番外編 玄武 -2
ある日、陽芽がいたあの研究所を訪れた。
陽芽に関する情報が残っていれば……と思ったのだ。
「……なんと……」
しかし、そこで見たのは、非人道的な実験の数々だった。
様々な生き物を掛け合わせた合成獣――
超能力、進化した人間、究極の人間等を目指した、人体改造――
「何のためにこんなことを……」
次の資料に目を通す。
『アキシロプロジェクト』
アキシロ……
天変地異が起きる以前、世界中で環境問題を訴える青年がいたのをふと思い出した。そういえば、その青年も五行を使っていた。
………天変地異前に五行を……?いや、その頃は五行などなかったはず。自分の記憶違いか?
『全検査にて、一般男性と同等。特出するものなし――』
『別個体への応用は不可能と判断――』
『当人をUHへ――精神を制御することで――』
『親族へのケイムシード移植はすでに――』
『関係者の実験良好。同時に――』
『世界の――誤差はあるものの――配置完了――』
『保険として――当研究所へ配置――代雫――』
『会議日程決定――同日、計画を開始――』
「………」
専門用語が多く、汚れている部分もあって、内容はところどころしか理解できない。ただ、これもろくでもないことをやった記録だろう。結果は書いていない。計画を開始した日に天変地異が起きているから、中止にでもなったか。
他の資料も見てみるが、どれが陽芽に関するものなのかわからない。気付いたときには、辺りは暗くなり始めていた。
「……帰るとするか」
また時間があるときに来るとしよう。
「おぬし、素質があるのぅ。それとも努力の賜物か?」
ある日、街を歩いていると、声をかけられた。
振り向くと、陽芽より少し大きいくらいの女の子が立っていた。
「ふむ……君は?」
「わしは、なずな……山田なずな。山田神社の者じゃ」
歳の割に老人くさい話し方をする。……いや、雰囲気もただの子どもとは何かが違う……
「……元藤 玄十郎と申す」
何故かとっさに名乗ってしまった。
「玄十郎殿……ひとつ頼みたいことがある」
「む……?」
「わしに力を貸して頂きたい」
少女――山田なずな殿は、まっすぐ目を見据えて話し続ける。強い信念を持った、良い目だ。
「オロチを倒す」
「なんと……」
オロチ。五行が使えるようになった頃、唐突に世界を牛耳った男。同時期に現れた化け物、ケイム・エラーを操っているだけでなく、本人も恐ろしく強いという話だ。
力で押さえつけるようなやり方に納得がいくわけではないが、誰もオロチを止めることが出来ず、けっきょく言いなりになっているのが現状だった。
「本気で言っているのか……?」
……いや、これは愚問だろう。彼女の目を見れば聞くまでもない。
「共に戦えとは言わん。『水の勾玉』の製作をお願いしたいのじゃ」
「勾玉?」
「うむ。いわば、五行の力を結晶化したものじゃな。五行をうまく扱える者でなければ作れん。木火土金水それぞれの勾玉があると、オロチを倒すのもずいぶんと楽になるはずじゃ」
「……もし勾玉を作れたとして、それは力の結晶なのだろう?わし自身はどうなるのじゃ?」
「するどいのぅ。じゃが、理解が早くて助かる」
笑うなずな殿は、そこらの子ども達と何ら変わりなく見える。
「デメリットとして、勾玉を作った本人の力は弱まってしまう。が、勾玉を身につけることでそれは解消されるから、そんなに大きな問題ではなかろう。メリットは、力を勾玉として持っているため、力を失うことがない」
「力を失う……とは?」
「五行とは自然の力じゃ。人間はそれを借りているにすぎん。当人の行動、考え方、生活習慣等によって、突然五行が使えなくなることもあるのじゃ」
「勾玉は今いくつある?」
「まったくない。まだ勾玉を作り出せるだけの腕の者がおらんのだ」
「………随分と五行に詳しいのだな。何者だ?」
「自己紹介はさっきしたじゃろう?」
なずな殿は、ニッと笑いながら再度「返事は?」と聞いてくる。
「………よかろう」
少し考え、そう答えた。
鍛練はもとよりするつもりでいたが、本当に勾玉を作れるのかもわからない。だが、あのオロチに一泡ふかせてやれるのであれば……おもしろいではないか!
「うむ!よろしく頼む!」
おそらく、今の自分はなずな殿に負けないくらい、悪戯っぽい笑顔だろう。




