40分。しっかりとした籠城の用意をする時間なんてない。
つまり、フィーバータイムである。
「はーい。夜は寝ようねー。そのまま永遠にー」
調子のいいセリフを吐きながら、私は闇に躍り、目についたサバイバーを次々沈めていく。いつもよりはるかに楽。地形は完璧に覚えているのだ。真っ暗闇でも問題なく動ける、とまでは言わないけど、街灯や星々のわずかな灯りがあれば支障ない。
けれど、そんな調子のいい時間も長くは続かない。空の端が白味を帯びたかと思えば、あっという間に朝日が顔を出し、暗闇を払底していく。
「さて。じゃあどっかのキルゾーンに向かうかな」
たぶん、サバイバーが本格的に探索を始めるのは今日からのはず。初日は最初の混乱でわちゃわちゃしてたし、夜は見にくいし。だから私は、人の多くきそうな場所に張って撃破していくつもり。ただ、あんまり狭い場所だと【セカンドサイト】に簡単に捕まるから、ある程度の広さは欲しいところ。
「やっぱホームセンターかなぁ」
通常プレイでも普段からお世話になっている場所だ。いつもとはサバイバーの探しているアイテムが違ってくるけど、あのホームセンター、何故か銃も置いてあるから結構人も来るはず。
遠くから撃たれないよう射線に気を遣いつつ、慣れた道を移動してホームセンターへ。まあ道といっても大半路地裏移動だけど。
「誰かが入った形跡はあるな。けど少数だ」
初日に短時間で漁った感じだろうか。でも大丈夫。ミュータントなのでルートアイテムの中身は見られないけど、十分に残っているはず。今回のイベントではルートアイテムの補充がされない代わりに最初からたくさんあると説明されていたし、ものを運ぶためのバックパックやチェストリグも見つけないといけない。これまで倒したプレイヤーの装備からも大容量のバックは見つかっていないので、輸送能力は普段よりかなり低いはずだ。
幸い今は人がいないようなので、今のうちに中に侵入する。とはいえ時間はあまりない。周囲もどんどん明るくなってきたし、サバイバーも動き出しているだろう。
「やっぱいつもと雰囲気違うね」
通常プレイのアグヌ地区は放棄されたあとだけあって色々なところに襲撃や略奪の痕跡が残されている。荒らされてる状態を見慣れてるから、ちゃんと棚が並んでるのは新鮮だ。私としては、適度に障害物があった方がサバイバーの動きが制限されていい感じなんだけどね。
本当なら全部を見たかったけれど、その前に【聴力強化】した耳が人の足音を捉える。普段なら聞かないくらいたくさんの足音。20人くらいいるのではないだろうか?
「普通なら絶対逃げるけど……」
今回はキル数が大切だからね。リスクを避けるよりリターンを求めよう。
「あっちはまだ私がいることに気づいてないはず」
ホームセンターなら経験則でだいたいどの辺りで索敵を打つかは予測できる。だからその範囲外から目視で【セカンドサイト】のモーションを確認。
今回のイベントじゃパーティーを組むってことはないのだけれど、一緒にいるプレイヤーはAI判定でパーティーとして扱われるらしい。クールタイムも共有されるからこれで索敵はしばらく飛んでこない。
「じゃあ手早く減らしますか」
私は小さくつぶやくと、誰にも見つからないよう慎重に、けれど素早く動き出す。
相手は20人近い大所帯だ。けれど人数が多ければそれだけで完璧に近い形で警戒ができるかっていうとそうでもない。本物の軍隊とか、大会で上位に入るようなハイレベルな集団ならともかく、基本的に人は頭数が増えるほど安心感を覚えて慢心しやすくなるものだ。警戒を他人任せにしたり、一方向だけに集中したりで、結局どこかに穴ができる。実際私が見ている彼らも少なくない人数がおしゃべりしている様子だし、今に至っても私に気づいていない。あれで全員が完璧に演技しているっていうなら称賛ものだけど、現実には真逆だ。ホームセンター内にほかのプレイヤーはいないと思っているのか、ばらけて物資を漁ろうとしだす。
私はサバイバーたちの後ろに回り込むと、最後尾のひとりを無音のまま仕留めた。伸ばした触腕で倒れる音を防ぎ、静かに棚の下に引きずり込んで死体を隠す。
「さって、じゃんじゃんやろうか」
【セカンドサイト】のクールが明けるまであと15秒。すぐに再使用するとは思わないけど、異変に気づいたら打つだろう。だから私はひとりで行動しているものや、周りの認識から外れたものを、ひとりひとり消していく。天井から触腕を伸ばして吊り上げたり、棚の奥から背中をなでたり。カンストまで育てた【静かな殺意】のおかげで結構派手に動いても音を立てることはなく、警戒すらしていない相手は簡単に隙を見せてくれる。こういう静かな数減らしは通常プレイでも案外できるものだし、人が多い今は余計に減っていることに気づきにくい。
とはいえそのまま全滅まで行くことはできなかった。人数が減っている事実に気づかれたようで、にわかにサバイバーの動きが慌ただしくなる。当然のように残っていた偵察兵に【セカンドサイト】を使われ、私の位置も暴かれた。
「あと何人? 最低でも6はいるな」
ちょっとこれ以上は厳しそう。まあ無理すれば1キルくらい拾えるかもしれないけど、見つかった以上はリスクの方が勝る。冷静に現状を分析した私は、追い詰められる前に撤退の判断を下した。
次回投稿予定は明日12時です。
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