第二十九話:春宵の自家製餃子 これからの約束
やわらかな春の宵、路地裏の解呪屋には香ばしい匂いとパチパチという軽やかな音が満ちていた。
今日二人が仕込んだのは、薄い皮から手作りした「特製もちもち焼き餃子」だ。
粗挽きにした豚肉にたっぷりのキャベツ、ニラ、そして隠し味にすりおろした生姜とゴマ油、少量のオイスターソースを加えて練り上げたアン。丁寧に作られた自家製の皮で包み、鉄鍋にぎっしりと並べて焼き上げる。水を加えて蓋をし、蒸し焼きにしたあと、仕上げにごま油を回しかけてカリッと香ばしく焦げ目をつけた。
大皿に盛り付けられた餃子は、きつね色の美しい羽を纏い、湯気とともに食欲をそそるニンニクとニラの香りを放っている。
「ガラフさん、焼き立ての熱々ですよ! タレは自家製のラー油とポン酢を合わせて作りました」
「おっ、いい焼き色だな。餃子は焼き立てのパリッとした瞬間を逃す手はない」
ガラフがさっそく箸を伸ばし、羽のついた香ばしい餃子をタレにくぐらせて口へ運ぶ。
サクッとした皮の香ばしい音に続き、中からジュワリと濃厚な肉汁が溢れ出した。
「……うめえ! 皮のモチモチ感と底のカリカリ感が最高だ。中のニラと生姜の風味が利いてて、肉汁の旨味が弾けるな」
「ふふ、皮の厚みを均一にするために粉の配合にこだわったんです! このポン酢タレでさっぱり食べると何個でもいけちゃいますよね」
ヴィアンカもハフハフと熱々の餃子を味わい、美味しさに目を細めた。
二人で競うように餃子をつまみ、お腹がいっぱいになった頃。外の路地裏には、満天の星空が広がっていた。
ガラフは温かいお茶をすすりながら、ふと静かな声で口を開いた。
「ヴィアンカ。王都からの打診を断って、本当に後悔はないか? お前なら、王都に戻ってもっと大きな手柄を立てることだってできたはずだ」
ヴィアンカは一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに柔らかく澄んだ笑顔を浮かべた。
「後悔なんて、一度もしたことがありません。勇者として誰かに勝つことよりも、この街でガラフさんと一緒に美味しいご飯を食べて、小さな『呪い』を解いて笑顔を増やすこと……それが、私のいちばんやりたいことです」
真っ直ぐなヴィアンカの言葉に、ガラフは魔草をくわえ直すと、ふっと嬉しそうに目元を緩めた。
「……そうか。なら、決まりだな」
「え?」
「これからもこの場所で、俺と解呪屋を続けてくれるな? お前がいなきゃ、この店の『解呪』も、うまい飯も始まらねえ」
ガラフの少しぶっきらぼうで、けれど確かな信頼の込もった言葉に、ヴィアンカの胸に温かな灯火がともった。
「はい! もちろんです、ガラフさん。これからもずっと、よろしくお願いしますね」
春の宵風が静かに吹き抜ける中、二人は未来に向けた確かな約束を交わした。店頭に掲げられた『リード&ヴィアンカ解呪屋』の看板が、星明かりを受けて静かに揺れていた。




