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第360話 防具屋の店主

第360話 防具屋の店主


「ああウチのお客様だ。気になるのか」


 男はソワソワした様子だ。


「いや別に。

 あ、あの、さっきの注文を取り消すことはできますか」


 店主は男の言葉を聞いて厳しい目つきを向ける。


「返金して欲しいってことか。

 もう一旦売上に記帳してしまったからな。今は売上品を一時預かってるだけだ。所有権はウチにはない。

 買取り希望なら金貨15枚になっちまうがそれでも良いのか」


 おやまあ、何てあこぎな商売しやがるんだ、この店主。

 いやそれよりもこの男だ。あれだけ欲しがってキャシーに金を出させて、注文取消しってどういうつもりだ。

 気が変わってキャシーに金を返すつもりなのか。


「それしか方法がないのですか」


「あれはもうあんたか、さっきの娘のものだからな」


「せめて金貨18枚にならないですか」


「買取なら15枚がせいぜいだぜ」


「じゃあ、それでいいや。金をくれ」


 要求が通らないと知って態度が横柄になる。男は手の平を見せて右手をカウンターに載せた。


 店主は落ち着いた感じで言う。

「預かり証を出してくれ。それと領収証も見せてくれ」


「さっき俺が買ったばかりじゃねえか」

 男は少し景色ばんだ。もう俺の存在など気にしてないようだ。


「金を出したのはさっきのお嬢さんだ。領収証をあんたが持ってるなら預かり証と引き換えにさっきの防具を渡す」

 店主はゆっくりと言葉が良く伝わるようにそう告げた。


 男は明らかにイラつき始めた。


「俺は買取してもらって金を貰えばそれで良いんだ」


「いや手順は踏ませてもらうぜ。領収証を見せてもらった上で、預かり証と引き換えに防具をあんたに渡す。

 その次にあんたが買取を申し出る。それを俺が査定して買い取るという段取りだ」


「面倒臭えな」


「役人がうるさいからな、書類が整ってないと後で俺が困る」


「分かったよ」


 男はポケットを探り領収証らしきものを見せた。

 店主が頷いている。

 次に男は預かり証らしきもの出す。

 店主はそれを受け取ってから、さっきの防具を裏の工房から取って来てカウンターに置いた。


「さあこれが一時預かった品物だ。受け取ってくれ」


「これも手順てやつか」


 男はさも嫌そうな態度を見せる。

 店主は平然としている。


「そうだ」


「これを買取りしてもらえるか」


「うむ良いだろう。買取の査定額は金貨15枚になるがそれで良いか」


「ふん。それで良いよ」


「じゃあこれは買取ろう。これが買取りの金貨15枚だ。受領証を書いてくれるか」


「え、俺が書くのか」


「そうだよ。古物買取りもルールが厳しくてな。中には盗品もあるからな。

 あ、偽名は困るぜ。身分証を見せてくれ。同じ名前を書いてもらいたい」


「身分証かよ。ギルドカードで構わないか」


「それで十分だ」


「Eランクてのは嘘じゃなかったみてえだな。名前はフーパーか、ラグドールじゃなかったのかよ」


「うるせえな。ラグドールはあだ名だよ」


「ふうん、そうかい。受領証にはフーパーって書いてくれよ」


「ほら、書いたよ。金と引き換えだ」


「おう。毎度あり」


 男は店のドアをバタンと閉めて出て行った。


「あんた、さっきのお嬢さんの知り合いだろ。アイツを追わなくて良いのか」

 店主は俺に向かってそう言った。


「分かるのか」


「あんた最初は背を向けたまま、こっちに聞き耳を立てていただろ。

 アイツが交渉に夢中になってからは、横に移動してアイツの表情をずっと伺っていたよな」


「全部お見通しって訳か」


「まあな。それで追わないのか。アイツにお仕置きするつもりなんだろ」


 俺は答えをやや躊躇した。

「どうしたら良いか分からないんだ」


「あんた、あのお嬢さんの恋人ではなさそうだな」


「うん、冒険者パーティの仲間だ」


「あの娘もあんたも冒険者か」


「そうだ。大事な仲間だ。

 だから彼女を傷つけずにどう始末をつけるか迷っている」

 何故か言わなくてもいいことを俺は話してしまった。この店主を信用してしまったのかな。


「差額の金貨5枚なら、彼女に返してやっても良いが」

 ほお、思ってもない言葉が店主の口から出た。


 でもキャシーの気持ちを考えるとそれも難しい。


「ありがたい話だが、それじゃキャシーが傷ついてしまいそうだ」


「キャシーからラグドールへって彫って欲しいと言ってたしな。アイツに夢中って訳か」


「そうらしい。今のままだと危険な仕事の最中にミスって怪我しそうなんだ」


「戦闘中に集中力に欠ければ命取りになるな」


 この人、冒険者みたいなことを言うな。やっぱり冒険者相手に商売しているから分かるのか。


「所でさっき金貨5枚を返してやっても良いと言ったようですが、どうしてそんなことを言うんですか。せっかくの儲けだろうに」


「アイツは詐欺師みたいだが証拠がないし、それを取り締まるのは役人の仕事だ。

 相手がルールを守っている限り、俺は商人として売買をするだけだ。

 ウチで買取に応じればアイツの身分証を確認することができる。

 問題があればアイツを追うこともできるという訳だ。

 まあ金を取り返せるかどうかは分からないが、少なくとも俺は金貨5枚取り返してやったぜ」


 ちょっと驚いた。そこまで考えて対応していたとは。


「なるほど。アコギな商売をしてるのかと勘違いしたけど、あなたは良い人ですね」


「よせやい。一月経ってもあの子が何か言ってこなければ、そのまま金貨5枚は儲けるつもりだったさ」


「それくらい考えてくれていたなら、キャシーの買い物を途中で止めるって考えは無かったのですか」


「あの子は只者じゃないってことが分かった。

 怒らせたら俺がボコボコにされかねないだろ」


「どうして只者じゃないと分かったんですか。あなたは高位の冒険者だったのでしょうか」


 店主はとんでもないというように、手を左右に振った。


「ちげえよ。

 Aランクパーティのウルプスだったか、だいぶ前に冒険者ギルドでお披露目会みたいなことがあっただろ。

 俺はあの時たまたまギルドに納品の為に出入りしていた。

 そしてあの子がビッグリザード2匹を倒す所を見たんだよ。尤も1匹は仲間割れで大きい方に噛み殺されたみたいだが。

 名前を入れるかと訊いた時、キャシーという名前が出たんで、これは間違いないと思ったんだよ」


「そういうことでしたか」


「あんたも同じパーティってことは強いんだろ」


「まあ、そこそこですね」


「冒険者なら、ギルドの窓口でフーパーのことを調べてもらえるんじゃないか。

 Aランクパーティなら協力してもらえるだろ」


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