89 泰鳳への期待
書状には彩比売の発言が記載されていたが、その一言一言について内心を推測するような記述はない。皇太子の言葉を勝手に解釈することは、それだけで政治的な危険を伴うからである。
「東宮殿下は、前田と同じ四神に聖別させる条件で、佐藤綾子と泰鳳、杏麟の三者を罪に問わないよう改めて地皇宮から総漢国大王宮に通達することを了承されました。」
延鳳は声を張ることなく、事実だけを読み上げた。
地皇は表情を変えなかった。
部屋の隅では書生の筆が紙の上を走り、東宮が了承したという事実を記録していく。
了承と言ってもいつも通り「わかったわ」と述べただけであるが、延鳳にとっては総漢国のみならず帝国全体の鳳凰界のホープである泰鳳を守ることに彩比売が積極的に反対しないだけで意味があるのである。
彩比売は、泰鳳の行動を称賛したわけではない。
佐藤綾子を次の総漢国大王にすることへ賛成したわけでもない。
ただ、前田と佐藤綾子を同じ条件で四神に聖別させるならば、泰鳳らを直ちに罪へ問う必要はないという提案を拒まなかった。それだけで延鳳には十分だった。
次代の法皇が反対しなかったという事実は、現在の法皇や三皇、大王国へ送る文書の重みを大きく変える。
泰鳳は若くして総領になり、帝都の鳳凰たちとも交流がある。尚英と対立する彼が佐藤綾子を公式に召喚できたのは、まさに彼が帝国全体の鳳凰界のホープだったからに他ならず、その裏では延鳳が地皇らに行った根回しもあった。
泰鳳は過激である。尚英を殺して佐藤綾子を大王にすればよいと公然と言い、美凰から反逆だと繰り返し叱責されている。
それでも、若くして総漢国の鳳凰たちをまとめ上げ、帝国各地の鳳凰とも交渉できる実務能力は本物だった。
延鳳にとって泰鳳は、危険だから切り捨てるべき若者ではない。危険な部分を抑えながら守り、いずれ帝国全体の鳳凰界を支えさせるべき人材だった。
そのため佐藤綾子の召喚を尚英に認めさせる際にも、地皇宮を通じて圧力を加えた。
尚英がその経緯を忘れているはずはない。
「わかった。よきに計らえ。」




