表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/8

布は剣よりも


 ◆砦◆



 ペトラーダの砦なら、オラニアも見たことがある。


 辺境の地を守る、父が建てたものだ。

 たくさんの土嚢を積み、それを取り囲むように、太い丸太を何本も地面に打ち込む。

 土嚢の影で、兵士らが武器を構える。


 火炎除けに撒かれる水に、立ち昇る土埃と錆びた鉄の匂い。

 オラニアにとっての砦とは、そういう物だった。


 だが。


「これが我らの砦だ」


 誇らしそうに顔を上げたデアトリーが、指さす先にあったものは、鮮やかな彩のたくさんの天幕(テント)だった。


「これが……砦?」


 ごく普通の衣服を着た人たちは、天幕と天幕の間を行き交い、言葉を交わし、物の売り買いをしている。戦の最中には見えない、朗らかな表情である。

 砦というより、これは……


「バザール……」


「よく知っているな。実際、ここは他国との交易を行っている一大市場だ」


 デアトリーは、オラニアの半歩先を歩き、モブシアンのバザールを案内する。

 次から次へと勢いのある店が現れてくる。

 豊富な肉や魚、根菜を中心とした野菜類。ペトラーダでは品薄のロウソクや紙などの生活必需品。


 何より、オラニアの目を惹いたのは、光沢や色が自国とは異なる、様々な布地だった。


 思わず手に取り、質感を確かめるオラニアの目が星を湛えているかのようだ。

 自分が敵国に拘束されている立場であることを、忘れてしまっているのだろう。

 布に触れていたオラニアが、ハッとした顔になる。


「火! 矢で火を投下されたら、この場所は……」


 ペトラーダの戦い方は、馬上から無数の矢を放つ。

 一度火が点いたなら、この場所はあっと言う間に大炎上するのではないのか。


「それはない」


 こともなげに、デアトリーは言った。

 同時に足元の石を一つ拾い、手持ちの小刀の刃を当てる。

 白い小石である。

 野菜の皮むきでもするかの如く、デアトリーは石の表面を削る。


 刃で削られた石は、白い粉を散らす。

 光に当たると、石の粉はキラキラ光る。


「この粉を、布には織り込んである。たとえ火が点いても、燃え上がることはない」

編集に失敗したようなので、本日、もう1話更新します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 布と粉の合わせ技すごい!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ