番外編 玄武 -1
これは、ゆめ――
ずっとむかしのゆめ――
あたまがぼーっとする。
きこえてくるこえ。たのしそうなこえ。
そっちにいってみると、おにいちゃんがいた。おにいちゃんふたりいるけど、うえのおにいちゃん。
「―――、もうなおったのか?」
おにいちゃんがえがおではなしかけてくる。
そのとき、ゆきがふってきた。そして、とつぜんどーーんってなった。
でも、おにいちゃんがまもってくれた。とてもやさしいんだ。だからだいすき。
物心ついた頃から、ずっと修業だった。
「おまえは玄武を継いでいかねばならない」
それが父親の口癖だった。
意味はよくわからなかったが、反抗はしなかった。強くなっていくことが楽しかったから。
平和な日常。
父の後を継ぎ、道場の師範となった。
結婚をし、子を授かった。
特に何があったわけでもない。
平凡な生活を送り、気付けば歳は七十を越えていた。
これは、ゆめ――
ずっとむかしのゆめ――
おにいちゃんが、すごいひとになった。
せかいじゅうのひとをたすけてるんだ。
うれしかった。じまんだった。
あるひ、おとこのひとたちがきた。まもってくれるって。だから、かぞくみんなでついていった。
さいしょに、からだのけんさをした。ねてるうちにおわった。
でも、そのあと、かぞくにはあわせてもらえなかった。
それは突然だった。
天変地異。
妻とはすでに死別していたが、子や孫とは音信不通になってしまった。幸い、道場や家は無事だったが。
補給物資は期待できない。どうやらここだけでなく、世界中が同じ状況らしい。
これは、ゆめ――
ずっとむかしのゆめ――
すごいじしんがあった。こわくて、ベッドのしたにずっとかくれていた。
そのうち、くらくなってきた。でんきがつかない。
ろうかにでてみた。だれもいない。
おとうさんに、おかあさんに、おにいちゃんたちに、おじいちゃんに、おばあちゃんに、あいたい。
だれもいないから、「たちいりきんし」っていわれてるところにいってもおこられない。
かぞくをさがしてるうちに、そとにでた。
街を歩き回った。無論、一人でも多くの人を助けるためだ。老いてはいるが、毎日鍛えている。若いもんには負けん。
そのうち、とある製薬会社の研究所についた。
……人気はなさそうだ。別の場所へ……と思ったとき、小さな女の子を見つけた。
「こんなところでどうしたんじゃ?」
「かぞくをさがしてるの」
天変地異ではぐれてしまったのか?
神や仏は、こんな小さな子にも試練を与えるのか……!
「よし、一緒に探そう」
その子をおんぶし、研究所内を歩き回る。
しかし、家族どころか誰もおらず、とりあえずこの子を家へと連れて帰ることに。
しばらく泣きじゃくっていたが、夕飯を食べるとすぐに寝てしまった。疲れていたのだろう。
次の日、門下生が道場に集まった。
「師範、その子は誰ですか?」
当然の質問だろう。今までこの家には自分一人しかいなかったのだから。
「……孫じゃ」
とっさに答える。が、どうやらみんな納得したようだ。
「名前は?」
……これはまいった。そういえば名前を聞いていない。
「あー……ほれ、自己紹介を」
うむ、本人に名乗らせればよい。
「……わかんない……」
「なぬ……?」
「覚えてない……」
これは……むぅ……
「ふむ……わしもしばらく会ってなかったから、忘れてしまった……」
師範がボケたと笑う門下生達。
「んじゃ、その子の名前を決めませんか?」
提案があった。どうやら切り抜けられたようだ。
門下生達がわいわいと楽しそうに話し合う。どうやら決まったようだ。
お姫様のように可愛らしいことと、これからの世界を太陽のように明るく照らしていく希望の芽という意味を込めて。
『陽芽』と。
これは、ゆめ――
ずっとむかしのゆめ――
なにもおぼえていなかった。
かぞくをさがしてたのに、そのかぞくのかおがおもいだせなかった。
おじいさんにあった。
おじいさんは、みんなにうちをしょうかいするとき、「まごじゃ」っていった。
そして、みんなが『ひめ』ってなまえをつけてくれた。
そのよる、おじいさんにきいた。
「おじいさんは、うちのおじいさんなの?」
おじいさんはちょっとかんがえて、わらって「そうじゃ」っていった。
陽芽を孫として育てることを決め、家を失った一部の門下生も我が家に住まわせ始めた頃、不思議な力が宿った。
水を操る力。
どうやら自分だけではなく、日本中で様々な人が様々な力を宿らせているらしい。外国の情報が入ってこないからわからんが、おそらく日本だけではなく、世界中で起きている現象だろう。
これに対し、多くの人が困惑したが、国の対応は意外と早かった。
この力は、大まかに『木』『火』『土』『金』『水』の五つに分類されることから、『五行』と名付けられた。違う力もあるようだが、日本ではこの五行が一般的だ。
また、鍛練によって数種類の力を使えるようになるらしく、それによって『ランク』を付けることに決めたらしい。
普段から精神の鍛練もしていた自分は、すぐにランク4に認定された。
「さすが師範ですね。四種類の力を使えるなんて、きっと師範が世界最強ですよ」
「おだてるでない」
そう。数種類の力を使えたとしても、ただ応用力が上がるだけで、強いというわけではない。その力を極めたランク1の方が強いのではないかと考えている。
人はそれぞれ基本となる『気』がある。その気の流れみたいなものを変えることで、別の気を作り出し、使用する。そのため、どうしても基本の気よりも弱くなってしまう。それを繰り返せばなおさらだ。
自分の場合は『水』が基本の気だ。その『水』から『木』を作り、『木』から『火』を作り……『土』の気を作り出したときには、すでに『金』の気を作るだけの力は残されていない。
そんな弱々しい『土』など、闘いでは使えないだろう。『火』も怪しいところだ。




