第七話
静かな病室――
いるのは、巧とかなめの二人。
「………」
「………」
二人とも何も話さず、もう数時間が過ぎていた。
沈黙を破ったのは、扉がノックされる音だった。
顔を覗かせたのはナース。
「かなめちゃん、これ今週のお薬ね」
「あ、うん……」
「んじゃ、お邪魔虫は早々に立ち去りましょうかねぇ」
にこにこしながら病室を後にするナース。巧をかなめの恋人だと思っているのだろう。
「「いや、別に何も――!」」
二人同時に言い訳してみるが、そのハモリ具合がナースの何かをさらに刺激したようだ。
「んじゃ、頑張ってね」
何をだろう?
ナースは終始笑顔で部屋を出ていった。
「………」
「………」
「………たぶん……」
「ん?」
「たぶん……明日には、ボクに彼氏ができたって噂が広まってると思う……」
赤い顔でつぶやくかなめ。
「ははは……」
苦笑いしかできない巧であった。
「………」
「………」
「………」
「………」
会話が続かない。
二人きりが気まずいわけではない。
原因は――
「……巧……」
かなめが話し出した。
「なずなは……」
「……わからない……」
巧はうつむいたまま答える。
「……ボク達は……だまされてた?」
「………」
あのとき――
パルティネが姿を消したあと、みんなが巧となずなの周りに集まっていた。
「なずな……どういうこと……?」
口火を切ったのは朱伽だ。
「………」
なずなは答えない。
「味方のふりして、裏では怖いこと考えてただなんて……」
「それは違う!」
「だが、坊主の邪魔をしたのは確かだ」
そう言ったのは白宗。
「あの状況なら、確実にオロチの首を取れた。だが、あんたはオロチを助けた」
「それは……」
「オロチの首がどうとか言われてたな。敵の言葉を信じるわけじゃねぇが……なずな、おまえのとった行動は信用しろって方が無理だ。何か弁明があるなら言ってみな」
「…………」
「そうか……嬢ちゃん」
「え?」
「道場に戻ろう」
「あ……えっと……」
「悪ぃが、今の状態じゃ背中は預けらんねぇ。俺と嬢ちゃんは抜けるぜ」
そう言うと、白宗は陽芽を連れて立ち去っていった。
「……あたしも戻るわ。咲さんまだ本調子じゃないから」
「……おれも行くよ」
朱伽、静春も去っていく。
「なずな……巧……」
かなめはどうすればいいのかわからず、おろおろしている。
「……なずな、僕達は――」
「行かなくてよいのか?わしに喰い殺されるぞ?」
巧の言葉を遮ったなずなの一言は、二人にとってショックの大きいものだった。
「それは……させない。巧はボクが守る」
かなめが巧の前に出る。
「なら、とっとと行けぃ」
目をあわせずに言い放つなずな。
かなめは巧の手をとり、なずなに背を向けて歩きだした――
「なずなは………」
頭の中に、なずなの顔が思い浮かぶ。
なずなはいつも明るい性格で、冗談を言っては場をなごましていた。
しかし、なずなはやるべきことはしっかりとやり、いつしか彼女の知識は必要不可欠なものとなっていた。
なずなは指圧マッサージがうまく、よくやり合ったが、こちらがやると彼女が艶かしい声を出すので困った。
なずなはゲームが好きなくせに下手で、そのくせ手加減されるのが嫌いで、いつも連敗しては悔しがっていた。
なずなは目新しいものが好きで、巧のスマホをいじりまくり、こちらの世界に来て一日経たずにスマホの電池はゼロになった。
なずなは老人のような口調で話し、でも、それが違和感を感じなくなるくらい、この短期間で仲良くなれた。
なずなは――
「……!」
「……」
巧がイスから立ち上がると同時に、かなめがベッドから降りる。
「………」
「………」
二人は目を合わせると、何も言わずに病室を出た。
夕方、山田神社――
「………」
賽銭箱の横で、なずなは一日中ぼんやりとしていた。
「………あれは……」
近づいてくる二人分の人影。巧とかなめだ。
「すみません、今どきますので」
なずながわざとらしく立ち去ろうとする。
「なずな」
が、巧がなずなを呼び止めた。
「………何の用じゃ」
なずなは背を向けたままで、目を合わせようとしない。
「……僕は、空島巧です!」
「な、何じゃ……?」
唐突に、巧は自己紹介を始めた。
「行方不明になった幼なじみを探して、こちらの世界に来ました!五行とかケイム・エラーとかわからないことばかりのこの世界で僕を助けてくれたのは、二人の女の子でした!彼女達のおかげで、僕は今ここにいます!」
「……?」
「ボクは津薙かなめ」
「かなめまで……何だというんじゃ?」
「小さい頃から入院してて、友達はいなかった。親は生死不明だし、妹とは疎遠で、ひとりぼっちだった。そんなとき、突然五行が使えるようになったボクを導いてくれたのは……初めての友達になってくれたのは、なずなだった」
巧とかなめはなずなを真っ直ぐに見据え、いつの間にかなずなも二人の方へ向き直っていた。
「……次、なずなの番」
かなめが促す。
「なぬ?」
「高校二年生で、山田神社の巫女で……それくらいは知ってるけど、その他のことを僕達は知らない。だから聞かせてほしいんだ」
「話すようなことは特にない。……もうよい。わしらはオロチに負けたのじゃ」
「よくない」
「かなめ……」
「勝ったとか負けたとかはどうでもいい。ボクは友達として、なずなのことを知りたい」
「………」
なずなが黙りこむ。
「僕も、なずなのこと知りたいよ」
「巧……」
なずなは大きなため息をひとつすると、
「……よかろう。長くなるから、覚悟しておけ」
ゆっくりと話し始めた。




