第三十話:朝露のおにぎり (最終話)
朝露が太陽の光を浴びて輝き、爽やかな春風が路地裏を駆け抜けていく。
解呪屋の厨房では、パチパチと薪がはぜる音とともに、土鍋で炊き上げられるお米の甘い香りが漂っていた。
「ガラフさん、ご飯が炊けましたよ! 今日の朝ご飯は、ふっくら握った特製おにぎりです!」
ヴィアンカが木桶に炊きたてのご飯を移し、手粉と塩を軽く打つ。熱々の白いご飯を手のひらに包み込み、優しく、けれどしっかりと三角に形を整えていく。
具材は三種類。旨味が詰まった香ばしい焼き鮭、じっくりと漬け込んだ甘酸っぱい自家製梅干し、そして甘辛く炒めた昆布の佃煮だ。香ばしくあぶったパリパリの海苔を巻きつけると、温かい湯気とともに香ばしい磯の香りが立ち上った。
「ほう……シンプルな朝飯だが、一番旨そうに見えるな」
「ふふ、おにぎりは握る人の温もりがそのまま味になるんですよ。さあ、温かいうちにどうぞ!」
ガラフは焼き鮭のおにぎりをひとつ手に取ると、豪快に口へ運んだ。
パリッとした海苔の食感と、ふっくらとほぐれるお米の甘み、そして香ばしい塩鮭の塩気が絶妙な調和を描く。
「……うめえ。お米の一粒一粒に旨味が詰まってやがる。塩加減も絶妙だ」
「よかったです! お味噌汁とお漬物もどうぞ」
ヴィアンカも梅干しのおにぎりを頬張り、甘酸っぱさとご飯の甘みに思わず笑顔を浮かべた。
二人が賑やかに朝ご飯を食べていると、裏庭から「キュイッ!」と元気な鳴き声が響いた。イクイノクスが朝の日差しを浴びて翼を広げ、気持ちよさそうに空へとはためいている。
表の通りからは、威勢の良い声が聞こえてきた。
「おはよう、解呪屋の二人! 今日も新鮮な肉が入ったぞ!」
精肉店のバルトが手を振りながら通り過ぎ、続いて花屋のおかみさんや近所の子どもたちが「ガラフさん、ヴィアンカさん、おはよう!」と笑顔で声をかけていく。
店頭に掲げられた『リード&ヴィアンカ解呪屋』の看板が、温かな朝日に照らされて誇らしげに輝いていた。
「……さて、今日も一日が始まるな」
ガラフはおにぎりを食べ終えると、いつもの毛布を肩にかけ、魔草を口にくわえてカウンターの特等席へと腰を下ろした。
「はい! 今日も街のみんなの困りごとを、たくさん解決してあげましょうね」
ヴィアンカは前掛けをしっかりと結び直すと、太陽のような明るい笑顔でガラフに応えた。
落ちこぼれの元勇者と、人嫌いの元竜騎士。
二人が作り出す温かなご飯と『解呪』の魔法は、これからもずっと、この路地裏でたくさんの人々の心と日常を照らし続けていくのだった。
(完)




