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第361話 キャシーの待ち合わせ

第361話 キャシーの待ち合わせ


「そうですね。必要があればそうしてみます。

 あの、一つお願いしたいことが。

 もし後日キャシーがこの店に来ても、俺がここに来たことは内緒にしてもらいたいのですが」


「分かった。第一、あんたの名前も知らないしな。

 それでこの金貨5枚はどうする」


「俺の名はコウタです。

 それはキャシーには嫌な思い出になるだろうから、取っておいてください。

 後はこっちでフォローしておきます」


「俺はベンだ。

 仲間思いだな、あんた」


「そうですかね。ううん、、、

 キャシーのことを思うと、あなたがアイツとグルじゃなくて良かったですよ」


「そんな風に見えたか」

 失礼なことを言ってしまったが、店主は気を悪くした様子はない。


「いや、俺は元々あまり人を信用しないものですから。

 知らない人はまず疑って掛かる。これは俺の習性だから気にしないでください」


「これに懲りずに、良かったらウチの商品を買いに来てくれ」


 さすが商売人だ。店の宣伝も忘れない。


「まずここで買うことはないと思うけど、ダンジョンで武具を見つけたら売りに来てもいいですよ。武器の買取りもしてますか」


「もちろん買い取る。そのほかのアイテムも買い取るぜ。商人同士のオークション市場があるからな。そこで換金できる」


「へえ、そうなんですか。面白そうだな。

 あの、もう一つお願いがあるんですが」


「何だい」


「その防具は一ヶ月位店には出さないで欲しいんです」


「ああ、もしキャシーさんが来て、これが展示されていたらショックを受けるってことだな。

 これを欲しがっている奴は他にもいるから展示しなくても売れるだろうし、もし売れなくても一ヶ月は展示しないことを約束するよ」


 俺はお礼を言って店を出た。


 その日の夕方、屋敷を出て行くキャシー。

 いつもの店で6時と、あの男は言っていたが、それはどこの店なんだろうか。


 その少し前まで、俺と沙織としのぶの3人は話し合っていた。

 約束の6時にキャシーの前にあの男が現れなかったらどうなるかについて。

 1時間経っても2時間経っても思い人が来なかったら、どんな気持ちになるか男の俺には分からない。

 そう言ったら、私だってその時にならないと分からないわと、沙織が言った。


 沙織なら、たとえ2時間待って相手が来なかったとしても、後はスッパリと割り切れるんじゃないかと思ったが、そうではないのだろうか。


「もし約束の時間を2時間過ぎてもコウタが現れなかったら」

 そこで沙織は一旦言葉を切った。

「スマホの無いこの世界なら確認したくてもできなくて、きっと事故にでもあったんじゃないかとめちゃめちゃ不安になると思う」

 沙織が目を伏せながらそう言った。


 俺は沙織に答えられず何も言えない。


 するとしのぶがこんなことを言う。

「コウタさんはどうですか。

 もし姉さんと約束していて2時間も待たされたら」


 沙織の言葉としのぶの質問で、俺も自分に置き換えて考えてみた。

 居ても立っても居られないかも知れない。

 自分一人だったら、沙織の行方を友人たちや勤務先に訊いて回りたくなるだろう。

 待ち合わせの店の人に伝言を頼んで沙織を探しに行くかも。


 もしキャシーが、今俺が思ったような行動に出たとして、アイツを探しに出て奇跡的に見つけることができたら。

 最悪なことが起きるかも知れない。


 仲間といるアイツを見つけるキャシー。  

 どうして来なかったのと詰め寄るキャシー。

 笑うアイツ。

 仲間の前で、アイツはキャシーに暴言を吐く。

「まだ俺に騙されたことに気が付かなかったのか、バカ女」

「え、嘘でしょ」とアイツに縋るキャシー。

「お前なんか最初から好きでも何でもない。金が欲しかっただけだ」

 プッツンとキレるキャシー。

 その後の刃傷沙汰。

 やばいな!


 そうなる前に宥めなければ。あんなつまらないヤツの為にキャシーを罪人にする訳には行かない。

 俺の考えを言ってみると、沙織もしのぶもその危険性はあるかもと賛同してくれた。

 何しろここは力で決着を付ける世界だから、俺の想像が荒唐無稽とは言えない。


 俺はクモミンを通して、キャシーの相棒アルファに連絡を取る。

 キャシーが店に着いたら、どこの何という店か知らせて欲しいと。

 一時間経っても待ち合わせ相手が現れない時は、偶然を装ってその店に入るという段取りになった。

 その時は偶然の再会を祝って何も言わず一緒に飲もうと思った。

 俺も沙織も少しは飲めるようになったし、酔い止めの治癒魔法も使えるからな。

 来年の後半には俺も二十歳になる。日本ではまだ飲酒禁止だが、こっちの世界で付き合い酒もできないのはそろそろ気まずい年齢になっている。


 アルファから入って来た情報によると、キャシーが入っていった店は、南門通りと交差する第5環状馬車道を西に少し入った所にある、そこそこ高級な居酒屋だった。

 屋敷からの直線距離なら割と近いが、この町の道はそう便利にはできていない。


 アルファはキャシーの肩とか髪にくっついていることが多いが、その目を通して送られてくる映像を見ることができる。

 キャシーのテーブルは半個室タイプでドアに当たる部分はオープンになっている。二人から四人向けの部屋だ。

 まだ入店したばかりだからキャシーの様子はるんるん気分かと思ったが、既にやや沈んだ表情だ。

 この辺はキャシーに留まっているアルファが超高度技術を駆使して撮っているらしい。空中に仮想カメラとか使っているのだろうか。まあクモミンもフライもそんな感じでディスプレイに映し出されているしな。


 屋敷から歩くと南門通り経由で3キロ弱。徒歩40分ていう所か。今からゆっくり歩いて行けば丁度良さそうだ。

 居酒屋が混み出す時間帯は7時半か8時頃だろう。


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