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虹色の布を追いかけて敵国に捕まってしまった私は、本国よりも良い環境の中で、将軍に愛される  作者: 高取和生@コミック1巻発売中


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2/8

将軍と呼ばれる男

織物の材料となる繭を採取していて、オラニアは敵国に捕まってしまいました。

注)虫が苦手な方は、無理なさらずに。

◆辺境の白い繭◆



 軽い羽音をたて、ロウソクの周りを虫が飛んでいる。

 オラニアは体を起こす。

 上掛けに触れたオラニアはその感触に驚き、掌で再度確かめる。


 柔らかい。

 何より温もりを感じる。しかもさらりとしている。

 繭から取り出した糸ではないが、上質な織物だ。


 恐る恐る軍服を着た男を見る。

 男の軍服もまた、上掛けの布と同じ類の物に見える。


「この布は、一体……」


 男は口の端を少し上げ、オラニアの顔を見つめる。



「面白いな、娘。気になるのが布なのか。……お前、どこから来た? アラクサの布を見たことがなかったか?」



 アラクサの織物は、オラニアの生まれ育ったペトラーダにもある。

 だがそれは、司祭の衣服や神殿に供えるもので、日常使いのものではない。

 オラニアは頭を下げ、男に言う。


「アラクサは、存じております。……私は国境近くの村に住んでいます。繭を集めに森に入りました。私は、ペトラーダとモブシアンの境を、越えてしまったのですね……」


 なるほど、と男は思う。

 敵襲に供え、国境付近には兵士を配備しているが、たまに村民が迷い込む森である。

 この娘の持ち物は、わずかな食料と集めた繭。


 ペトラーダ国は繭糸からの織物が名産の一つだ。

 この娘も、織女なのであろう。


 ゆえに娘の言い分は、嘘ではない。

 ただし、ふと気になる。

 髪型や身なりは確かに平民。しかし、佇まいは、至って上品である。


 まさか、間諜ではあるまいな。

 そんな自分の考えに、男は頭を軽く振る。

 

「名は? お前の名はなんというのだ?」


「オラニア、と申します」


「そうか、オラニア。わたしはデアトリー」


 男が名乗ると同時に、部屋に駆け込んでくる足音と声。


「将軍! 至急、砦に戻るよう本隊から連絡が!」


 デアトリーは「将軍」なのか。

 オラニアはモブシアンの階級など知らなかったが、きっと偉い立場の人なのだろう。

 敵国人と分かっても、丁寧に対応してくれる。

 身分だけでなく、人格も高いようだ。


「オラニアとやら。本当は明日にでも、ペトラーダへ帰してやりたかったのだが……少々状況が変わった。悪いが、しばらくの間わが国で、過ごしてもらうことになった」


 オラニアは唇を噛む。

 仕方ない。


 繭取りに夢中になり、国境を越えてしまったのは自分の不注意である。

 リブロのことは心配だ。

 ロイザーとコナーは逃げたようだし、なんとかしてくれるだろう。


「その代わりにと言ってはなんだが、わがモブシアンの秘密を一つ、お見せしよう」


 デアトリーはすくっと立つと、そのままロウソクの向こう側の戸を開く。

 手招きされてオラニアは、開いた戸の内側を覗く。


「!」


 声に出せない衝撃が起こる。


 戸の向こう、敷き詰められた緑の葉の上に、真っ白な幼虫が葉を覆い尽くさんばかりに群がっている。

 さらには部屋の至る所、格子状に区切られた板が置かれ、格子の一つ一つに、白い繭が生成されているのである。


「これは……」


 驚きの表情を隠せないオラニアに、デアトリーは告げる。


「君は、木々に付く繭を集めると言った。集めた繭は、黄色や茶色のものが多くて、白い繭はたまに見つけるくらいだったろう?」


 オラニアは頷く。


「だが布に織り上げるなら、断然白い繭糸がいい。そのために、白い繭を作る幼虫を集めて飼うようにしたのだ。これが、モブシアンのやり方だ」


 夢見心地でオラニアが聞いた、シャリシャリという音は、幼虫たちが葉を食べる音だった。

 これほどの白い繭から取れる糸ならば、光輝くような純白のドレスでも、容易く作れるのではないだろうか。

 

 オラニアは敵国にいることを忘れ、しばしその部屋を見ていた。

 上気した顔で、幼虫を見つめるオラニアに、デアトリーは我知らず微笑した。



 その夜、オラニアは馬車に揺られ、モブシアンの辺境であるダサクの村から移動した。

 行先は、モブシアンの中心都市の一つと聞かされた。

 馬車で走ること三日。

 デアトリーと彼の副官数人は、馬に乗り先行する。


 途中野営となる。

 オラニアは捕虜というより、客人のような扱いを受けた。

 休憩中、デアトリーはしばしば、オラニアの様子を見に来る。

 

 何か問題はないか。腹は減ってないか。


 彼はオラニアに二言三言声をかけ、馬上に戻る。


 そんなデアトリーに、オラニアの緊張もほぐれていく。

 すぐに、処罰の対象にはならない安心感も得た。

 

 陽光の下で見るデアトリーは、軍人らしい体躯と、彫の深い端正な顔立ちをしている。

 将軍と呼ばれる割に、部下は少ない。彼は何の将軍職なのだろう。

 オラニアは、なにげなくデアトリーに訊いてみた。


「戦争の勝ち負けは何で決まると思う?」


「兵士の強さ、ですか?」


 デアトリーは快活に笑う。


「それもそうなんだが。結局、強さっていうのは、量と質を掛けたもので、量が足りないと勝てないのさ。じゃあ、兵士がたくさんいるだけで勝てるかっていうと、兵士の数に見合った武器が必要で、兵士が闘うためには食べ物が必要で……要は人と物と、それらを準備するための、金が必要なんだ」


 金を動かし、物品を過不足なく調達する、それが自分の役割だと、デアトリーは言った。


「白い繭から取った糸で高級な布を作り売る。それも金を集める一つの方法だ」


 そう語るデアトリーの横顔は、なぜかオラニアの父に似ていた。

 そう言えば、オラニアがまだ幼かった頃、騎士団を率いていた父が言っていた。


『……資金だけでは勝てぬ。そこに義と理念がないと、な』


「義と理念……」


 独り言のような、オラニアの呟きを聞いたデアトリーが真顔になる。

 オラニアは気付かずに、空を眺めていた。



◆故国にて◆



 オラニアが敵国に捕まった日のことである。


 ロイザーは肩を落とし、オラニアの住まいへ赴く。

 状況を聞いたリブロは、ロイザーを殴りつけた。


 少年の拳は、かつてない程の痛みを、ロイザーに与えた。


 泣きながら何度もロイザーの胸を叩くリブロを、年老いた侍女は抱きしめた。


「許さない! 姉さんを連れて来るまで、僕はお前を許さない!」


 ロイザーも泣きながら、リブロに言う。


「絶対……絶対ニアを、オラニアを助ける! 俺の、命をかけて」


 

 身も心も、ボロボロになったロイザーが自宅へ戻ると、父とコナーが待っていた。

 コナーは赤い目でロイザーを迎え、ロイザーを抱きしめた。


「私が悪いの! 私が手を差し出したのに、オラニア姉さま、私の手を取らなかったの! 私のこと、嫌っていたから……」


 後ろにいたロイザーは、コナーがオラニアを突き飛ばした瞬間を見ていない。

 ぽろぽろと涙を流すコナーの頭を、ロイザーは撫でた。


「お前の、お前のせいじゃないよ、コナー……」


 ロイザーの精一杯のセリフだった。


 その晩、ロイザーは父の書斎へ呼ばれる。

 憔悴しきったロイザーに、父は告げた。


「オラニアのことは諦めろ」


「えっ! 何……」


「多分、オラニアはもう戻れん。もう此の世にいな……」


「嫌だ! 俺は諦めない!」


 父はため息をつく。


「お前も知っている通り、コナーはウチと縁続きの娘。商売の規模は、コナーのトコの方がでかい。この先を考えると、コナーの家と共同で事業を組む方が安心だ。お前はコナーと結婚しろ」


「そんな無茶な……コナーは、俺にとって妹みたいなものだ……」


「すぐにとは言わん。前にも言ったが、ペトラーダとモブシアンの戦争は、間もなく終わる。戦争で消耗される物資を、両国に売って稼いでいる所は、商売上がったりになる。跡取としてお前が為すべきことは、何だ? ロイザー」


 父の言うことはよく分かる。

 だが、両国間の戦争がじきに終わるのなら。


 俺は堂々と国境を越え、オラニアを探しに行く。絶対見つけて、連れて帰る!

 

 ロイザーは心に誓った。

お読みくださいまして、ありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
[良い点] とりあえずオラトニアは安全なようですね。
[良い点] おいおいおい、コナーよ!! 嘘までつくとは、あざとさ満載だね。 ロイザーは悪くないけど、デアトリーのほうが魅力的かなー。 [気になる点] そして、やっぱり蚕の養殖してたねー。 虹色の繭も…
[一言] デアトリーいいこと言う( ˘ω˘ )
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