87 お墨付き
歓声が少しずつ静まっていく。
「大王家は臣民と共にある。余は常に臣民の声に耳を傾ける。臣民たちは不逞なる官吏ではなく、法に従って生きてほしい。」
あくまでも一般論でしかないことを述べて愛莉王は締めくくった。
愛莉王は政府を倒せとは言っていない。
官吏を捕らえろとも、泰鳳らを討てとも命じていない。
法に従えと明言している以上、公民連合の暴力的な行動を戒めたのだと説明することすらできる。
だが、この場に集まった者たちは、愛莉王の言葉をそのようには受け止めなかった。
彼らにとっての「不逞なる官吏」とは、公民連合を取り締まる警察官であり、泰鳳らの行動を容認する政府高官であり、大王家への忠誠よりも帝都の意向を優先する者たちだった。
そして「法に従って生きる」とは、そのような官吏へ抵抗し、大王家を守ることを意味していた。
解釈次第では、公民連合の暴走を諫めて法を遵守させたと受け止めることもできる。いや、事実仮に政府高官に抗議されたらそう返すつもりだろうし、そう言われたら政府もまさか王族を捕らえる訳にもいかない。
愛莉王は演台から一歩下がり、臣民へ向かって軽く会釈した。
再び拍手が沸き起こる。
その音は壁や天井へ反響し、公会堂の外にまで広がった。広場に残っていた者たちも、何が語られたのかを正確に聞き取れないまま、会堂から聞こえる拍手に合わせて拳を振り上げる。
遠巻きに様子を見ていた官吏や警察官たちは、互いに顔を見合わせた。
王族本人が壇上へ立った以上、もはや単なる民間団体の集会として扱うことはできない。
しかしながら、政府からすると王族に不逞な官吏がいると公言されること自体が、脅威なのだ。もっとも、一般論として王族に叱責されると政府は引き下がるしかないし、そもそもこの国の政府はもはや官吏に不祥事がないと胸を張って反論することすらできないのだ。
公民連合に参加している者の全てが、尚英の政治に満足しているわけではない。
むしろ重税に苦しみ、政府へ怒りを抱いているからこそ、この場所へ来た者が多かった。
それでも尚英自身へ責任を問えば、大王廃位を掲げる泰鳳らと同じ側へ立つことになる。王家へ忠誠を誓いながら現状を批判するには、大王の周囲にいる奸臣へ全ての責任を負わせるほかなかった。
愛莉王の登壇は、その矛盾を解消したわけではない。
ただ、大王家も自分たちと共にあるという確信を、人々へ与えたのである。
――もちろん、反論しようにもこうなった責任のある張本人が大王だとは、政府には口が裂けても言えない。いや、それに近いことを言う人がいるからこそ、公民連合のような団体が却って盛り上がってしまうのだ。




