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第362話 居酒屋でキャシーと合流

第362話 居酒屋でキャシーと合流


 俺たち三人がその居酒屋に着いたのは午後7時少し前だった。

 既に店内には大勢の客が飲み食いしていた。


「あそこのテーブル良いかな」


「空いてるお席ならどこでもどうぞ」


 俺は半個室が並ぶ通路の反対側のテーブル席に陣取った。恐らくすぐ向かいの半個室がキャシーの席だろう。


「おすすめのおツマミ盛り合わせとエール二杯と、りんごジュースを下さい」

 少し恥ずかしかったが、俺は大きな声で店員に注文を出した。


「へい。注文承りました」


「中々良い店ね。街歩きで見つけたけど、ここは当たりじゃない」

 沙織も少し傍迷惑な声量で話し掛ける。


 その理由は店内の喧騒もあったが、アルファが送ってよこした映像でキャシーの表情が一段と暗くなっていたからだった。

 キャシーから気付いてくれて、俺たちに声を掛けてくれれば自然に合流できると思った。


「そのおつまみをエールで飲むと美味しいんですか。

 私も一度くらい試してみても良いですか」

 いつも小さな声のしのぶまで、声を張っている。


「ダメダメ、まだしのぶには早過ぎるだろ。飲んだら寝ちゃうか、気持ち悪くなるかの二択だぞ」


「そうよ。後一年は待ちなさい」


 おや、キャシーの耳がピクピクと動いている。俺たちの声に気づいたか。


「キャシーは今夜一人でどこへ行ったんだろうね。

 今度はキャシーと一緒にこのお店に来たいよね」


 沙織め、ついに名前を出したぜ。やり過ぎるとバレるかも。大丈夫かな。

 バレたらきっとキャシーは怒るだろうな。余計なお節介をしている自覚が俺にはある。

 いやこれは余計なことじゃない筈だ。仲間を守る為の愛ある行動だ。

 また俺の中で葛藤が始まった。

 キャシーがこちらへ振り向く映像を確認。確実に気がついたな。


 午後7時を少し回った。

 待ち合わせから一時間以上過ぎた今、キャシーは一体どんな気持ちだろう。

 あ、キャシーが自分の頬を両手でパンと叩いた。暗かった表情が明るくなった。少し無理してるとは思うが。


「すみません!

 追加注文したいのでメニュー持ってきて下さい」

 しのぶが声を張っている。


 お、キャシーが立ち上がった。半個室を出ようとしている。

 さて俺たちを避けるように出て行くか。それとも。

 キャシーがこっちに顔を向けている。

 俺は自然を装ってキャシーと目を合わせたが、うまく声が掛けられず、おう、としか言えなかった。


「あら、キャシー。この店に来てたんだ。

 なあんだ。せっかくいいお店見つけたから、今度キャシーをここに連れて来ようと思ってたのに、先を越されてたか」


「沙織、しのぶ、あ、コウタも。

 皆一緒か。だったらあたしも一緒に出れば良かったにゃ。

 ここのお勧め料理を教えてあげるにゃ。私もそっちへ行っても良いかな」


 キャシーの手にはエールのジョッキが。

 友人同士が偶然に町で遭遇した時の軽い挨拶のやり取りの筈だが、二人の表情は少し固かった。

 俺はと言えば、ただ曖昧な笑みを浮かべてどうぞ、どうぞと言って、キャシーの為に席を詰めることしかできなかった。


 一旦、俺たちは残り少なくなったエールのジョッキで乾杯する。しのぶはリンゴジュースだけど。

 キャシーは半分程残っていたジョッキを一気に空けて、ふう、うまいにゃと言った。

 良い飲みっぷり! と言って沙織が手を叩く。俺も釣られて拍手した。

 僅かに感じられる不自然な空気を読んで、しのぶも複雑な表情をしているが、なれない人から見ればほぼ無表情と言っていい。


 そこでキャシーが椅子から腰を浮かす。

「待ち合わせの人が中々来ないから、あたしはもう帰ったことにして、ここからは皆と一緒に呑むね。

 ちょっと店の人に帰ったと伝言してくるね」


「え、大丈夫ですか。私たちはキャシーと一緒に楽しくやりたいですけど」

 しのぶが棒読みな感じで訊いた。

 彼女はいつもこんな感じだし、表情変化も少ないからいつも通りという感じだ。


「うん。一時間以上待たす奴はもうこちらから絶交にゃ」


「キャシーをそんなに待たすヤツは、女でも男でも絶交で良いんじゃない」と沙織。


 沙織は続けて満面の笑みを作って、 「キャシーは待ちくたびれてもう帰ったよお」と、入り口の案内係に向かって叫んだ。

 酔っ払いかよw  両隣のテーブルの客たちが、振り返ってお前のこと見てるぞ。


 キャシーはそんな沙織を愛おしそうに見て言った。

「ここからはあたしたち仲間だけで飲もう!」

「そうだぞ。俺たちだけで盛り上がろうぜ」

 俺も景気良く酔ったフリして声を上げた。


「私は呑めなくてすみません、キャシー」


「良いよ。無理して呑む必要なんてない。無理に呑んだってお酒は美味しくないにゃ。じゃちょっと行ってくるね」

 そう言って、キャシーは店の案内係の元へ向かった。


 入り口近くで何やら紙に書いて係に渡している。


「本当にこれを渡して良いんですね」


「うん、あの人が来たら渡して。多分来ないと思うけど」


 キャシーはここの常連らしく、係の人も待ち合わせの相手を知ってる様子だ。

 何を書いて渡したんだろう。つい特製スーツの集音度を上げて係との会話を聞いてしまったが。


 その後は二時間もの間、エールを飲んでは治癒魔術を掛けながら俺はお酒に付き合った。

 沙織も似たようなもんだが、飲み過ぎて自分で治癒魔術がうまく使えなくてしのぶにヒールを掛けてもらっていた。


「仲間と一緒に呑むお酒はうまいにゃ」


 キャシーがこの場で無理していたかどうかは分からないが、俺の考え過ぎかも知れない最悪のシーンは避けられたと思う。

 希望的観測だが、この先もそんなことは起こらないと思えた。

 俺たちの友情は本物だ。

 キャシーの失恋の傷は、仲間の信頼と友情が生み出す温かい気に満たされて癒されるに違いない。


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