番外編 玄武 -6
スピードの速い者が先陣を切り、次々と研究所へ向かって行く。
「はっはぁ!行くぜ行くぜぇ!!」
先程の男――仮子も、ケイム・エラーを蹴散らしながら進んでいく。
なるほど……自信に見合った実力は持っているようだ。
「さて、わしも行くか」
五行を発現。ケイム・エラーは他の者に任せ、先を急ぐ。
研究所が間近にせまってきた。
「おう、じいさん!あんたも来たか!」
仮子だ。
「若いもんにはまだまだ負けんよ」
「さぁて、ボスのお出ましだぜ!」
仮子が研究所を見ながらいう。
研究所の屋上。人影があった。
「あれは……」
若い頃に比べてだいぶ目は悪くなったが、見間違いはしない。オロチだ。
さすがにこれだけ派手に突き進めばオロチ側も気付くだろうが、まさかいきなり顔を出すとは……
「……嫌な予感がするのぅ」
「あ?びびったか、じいさん?」
「仮子とやら、攻撃に備えていつでも防御できるように――」
次の瞬間、研究所を……正確にはオロチを中心に、破壊の波がすべてを呑み込んだ。
「ぐ……ううぅ……」
前方に水の盾を展開。数十メートル飛ばされたが、なんとかしのいだか……
「……ぶはっ!げほっ……ごほっ……!」
土の中から仮子が這い出てくる。
「ほう、あの一瞬で地面に潜るとは」
「ちげぇよ!巻き込まれて埋もれたんだ!」
それはそれですごい。巻き込まれたわりに、怪我は大したことなさそうだ。
「くそっ、何だよこれっ!」
仮子が周囲を見渡しながら叫ぶ。
研究所はもちろん、周囲にあった木々も、我々が通ってきた森も、敵も味方も関係なく、全てが吹き飛んでいた。
遠くで何かが燃えている。……我々が先程までいた本部だ。
「オロチの攻撃は本部にまで届いたというのか……何という力じゃ……」
門下生達は無事だろうか……。
「だが、まだ終わりじゃねぇ!」
仮子が立ち上がる。他にも、大怪我しながらも多くの者が立ち上がった。
こちらに歩いてくるオロチ。
「かかれぇーー!!」
どこからかリーダーの声が上がり、一斉にオロチへ飛びかかる。
が、オロチに触れた者は一人もいなかった。
オロチは少し腕を振るだけ。それだけで飛びかかった者達が鮮血を撒き散らし、絶命していく。
「……おぬしは行かんのか?」
仮子に話しかける。
「あぁ!?行くに決まってんだろ!最強は俺だってことを証明してやるんだよ!だから……行かなきゃ……なんねぇのに……」
仮子の足は震え、腰がひけている。
「……それでいいんじゃ」
「何がだよ……これは武者震いだ!びびってなんか……」
「仮子よ、おぬしは強い。だからわかっておろう……あやつには勝てないと」
「……っ!」
「退け」
「俺に……逃げろと……?」
「違う。生きろと言っているんじゃ。生きてもっと強くなれ。いつかオロチを倒すチャンスがくる。その時を待つんじゃ」
「……じいさんはどうするんだよ?」
「わしはオロチに話すことがある。おぬしは元藤道場へ行け。わしの孫に会え。彼女は、オロチを止めるための切り札となろう」
「………」
「時が来るまで、守ってやってくれ」
「う……あ……うわああああっ!!」
仮子が走っていく。もちろん、オロチとは逆方向にだ。
それをきっかけに、周りの者も退いていく。
この戦い、我々の負けのようだ。
たとえわしが勾玉を『持ってきていた』としても、この結果は変わらなかっただろう。
だが、このまま退くわけにはいかぬ。後々の者達のためにも、ここでひとつ楔を打ち込んでおかねば。
いつの間にか、オロチはすぐ近くへときていた。
「老いぼれ、まさかあんたもこんな茶番に参加してるとは。こんなことのために生かしておいたわけじゃねぇんだがなぁ」
「ちと話したいことがあってのぅ」
「話すことなんかねぇよ」
オロチが腕を振る。
自分の胸部がぱっくりと割け、血が噴き出した。
「ぐっ……せっかちじゃのぅ……超高速の風の刃か……」
「……簡単に食らってんじゃねぇよ、ランク6」
「ふ……希望は、若いもんに託して……きたからの……」
「あぁ?」
「むやみな殺戮は、やめ……なさい……また……大切なものを失うぞ……オロチ……いや……―――」
「……っ!?貴様……!!」
意識が遠のく。
仮子よ……陽芽を頼んだぞ……
なずな殿……わしから勾玉を渡せず、すまぬ……
陽芽……おぬしを戦いに巻き込んでしまうこと、申し訳ない…………しかし、きっと勝てると信じておる……
一緒に過ごせて、楽しかった……わしは……おぬしを……本当の孫のように………――――
これは、ゆめ――
とても悲しいゆめ――
おじい様がいた。
うちに何回もあやまっていた。
いいよ。大丈夫だよ。って言うと、おじい様から黒い石みたいなものをわたされた。
そして、おじい様が歩いていく。
「待って!」
追いかけるけど、追いつけない。どんどんはなれていく。
一度だけ、おじい様がふり向いてわらってくれた。
「わが孫よ、幸せに――」と、おじい様の声がきこえた気がした――
「おじい様っ!」
朝。布団からとびおきた。
ほっぺがぬれている……
「今日は……」
なんでだろう……全てわかってしまった。
今日はオロチとうばつ作戦の日。正しくは、もう作戦はおわっている。
うちがあんなに止めたのに……おじい様は行ってしまったんだろう。そして――
いつの間にか持っていた、ゆめに出てきたあの黒い石。
「おじい様……」
それを強くにぎりしめ、うちはまた泣いた――




