96 綺凰さんも巻き込まれ役
前田は思わずツッコむ。広海とは瘴気雲を払う際に会ったことがあるからだ。
「ああ、前田様もご存知でしたか。」
綺凰は美凰と泰鳳に詰められていた広海を思い出す。
「ちょっと可哀そうなことに、半強制的に大役を任じられてました。」
「ああ・・・。」
前田は納得してしまった。それを見て綺凰は話を続ける。
白蓮康成については、華胥国にいる白虎を介して既に話が伝わっていた。康成は人間や仙人の政争へ巻き込まれることを嫌うが、二人の素王が協力していること自体は悪く思っていないらしい。
鉄蔵は角陽国で帝国軍を率いている。
魔王軍の実効支配地域に近く、通常の書状を直接届けることは難しい。そのため角陽国の官衙と帝国軍の連絡網を経由し、法皇の命令に関する文書と同じ経路で届ける手配がなされていた。
紅蓮鷹女については、美凰が帝国の鳳凰界を通じて面会を求めているという。
鷹女は人皇へ聖別を与えた側近である。
総漢国大王派の美凰が個人的に面会を求めれば、尚英や人皇を巡る政治的な交渉と見られかねない。そのため美凰個人の伝手だけでなく、帝国鳳凰界の正式な連絡網を通して、二人の素王への聖別について話し合う形を整えているのである。
前田は、綺凰が広げた書状の控えと地図を交互に見た。
自分と綾子が四神から聖別を受けるため、総漢国だけでなく、海の向こうの島や遠く離れた草原、魔王軍と接する北方にまで使者が送られている。
改めて考えると、途方もない規模の話だった。
「泰鳳さんと美凰さん、本当に協力しているんですね!」
前田が驚くと、綺凰は微妙な顔をした。
綺凰は返事をする前に一度、視線を逸らした。
協力していると言い切るには、総領府で目にした二人の姿があまりにも険悪だった。しかし協力していないと答えるには、目の前にある書状や手配が整いすぎている。
「協力していると申しますか、お互い会話をせずに作業を続けております。」
「それは協力していないのでは?」
前田は思わず首を傾げた。
元の世界の会社でも、仲の悪い社員同士が必要最低限の会話だけで仕事をすることはあった。
しかし会話そのものをせずに共同作業が進むという状況は、前田にも想像しにくい。
「結果として交渉は進んでおりますので。」
綺凰は遠い目をした。
総領府で、泰鳳と美凰が一言も交わさないまま書類を処理していた姿を思い出している。
二羽の周囲では大王派と反大王派の鳳凰たちが互いを逆賊や佞臣と呼び合い、受付を担当していた綺凰まで巻き込まれた。
それでも泰鳳と美凰が作った工程表や書状には、ほとんど食い違いがなかった。
綺凰には、あの二羽が仲良くなったとは到底思えない。
「ちょっと、どういう感じの協力なんですか?」
華麟が聞く。




