84 連邦主義
「総漢国政府は進歩主義者を放置しておきながら、我々の平穏な集会に様々な抑圧を加えている!先日不逞警官らを捕らえた我々の同志を徒刑に処したが、本当に反逆しているのは何処の誰であろうか?」
会場の各所から「政府だ」と答える声が飛ぶ。
弁士は満足そうに頷くと、掲げていた紙を胸元へ抱き、深々と頭を下げた。民衆もまた、投獄された同志へ捧げるかのように拍手を送る。
次に登壇した出渕達樹は演台の両端を掴み、身体を前へ乗り出した。
「反大王派は自分たちこそが帝国への忠誠を誓うものだと強弁する者がいる。彼らは言う、連邦制を解体すれば法皇と三皇の統治がより直截に反映されると。では問う、帝都の官吏たちに果たして総漢国の事情を畏れ多くも大王殿下よりも知る者が一人でもいるであろうか?否!彼らはこの不肖・出渕達樹よりも総漢国のことを知らぬと言える!否!彼らはそもそも帝国の法すら知らない、なぜならば大王国による連邦制は帝国が律令で定めていることでは無いか!」
大王派の中には、尚英への忠誠心とは別に、総漢国の自治権を守ろうとする者も多い。
法皇と三皇の権威を否定するつもりはない。それでも、帝都の官人たちが地方の実情も知らずに政策を決めることには反発がある。
出渕が「帝国の法」と叫ぶたび、地方官人や商人たちが力強く頷いた。
演台が次の弁士へ譲られる。
その弁士は、税を納められず土地を失った民の話をいくつも挙げた。しかし、その責任を尚英へ向けることはなく、怒りに震える声で官人たちだけを糾弾した。
「重税を大王殿下の御意であるかのように民へ押しつけ、集めた財を己の権勢のために費やす奸臣どもを追放せよ!慈悲深き大王殿下と民との間を隔てる佞臣こそ、総漢国を疲弊させた元凶である!」
聴衆の一角で、税のために痩せ細った農民が涙を流しながら拳を握った。
実際には、重税によって集められた財の多くは、尚英が魔王討伐を目的に増強してきた軍へ注ぎ込まれている。
だが、壇上からその事実が語られることはなかった。
次に立った弁士は、背後に掲げられた尚英の紋章を指し示す。それから、見えない泰鳳を睨むように会場の奥へ指を突きつけた。
「泰鳳らは魔王討伐の名を借り、異世界から女を召喚して大王位を簒奪しようとしている!大王殿下の御親政を妨げる鳳凰の専横を、我々は断じて許してはならない!」
鳳凰の名が出たことで、会場にいた人形姿の鳳凰たちの間に僅かな緊張が走る。
泰鳳は総漢国の鳳凰界を束ねる総領である。その影響力は大きく、鳳凰の主流派は泰鳳を支持している。
それでも公民連合に参加する大王派の鳳凰たちは退かなかった。ある者は腕を組み、ある者は無表情のまま壇上を見つめ、泰鳳らへの非難を黙って受け入れていた。
その次の弁士は官人が身につける朝服をまとっていた。
その男は胸元に手を当て、あえて抑えた声で語り始める。会場が静まり返ったところで、突然、片手を演台へ叩きつけた。




