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第367話 シンの助力

第367話 シンの助力


「グア!」

 今度は何だ。


「首の付け根にスパイクしたにゃ。ここは弱点かもにゃ。スパイクが根っこまで深く刺さるにゃ」

 キャシーからの通信だった。


「このまま背中にくっついて首を攻撃するにゃ」

 どうやら、キャシーもヤモリ式接着を使ってスピノにしがみ付いているらしい。

 でも俺の狙いはキャシーの向こうにあるスピノの頭部だ。


「キャシー降りてくれ。そいつの頭に投網型粘糸弾を撃ち込んでみる」


「今は無理にゃ。上下にすごい揺れてる」


 スピノが全身を縦横に揺すりながら、真っ直ぐに移動を始めた。


「コウタ、キャシー、気をつけて。

 スピノは水中に入ろうとしてるわ」


 何、水中だと。いや特製スーツは短い時間なら水中でも呼吸ができる。確か10分近く水中でも活動できる筈。

 いやダメだ。そうダメなんだよ。


「キャシー、離脱だ。

 水中ではヤモリ式接着は機能しないし、水中のスピノは自由自在に高速で動き回れるらしい」


「やばいやばい、離脱するにゃ。コウタも気をつけて」

 そう返事して、接着を解いたキャシーは上にジャンプしたつもりらしいが、縦方向と横方向の混じった予測不能なベクトルを生み出すスピノの激しい振動のせいで、横回転しながら斜め下に落ちて行く。

 ところがそんな状態から、体を腰の位置で上半身と下半身を逆方向に捻りながら、手と足の4本とお腹でショックを吸収しふわりと着地した。

 体が信じ難いほど柔らかい。

 これはどこかで見た猫の落下分解写真のようだった。さすがは猫人。


「おう!」


 俺は水際で転がるように飛び降りた。下が湿った柔らかい土と水で良かった。

 実はそれ以上に俺はホッとしていた。


 スピノは湖に入って行く。

 水中に全身が沈むと、尾鰭と後足の水掻きを使ってまるで魚のようにスイスイと進み、あっという間に視界から消えてしまった。


「逃げられたな」

「そうね」

「惜しかったにゃ」


 そう言ったキャシーは何故か顔が引き攣っていた。

 俺も多少引き攣っていたんじゃないかな。

 相手が少し小柄な陸生のアロサウルスなら確実に仕留められた気がする。あと少しだったのに。ふ。

 半水棲のスピノ相手に水中で戦うのは不利過ぎる。


 そう思っていたら、シンが魔法陣の飛石を作り出しその上を沖に向かって走り、湖面の上空でスピノの位置を確認したらしく前足をくるっと捻った。

 風魔法と水魔法のハイブリッド魔法が水面に大きな渦を作り出すと、それはあっと言う間に鳴門の渦潮のような大きさとなった。

 そして再びスピノを水中から水塊ごと巻き上げる水竜巻となってヤツを空中高くから陸に放り出した。

 スピノは地上に叩きつけられて、でかくて長い口から泡を吹いている。最早瀕死の状態だろう。


「惜しかったな、コウタ、沙織、キャシーよ。

 アシストだけのつもりだったが、ワレが捕獲に成功してしまった。悪く思うな」


『シン様。ありがとう。このまま回収させてもらいます』


 クモミンの言葉と共に大型の回収ロボが現れて、パックシートを広げスピノをその上に転がしてパックシートですっぽりと覆った。呼吸装置も頭近くに設置されている。

 目を覚ましたスピノが両手両足をピクピクさせているが、もうどこにも力が入らずその場から1センチたりとも移動することができなかった。

 間も無く大きな転移空間が現れ、スピノはそこに吸い込まれて回収作業完了だ。


『スピノはあと一頭欲しいんだけど。もうマーカーを撃ち込んでいるヤツは他に居ないんだよね』

 クモミンの声は少し残念そうな響きだ。


「あれをもう1匹か。うむ。索敵ならワレよりナミの方が遥かに上手だが」

 シンは後方を見やった。


 遠くからフェンリルと人が並んで歩いて来る。

 距離が縮まるとしのぶの満足そうな表情が分かる。ナミの感情は表情に出てないので分からない。

 しのぶとナミが俺たちに合流した。


「皆さん、大丈夫ですか。

 あのスピノを無事回収できたみたいでおめでとうございます」


「しのぶ、私たちに怪我はないわ。

 スピノを捕らえてくれたのはシンだけど」


 沙織の言葉に反応してナミがダメ出しをする。

「お主ら、三人がかりで捕らえられなかったのか。まだまだじゃな。

 しのぶはたった一人で大きなブラキオを倒したぞよ」


「すっごいにゃ。しのぶ。どうやったんだ」

「たった一人でか! すげえなしのぶ」


「はい、ナミ様のアドバイスに従って、小さな頭に雷を落としたらどうにか気絶してくれました」


「さすが、我が妹ね」

 沙織は自分の手柄のように腕を組んで偉そうだ。


 そんな沙織に対し、ナミが皮肉の言葉を浴びせる。

「沙織ならスピノを倒せると思っておったんじゃがのう。詰めが甘かったらしいの」


 沙織は腕を解いて項垂れた。

「残念です。もう一息という所までは追い詰めたんですが。まだまだ修行が足りないようです」


「おお、意外と殊勝な態度じゃのう」

 沙織から威勢の良い言葉が返って来ると思っていたらしく、ナミが少し驚いているように見えた。


「私めちゃ疲れました。ナミさん、モフモフさせてくださいよう」

 沙織はナミの首とかに触りたいらしいが、背を伸ばして手を伸ばしても届かない。


「ナミさん、小さくなってくださいよう」


「沙織は意外にも甘えん坊みたいじゃのう」

 ナミはその場に横たわって、沙織のモフモフを受け入れている。


 いつからそんなに仲良くなった、この二人。

 しかしながら、そんな癒しの時間は長くは続かなかった。


『じゃあここいらで一旦休憩にしましょうかね』


 待ってましたクモミン。ご褒美タイムだ。


「うまい肉は出るのか」

 シンの尻尾が左右に振られている。


「この前のお肉は美味しかったわね。

 でも肉の量は前回の半分でいいわ」


 ナミが身体を起こしたせいで沙織が転がった。

 ナミの尻尾も抑え気味だがゆっくり振れている。


「ワレも半分で良いぞ。前回はうまいからとつい調子に乗って適量を超えて食い過ぎてしまった」


『そうですか。

 とにかく今日も美味しい肉を用意してありますよ。さあドアを通ってください』


 今回はシンも慣れたもので、事前にサイズを子牛ほどに変更し、目の前に現れた大きめの転移ドアを悠然とした態度で入って行った。


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