第二十話:雪降る夜の特製グラタン
査察団の襲来が明日に迫る中、王都直属の親衛隊による圧力を撥ね返すべく、ヴィアンカは力強く厨房に立っていた。
冷たい雪がしんしんと路地裏を白く染め上げていく。こんな寒夜だからこそ、腹の底から勇気が湧いてくるような、アツアツで濃厚な料理を作らなければならない。
今夜の夕食は、こんがりとした焦げ目が食欲をそそる「特製海鮮グラタン」だ。
バターをたっぷり溶かしたフライパンで、大ぶりに切ったエビとホタテ、シメジ、そしてみじん切りのタマネギを丁寧に炒めていく。白ワインをひと回しして海鮮の旨味を閉じ込めたら、別の鍋で小麦粉とバターをじっくり練り上げたルウに、温めた牛乳を少しずつ加えて滑らかなホワイトソースを作り上げる。
濃厚なソースに隠し味として少量の白味噌と削ったチーズを混ぜ込み、炒めた具材とあわせる。耐熱皿に盛り付け、その上にこれでもかとたっぷりのナチュラルチーズとパン粉を散らしたら、薪ストーブの上のオーブンへ滑り込ませた。
やがて、香ばしいチーズの匂いと海鮮の濃厚な湯気が部屋いっぱいに充満していく。オーブンの小窓から覗くと、表面のチーズがグツグツと黄金色の泡を立てて焼き上がっていた。
「ガラフさん、熱々の特製グラタンが出来上がりましたよ!」
ヴィアンカが厚手のミトンで耐熱皿を運んでくると、カウンターの奥で羊皮紙の地図を広げていたガラフがゆっくりと顔を上げた。
「……おう、すごい匂いだ。腹が減って仕方なかったところだ」
テーブルの中央に置かれたグラタンからは、フツフツと音を立てる白いソースと香ばしい焦げ目が最高のコントラストを描いている。スプーンを差し入れると、とろりと伸びるチーズとともに、ぷりぷりのエビとホタテが顔を出した。
ガラフはハフハフと息を吹きかけながら、大きめの一口を頬張る。
「……うめえ。海鮮の出汁がソースにしっかり溶け込んでやがる。味噌のコクが効いてて、しつこくないのが絶妙だな」
「ふふ、お口に合って良かったです! 寒さを吹き飛ばすために、隠し味に白味噌を入れてみたんです」
ヴィアンカもスプーンを運び、熱々のグラタンを口に含んだ。濃厚なホワイトソースの優しさと海鮮の旨味が広がると同時に、胸の奥に固まっていた不安がじんわりと溶けていくのを感じた。
ガラフはグラタンを綺麗に平らげると、スプーンを置いて満足そうに息を吐き、ポケットから魔草を取り出して口にくわえた。
「……勇者ちゃん。明日の査察団の件だが、作戦がある」
ガラフの低い声に、ヴィアンカは背筋を伸ばした。
「彼らは『負の呪具』の出所をこの店になすりつけようとしています。ですが、私たちが今まで街の人たちと作ってきた繋がりや、この店で扱っている呪い道具の記録を提示すれば、絶対に不当な罪は着せられません」
「ああ。バルトやリリィの母親たちが、親衛隊に直接『解呪屋を疑うのはおかしい』と声を上げてくれてるらしい。近所の奴らも、うちの道具を検分役に差し出してくれるそうだ」
ヴィアンカは瞳を輝かせた。
「みんなが助けてくれるんですね……!」
「ふん。日頃の美味い飯と、お前の無駄に真っ直ぐな説得の賜物だな。王都の連中は、この路地裏の繋がりを舐めすぎてる」
ガラフは不敵な笑みを口元に浮かべると、力強い手でヴィアンカの頭をぐしゃりと撫でた。
「明日は堂々と出迎えてやろうや。俺たちの『解呪屋』を、絶対に踏みにじらせやしない」
「はい、ガラフさん!」
窓の外で舞う粉雪をあたたかな灯火が照らし出す。どんな暴風が吹き荒れようとも、二人が築き上げた小さな城は決して揺らぐことはなかった。




