表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
99/109

95 前田君は端役も覚えていた

 宿屋は河岸に近い大路へ面していた。


 二階建ての大きな木造建築で、正面の軒先には雨宿りをする旅人や荷運び人が集まっている。屋根から落ちる雨水は石造りの溝へ流れ込み、そのまま河川へ向かって勢いよく流れていた。


 宿の裏手には厩と荷車置き場があり、濡れた馬の身体から立ち上る湯気が、雨の冷たい空気へ溶けている。


 華麟は宿屋の軒下へ入ると、蹄の下にあった雲を消した。


 前田が背から降りるまで動かずに待つ。


 前田は鬣から手を離し、濡れていない地面を選んで華麟の背から降りた。前田が十分に離れたことを確かめてから、華麟の身体が淡い金色の光に包まれる。


 いつも通り、光が消えた時には、金色の髪を持つ女性が立っていた。もうお約束の光景である。


 麒麟の姿だった華麟も、背に乗っていた前田も、薄雲に守られて最初から濡れていない。人形となった華麟の衣にも、前田の深紫の朝服にも、水滴一つ付いていなかった。


 二人にとってはお約束だが、周囲で蓑を脱ぎ、水を払っていた旅人たちは、麒麟の変化の姿を見て少し畏怖するような顔になる。


 河川沿いの宿場では、泰鳳の配下である綺凰が待っていた。綺凰も人形になっている。


 綺凰は浅緑の朝服を身につけ、宿屋の入口に近い板敷きの上へ立っていた。


 普段は総漢国鳳凰総領府の受付で、同族の鳳凰を相手に仕事をしている。そのため人形の姿で遠方の宿場へ出張する機会は少ない。


 着慣れない朝服の襟元を何度も確かめた形跡があり、髪も公務に相応しいよう丁寧に結われていた。


 二人の姿を見つけると、綺凰は安堵したように息を吐いた。


 前田たちが雨によって予定より遅れる可能性も考え、かなり早い時刻から待っていたらしい。綺凰の傍らには書状を入れた箱と、街道や四神の居所を記した地図が用意されている。


「前田様、華麟様。お待ちしておりました。」


 綺凰は二人へ深く礼をした。


 突然、美凰に捕まえられて出迎え役を命じられたとは思えないほど、作法は整っている。


 受付で政治的立場の異なる鳳凰たちを毎日のように相手にしているだけあり、本人が不安に感じていた以上に接待役としての能力は高かった。


 前田も礼を返し、華麟は綺凰へ労いの言葉を掛けた。


 三人は宿屋の奥に用意された部屋へ移った。


 窓の外には増水した川が見える。雨粒が水面へ無数の波紋を作るものの、速い流れによってすぐに崩されていた。


 室内には火鉢が置かれ、濡れた旅装を乾かせるようになっている。


 もっとも、前田も華麟も濡れてはいない。綺凰の朝服にも水滴一つ付いておらず、三人だけを見れば、外で雨が降っているとは思えなかった。


 綺凰は、蒼龍真君と白蓮康成へ既に使者を送ったこと、鉄蔵へは角陽国を経由して書状を届けていることを伝えた。


 綺凰は箱から書状の控えを取り出し、送付先と使者の経路を一つずつ説明していく。


 蒼龍真君への書状は、彼の遠縁である広海が湯谷国へ運んでいる。


「え?広海って、あの広海君?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ