97 華麟ちゃんは天然
華麟は純粋に不思議そうな顔をしていた。
泰鳳と美凰が長年対立してきたことは知っている。それでも今は同じ目的のために動いているのだから、話し合いながら仲良く仕事をしているのではないかと考えていたらしい。
綺凰は、どのように説明すればよいのか迷った。
やがて諦めたように息を吐き、総領府で見たままを伝える。
「同じ部屋で一言も口を利かず、泰鳳様が日付を直せば美凰様が別の書類へ反映し、美凰様が地図を広げれば泰鳳様が必要な書状を揃えます。ただ、口を開けばすぐ喧嘩になります。」
「ああ、なるほど。以心伝心ですね?」
華麟が天然キャラのようにそういうと前田と綺凰は黙り込んだ。
華麟は納得したように両手を合わせている。
言葉を交わさなくても互いの考えていることが分かり、必要な行動を取る。説明だけを聞けば、確かに以心伝心と呼べなくもない。
しかし前田は、魔瘴雲を祓った後から何度も目にした二人の口論を思い出していた。
綺凰は、自分を接待役へ選ぶ際に、泰鳳と美凰が「誰でもよい」「では適当に決める」と話し、その直後に美凰から蛇の身体で捕らえられたことを思い出している。
二人とも、それを美しい以心伝心と呼んでよいものか判断できなかった。
「あれ?どうしたんですか?」
「「いや、なんでもないです。」」
二人の声が揃うと、今度は華麟が目を瞬かせた。
前田と綺凰は互いの顔を見る。
二人もまた、何の打ち合わせもなく同時に同じ答えを口にしていた。
それを見ると何故か華麟は嬉しそうに微笑む。
その表情を見る限り、二人の反応も以心伝心の一種だと思ったらしい。
前田は否定しようとしたが、説明すればするほど誤解を招きそうな予感をした。綺凰も同じ判断をしたのか、無言で書状の控えを片づけ始めた。
窓の外では雨が降り続いていた。
軒から落ちる水が細い幕を作り、その向こうを、蓑を着た宿場の人々が忙しなく行き交っている。増水した川を進む船はなく、岸へ繋がれた船体だけが流れに押されて揺れていた。
蒼龍真君、白蓮康成、鉄蔵、紅蓮鷹女――四体の四神がどのような返事をするかは、まだ分からない。
それでも、泰鳳と美凰が対立したまま進めた交渉は、前田たちの旅よりも先に帝国各地へ届き始めていた。




