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88 鳳凰界のナンバー2

 そのころ、大倭帝国地皇宮――


 帝都の地皇宮には張り詰めた静けさが満ちていた。


 官僚機構の管理と鳳凰・麒麟らの監督を所轄する地皇の宮だけあって、建物の周囲には幾棟もの官衙と文書庫が連なっている。回廊では位階ごとに異なる色の朝服をまとった官人たちが行き交い、木簡や書状を載せた盆が絶え間なく運ばれていた。


 地方官の任免、官司同士の権限争い、麒麟や鳳凰から届けられる上申書。それらは全て整理され、担当官の意見を付された後、必要と判断されたものだけが地皇のもとへ届く。


 地皇が実際に目を通すのは、地皇宮で処理される文書のほんの一部である。もっとも口頭での要旨の報告も含めると膨大な公務が存在するが。


 それでも全ての決定は、地皇自身の意思によって行われたものとされた。


 拝謁の間には厚い敷物が敷かれ、磨かれた柱の間には官僚機構を象徴する紋章が掲げられている。香炉から立ち上った細い煙が、天井近くでゆっくりとほどけていた。


 地皇は一段高い場所に座り、その手前には記録を担当する書生が控えている。部屋の隅には数名の側近がいたが、誰一人として不必要な物音を立てなかった。


 帝国の鳳凰たちのナンバー2である大倭帝国鳳凰副王延鳳は、地皇に拝謁していた。


 延鳳は拝謁の礼に合わせて人形を取っている。


 鳳凰としての華やかさを必要以上に表へ出すことはなく、帝国の官人と似た正装をまとっていた。それでも、長い年月を生き、帝国全土の鳳凰たちへ影響力を持つ者だけが備える重い霊気までは隠せない。


 拝謁の間へ入った時、延鳳は地皇に対して恭しく礼をした。


 なお副王というと一般の皇族や王族の王よりも隠したと見られがちだが、実際には鳳凰と麒麟の長である鳳凰王と麒麟王は三皇や法王、斎王、それに皇后や皇太子と言った皇身位者と同格で大王や親王、素王よりも上であり、その副王であるから大王や親王、素王と同格の立場である。


 従って、延鳳は総漢国大王である尚英と制度上は同格となる。


 泰鳳が総漢国の鳳凰総領として尚英へ強く出られるのも、単に泰鳳自身の性格が過激だからではない。帝国の制度そのものが、鳳凰の自治と地位を大王国に対して保障しているからである。


 地皇宮から見ても、延鳳は監督を受ける側であると同時に、帝国の秩序を共同で支える相手だった。


 もっとも、これは鳳凰や麒麟が人間やその亜種である仙人等とは異なる原理で動いていることを追認するための象徴的な措置ではある。過去には法皇の継承の際に鳳凰や麒麟が対抗法皇を擁立するなどして混乱したことがあったことの反省の上に今の制度がある。


 鳳凰や麒麟は帝国の官職だけで統制できる存在ではない。


 彼らには彼ら自身の社会と序列、信仰、政治がある。法皇や三皇が命令したからといって、全ての個体が無条件に従うわけではなかった。


 逆に鳳凰や麒麟の意向を無視すれば、皇身位者に必要な聖別を受けられない可能性すらある。


 法皇の継承争いへ鳳凰や麒麟が介入した過去は、人間と仙人の朝廷にとって消すことのできない記憶だった。鳳凰王と麒麟王へ極めて高い格式を与えたのは、彼らの権威を称賛するためだけではない。


 帝国の外から独自に動かれるよりも、帝国の制度の中へ高い地位で迎え入れた方が安全だという、現実的な判断でもあった。


 なお、法王と斎王、伯王とが三皇と同格になるのも複雑な歴史的背景があり、元々は法皇の元に三皇がいてその下に法王と斎王、伯王とがいるという解釈もあればその逆の主張もあり、さらには法王だけが法皇の輔佐として特別であるという意見も出たりして、今から千三百年ほど前にようやくこの六者が対等となった経緯がある。


 六者の格式が対等と定められるまでには、数え切れないほどの論争と儀礼上の衝突があった。


 長い争いの末に、三皇、法王、斎王、伯王は、それぞれ役割こそ異なるものの、法皇を支える者として格式上は対等であるという建前が成立した。


 その矢先に――仙人や鳳凰、麒麟、四神にとって三百年は人生の一部に過ぎない――三皇と対等になった伯王波旬が造反したわけであるから、皮肉なものである。


 伯王が制度上の権威と、秘術を統帥する実力の双方を用いて魔王を名乗ったことは、帝国の統治思想へ決定的な影響を残した。


 権威ある者が、自らの判断で直接政治を動かせば何が起こるのか。


 その恐怖が、法皇や三皇を儀礼的な裁可者へと変えていったのである。


 さて、延鳳は地皇に報告をしていた。


 延鳳の前には、東宮との面会内容を簡潔に記した書状が置かれている。


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