83 公民連合
「畏れ多くも大王殿下の廃位を公然と主張する輩が仙人や鳳凰の幹部の中にもいる!このような不敬を放置する政府の輩は、全員が不敬罪で自首して腹を切って大王殿下にお詫びすべきである!」
会堂の床を踏み鳴らす音が響く。
本当に政府の官吏全員が腹を切れば、総漢国の行政は即日停止する。しかし、熱狂する人々の中で、その現実的な問題へ思い至る者は少なかった。
これは総漢国の大王派の団体「公民連合」の集会である。
公民連合は尚英大王への忠誠を掲げながら、尚英の名を使って政府を攻撃する。
重税を批判しても、その責任を尚英に問うことはない。全ては大王の御心を歪める奸臣の責任であり、尚英自身は悪臣によって真実を知らされていない被害者であるというのが、彼らの基本的な主張だった。
そのため尚英への忠誠と総漢国政府への敵意は、彼らの中では何の矛盾もなく両立していた。
「君民共治」や「王土王民」を掲げる大倭帝国においては、露骨な反政府運動にならない限り政治活動が取り締まられることはない。
民が政治について意見を述べ、官吏へ請願し、集会を開くこと自体は法によって認められている。君主が民を導くだけでなく、民もまた君主へ声を届ける。それが大倭帝国の掲げる君民共治の建前だった。
もっとも、この公民連合の集会はまさに「露骨な反政府運動」に該当するはずだが、彼らは超過激であって、過去には取り締まりに来た警察官を“大王への不敬罪”で現行犯逮捕して弾正臺に引き渡した“前科”がある。
弾正臺は官吏の犯罪を捜査する部署であり、「この警察官は大王への忠誠を訴える我々を不当に捉えようとした」という理由で、取り締まりに来た警察官数人を数百人がかりで逆に捕まえて弾正臺まで引き立てたのである。
警察官たちは武器を持っていた。
だが、武器を抜けば大王を敬う臣民へ暴力を振るったと非難され、抜かなければ数百人の群衆に囲まれる。結局、警察官たちは公民連合の者たちによって縄を掛けられ、まるで本物の犯罪者のように大通りを歩かされた。
もちろん弾正臺はその訴えを認めず、逆に警察官を捕まえた公民連合の主導者数人を起訴したのだが、数百人全員を牢獄に入れるのは流石に無理と判断したのだろう、主導者だけの逮捕という比較的穏便な幕引きで済んだことは、却って公民連合の影響力を拡大させた。
公民連合の者たちは、仲間の逮捕を敗北とは受け止めなかった。
政府が数百人を恐れ、わずかな人数しか起訴できなかったのだと宣伝した。徒刑に処せられた主導者たちもまた、大王への忠義を貫いて罪を被った殉教者のように扱われている。
今回の数千人の民衆たちは、それぞれ政治に不満を持っている。弁士たちが喋るごとに拍手喝采が起きる。
重税を減らしてほしい者、大王家の権威が失われることを恐れる者、反大王派の改革によって自分の地位を失うと考える官人、単に政府へ不満をぶつける場所を求めて来た者――集まった理由は様々だった。
それでも、壇上から発せられる激しい言葉は、それぞれ異なる不満を一つの熱狂へ束ねていった。
演台へ上がった弁士が、徒刑(懲役刑)となった同志の名を記した紙を高く掲げる。




