番外編 白虎 -5
どこをどう歩いたのかわからない。記憶がない。
気付いたときには、俺は孤児院にいた。
「ご飯ですよ~!」
食堂の方から声が聞こえる。
「………」
身体の傷は癒えた。しかし、精神的なダメージは未だ爪痕を残していた。
「じいさん……」
生きてもっと強くなれ。いつかオロチを倒すチャンスがくる。その時を待つんじゃ――
ふと、じいさんが言っていたことを思い出した。
……動かなければ……
オロチには負けたが、いつか勝つために行動せねば……!
恐怖で震えが止まらない手を、ぐっと握りしめる。
「白宗、食事の時間ですよ」
院長が俺に声をかける。
「……先生……俺、行きます」
「……もう大丈夫なのですか?」
「やらなきゃなんないことを思い出したんです」
「……いってらっしゃい、白宗」
「いってきます」
俺は院長に深く頭を下げ、まずは富士取区へと向かった。
レジェンドになると、運営側から住む場所を提供してもらえる。高級なマンションの一室。かなり広く、セキュリティも万全だ。
今、俺はその部屋を片付けていた。
「ふぅ……こんなもんか」
ほとんどゴミ行きだ。ある程度の着替えと金があればどうとでもなる。
次の目的地に行こうと外に出る。
「てめぇ、何してんだっ!!」
「あ?」
声をかけられ、振り向く。
「よう、ブラズ」
「よう、じゃねぇよ!てめぇ、ラインファイトの登録を解除したらしいな!!」
「ああ」
登録解除。まぁ引退だな。
ここで闘うだけじゃ、きっとオロチにはとどかない。強くならなきゃなんねぇ。もっと、もっと。
「ふざけやがって……!負けんのが怖くなったかぁ!?」
「ぎゃあぎゃあわめくな。別の目的を見つけただけだ。じゃあな」
まだブラズが何か騒いでいるが、それを無視して歩き出す。
目的地は、元藤道場。
「頼も~うっ!!」
やはり道場にのり込む時は、このかけ声だろう。……いや、道場破りする気はないが。
ここの門下生だろう。十数人が集まってきた。
「何か御用でしょうか?」
警戒心丸出しで話しかけてくる。
「元藤玄十郎殿のお孫さんにお会いしたい」
「すみません、見知らぬ方をお通しするわけには――」
「玄十郎殿より、お孫さんの護衛を頼まれてきた」
「……っ!?……少々お待ちください」
そういうと、奥へと走っていった。
他のやつらは俺を見張っているのか、動こうとしない。
「………」
「………」
特に話すこともねぇ。気まずい。
数分して、一人の女の子が出てきた。
十歳にも満たないくらいだろう。泣いていたのか、目が赤く腫れぼったい。
「あの……元藤玄十郎の孫、元藤 陽芽……です……」
「仮子白宗だ」
「あなたも……討伐作戦に……?」
「ああ」
「あの……おじい様は……?」
悲痛な顔をしている。生きていると言ってほしい。そんな願いが伝わってくる。だが……
「玄十郎殿は、最後まで勇敢に立ち向かわれた。俺が弱かったせいでどうなったかはわからないが……あの状況では……おそらく……」
「そう……ですか……」
現実を受け入れなければならない。俺は自分の弱さを。この子は祖父の死を。前に進むために。
「玄十郎殿から依頼された。『孫を守ってくれ』と」
「おじい様から……?」
「ああ。勝手に話を進めて申し訳ないが、よろしく頼む」
この日のうちに道場の近くにアパートを借り、そこに住み始めた。
毎日のように道場に顔を出し、ときには門下生に武術――我流のケンカ殺法だが――を教え、ときには道場や庭を借りて修行をし、オロチのことも調べた。調べたといっても、オロチと戦う者をスサノオと呼ぶことくらいしかわからなかったが。まぁ勉強してもオロチに勝てるわけじゃねぇし、これはすぐ挫折したけどな。
スサノオを名乗る少年が現れびっくりするのは、これから七年ほど後のことだ――




