85 サプライズ
「政府が大王殿下をお守りできぬと言うならば、政府の方が退くべきである!官人は王命を奉じてこそ官人であり、王家に弓引く官人など、ただの逆賊にすぎない!」
木製の演台を叩く乾いた音を合図にしたように、人々が立ち上がる。
足を踏み鳴らす音が床を揺らし、天井から吊るされた灯りまで小さく振動した。二階の回廊では身を乗り出しすぎた者を隣の者が慌てて引き戻している。
代わる代わる喋る弁士たちに集会は湧く。拍手と歓声で何度も公会堂は埋め尽くされた。
拍手が完全に収まらないうちに、次の登壇者が舞台袖から姿を見せた。
美凰と親しい鳳凰の露凰も人形で登壇して語る。
露凰は壇上の中央まで静かに歩き、演台の前で一度、聴衆へ礼をした。
他の弁士のように拳を振り上げることはなかった。声を荒らげることもなく、背筋を伸ばして会場を見渡す。その落ち着いた態度が、かえって人々の注意を引いた。
「私の同志である美凰は、大王殿下への忠誠を誓っているにも拘らず、素王を無断で召喚した科で追われる身となりました。帝国の法はそもそも素王は召喚されたら素王です。しかも、総漢国の政府は大王を代えようとしていることを隠そうともしない泰鳳らが素王を召喚したことを容認したのです。このような理不尽がどこにありましょうか!」
露凰は最後まで声を荒らげなかった。
だが、泰鳳側の素王召喚は認めながら、美凰側だけを追及したという不公平は、先ほどまでの激しい言葉よりも明瞭に人々へ伝わった。
容姿端麗な女性の落ち着いた語りに人々は政府への怒りを抱く。もちろん露凰が今は泰鳳と美凰が組んでいることを言うことはない。そもそも露凰は内心では美凰が泰鳳と連携したことについて良く思っていないが、一応はプライベートでも親しい友人であることと、美凰も公民連合の評議員に名を連ねているから自制しているだけだ。
露凰は美凰が尚英を見捨てたとは考えていない。
だが、反大王派の泰鳳と行動を共にし、二人の素王を同時に守ろうとしている現状には、強い危機感を抱いていた。
ここで美凰を批判すれば、公民連合の内部に亀裂が入る。
逆に泰鳳との連携を公表すれば、美凰まで大王への反逆を疑われかねない。
そのため露凰は、美凰が素王を召喚したことと、政府から不当に追及されたことだけを語った。言っていること自体は嘘ではない。ただし、現在の状況を正しく理解するために必要な事実を意図的に省いている。
それは、この集会で壇上に立った他の弁士たちも同じだった。
一通り壇上の弁士たちが語ると、司会が告げた。
司会は手元の紙を置き、姿勢を正す。今までの弁士を紹介した時とは明らかに違う、緊張した面持ちだった。
「畏れ多くも尚英大王殿下の姪御であらせられます、愛莉王殿下がお越しくださっております!愛莉王様からのお言葉です!」




