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第三章・登場人物紹介

前田弘貴(まえだこうき)


 二十三歳の元サラリーマン。異世界から召喚された二人の「素王」の一人であり、本作の主人公である。


 第三章の開始時点では総漢国の麟徳府に滞在している。召喚そのものが無許可であった上、綾子と共同で次帥轟雷(じすいごうらい)法を使用したため、大王派による召喚ではあるものの、総漢国大王・尚英(なおひで)から反逆の疑いをかけられている。自分の召喚と聖別について法皇の裁可を求め、さらに四神の高位個体から聖別を受けるため、華麟とともに皇都へ向かうこととなった。


 華麟とは恋人となった一方、華麟が彼を召喚した本来の目的は、女性皇太子・彩比売(あやひめ)の夫にすることである。前田自身はまだ彩比売と会ったことさえなく、華麟との恋愛と、彩比売の夫候補という政治的立場との間に置かれている。それでも華麟の不安を理解し、彩比売と会った後も華麟のもとへ帰る意思を示している。


 総漢国に残る綾子には、反逆を起こさないよう念を押した。その上で、尚英に襲われた時や反逆に失敗した時には、必ず生き延びて自分のもとへ逃げてくるよう告げた。綾子の大王即位には無条件で賛成しないが、彼女が反逆者として討たれることも望んでいない。


 旅の途中では、総漢国と帝国直轄領の境にある関所で正式な審査を受けた。無許可召喚の当事者でありながら逃亡するのではなく、法皇庁へ上訴するため自ら皇都へ向かっていることが記録され、正規の手続で総漢国を出た。


 さらに大安寺の別院では、彩比売へ進講した経験を持つ比丘・光顗から彼女の人柄を聞き、自分の意思で彩比売を支えようと決意する。光顗から「利己主義を捨て、常に他者のために生きる」よう求められると、「地獄に堕ちてでも正しい道を歩む」と誓った。


 第三章終了時点では、まだ皇都へ到着していない。彩比売との面会、法皇への上訴、四神からの聖別を前に、皇都へ近づきつつある。


佐藤綾子(さとうあやこ)


 二十八歳。前田と元の世界で面識があった女性であり、もう一人の素王である。


 第三章では、前田だけが皇都へ向かい、自分は麟徳府に残ることとなった。綾子の召喚は少なくとも形式上は尚英の許可を得ているため、ここで総漢国を離れれば、大王位を狙っているが故に逃亡したと宣伝されかねないからである。


 綾子は、帰還方法も分からない以上、この世界でどう生きるかを考えるしかないと腹を括った。そして尚英に代わって自分が総漢国の大王になるという意思を、改めて明確にした。ただし、自分が大王になることを反逆と見做して前田が協力しないことも理解しており、前田から敗北した際には逃げてくるよう言われると、素直ではないながらも「考えておく」と答えた。


 前田と華麟を見送った後は、自分でも認めきれない寂しさを覚えている。前田に恋愛感情を持ったわけではないが、異世界で元の世界を共有できる唯一の相手であり、第三章では初めて前田を「友達」と呼んだ。


 一方で、前田が彩比売の夫となり、権力の中枢へ入ることで別人になってしまうことを恐れている。権力に近づいた者が地位そのものを求め、就任後には以前の純粋さを失う「大臣病」について杏麟へ語り、次に会った時も前田が自分を説得しようとする友人のままでいるのかを心配した。


 第三章終了時点では杏麟とともに麟徳府へ残り、大王になる機会を待ちながら、前田と再び合流して高位の四神から聖別を受ける準備を進めている。


華麟(かりん)


 前田を召喚した女性の麒麟。百三歳だが、麒麟や仙人の寿命ではまだ若い。


 前田を彩比売の夫にするため召喚した本人である一方、現在は前田の恋人でもある。第三章では、彩比売へ会わせるという使命と、前田を自分のもとから失いたくないという気持ちとの間で揺れている。それでも彩比売と前田の双方の意思を無視した婚姻は望まず、まず二人が実際に会って話すべきだと考えている。


 前田が法皇へ上訴する旅では、案内役、護衛、乗騎、政治上の助言者を一人で担っている。皇都では親切そうな相手から勧められても、自分へ相談せず書状へ署名したり印を押したりしないよう前田へ忠告した。朝廷には尚英と縁の深い者、人皇宮を警戒する者、魔王の存続によって利益を得る者までいる可能性があるためである。


 旅立つ前夜には、前田と恋人として過ごす時間が自分にとって特別であることを打ち明けた。皇都へ入れば前田は素王として法皇庁の宿舎へ入り、彩比売との面会も始まるため、これまでのように同じ寝所で過ごせなくなる可能性を恐れている。


 関所では、普段の柔らかな態度から一転し、前田へ聖別を与えた高位の麒麟として官人と交渉した。前田が逃亡したのではなく、本人の意思で法皇の裁可を求めていることを正式な記録へ残し、正規の通行を実現させた。


 大安寺の別院では、光顗の言葉を受けて彩比売を支える決意を固めた前田を見守った。前田を政治の駒として彩比売へ差し出すのではなく、本人が自分で話を聞き、自分の意思で彩比売のために尽くすことを望んでいる。


美凰(みおう)


 華麟とともに前田を召喚した女性の鳳凰。総漢国大王・尚英を支持する大王派に属しているが、尚英が暗君であること自体は否定していない。


 第三章では、前田と綾子へ高位の四神から聖別を与えるため、政敵である泰鳳と共同で動いた。鳳凰界の大集会では、泰鳳が綾子を新大王にするための聖別だと主張したのに対し、二人の素王が魔王討伐へ備えていることを示し、次帥轟雷法の使用が反逆ではなかったと証明するためだと訴えた。


 尚英の失政を認めながらも大王を殺害・廃位することは、総漢国だけでなく帝国の連邦秩序を壊す反逆だと考えている。この点では泰鳳と激しく対立している。


 しかし四神との交渉を進め、二人の素王を尚英へ引き渡さないという結論は泰鳳と一致していた。そのため、泰鳳が候補となる四神へ連絡し、美凰が事情を記した書面を作るという役割分担を受け入れた。


 鳳凰総領府では泰鳳と驚くほど息の合った文書仕事を行った。前田と華麟を直轄領で迎える役には、受付の綺凰(きおう)を半ば強制的に任命した。また青龍の広海を召喚し、蒼龍真君(そうりゅうしんくん)のもとへ共同名義の書状を届ける役を押しつけている。


 口を開けば泰鳳と喧嘩になる一方、二羽が協力しなければ前田と綾子を守れないことも理解している。第三章では、対立する二派の間を実務によってつなぐ役割を果たした。


杏麟(あんりん)


 泰鳳とともに綾子を召喚した女性の麒麟。綾子を総漢国の新たな大王にすることを望んでいる。


 第三章では、前田と華麟を皇都へ送り出し、自分は綾子とともに麟徳府へ残った。綾子が大王を目指す以上、尚英との最初の対立で総漢国を離れたと思われることは避けなければならないと説明し、綾子にも自分の道を選ぶよう促した。


 また、二人の素王へ聖別を与える候補として、青龍の蒼龍真君、朱雀の紅蓮鷹女、白虎の白蓮康成、玄武の鉄蔵を挙げた。聖別は力を与えるだけでなく、四神が誰を主君と認め、どの政治勢力へ関わるかを示す儀礼であるため、実力だけで候補を決めることはできないと綾子へ教えている。


 前田を見送った綾子が、彼ともう会えないかもしれないと零した際には、その真意を聞き出した。綾子が恐れていたのが前田の死ではなく、彩比売の夫となって権力へ取り込まれ、以前とは別の人間になることであると知る。綾子が初めて前田を友達と呼んだことにも気づいたが、彼女が否定するのを見越して指摘せずにいる。


 綾子の言動をほぼ全面的に肯定するところは変わらないが、第三章では綾子の大王即位を現実のものとするため、総漢国に残ることの意味や四神聖別の政治的効果を説明する参謀役となっている。


泰鳳(たいほう)


 総漢国の鳳凰界を率いる男性鳳凰。尚英を退け、綾子を新しい大王にすることを目指している。


 第三章では、美凰とともに三百羽ほどの鳳凰を集め、前田と綾子へ聖別を与える高位の四神を探す方針を決めた。泰鳳はこれを、綾子が総漢国を正道へ戻すに相応しい素王であることを示し、尚英を廃位するための準備だと公然と位置づけている。


 美凰からは、法皇の勅許を得る前から尚英の廃位や殺害を口にすること自体が反逆だと批判されている。しかし泰鳳は、重税と魔王討伐の失敗によって民を苦しめた尚英を放置する方が問題であるという立場を崩さない。


 政治的には美凰と対立しているが、実務では誰よりも相手の動きを理解している。鳳凰総領府では、互いにほとんど言葉を交わさなくても日程、宿場、書状、使者の手配を矛盾なく進めた。


 前田と華麟を迎える役を美凰が綺凰へ押しつけた際には、その人選を即座に認めた。蒼龍真君への使者となることを広海が拒んだ時には、鳳凰総領に青龍への命令権がないとの抗議を受けても、実力で従わせる姿勢を見せている。


 第三章終了時点では、美凰と共同で四神へ書状を送り、二人の素王を同じ高位四神から聖別させる準備を進めている。その協力が魔王討伐の準備と見られるか、尚英を倒す軍事同盟と見られるかは、語る者によって変わる状態である。


彩比売(あやひめ)


 十六歳。現在の法皇の娘であり、次代の法皇として立てられている女性皇太子である。


 年齢相応の可憐さと、次代の国家元首として教育された落ち着きを併せ持つ。諸国の報告を受けても、まずは「わかったわ」と受け止め、感情を直ちに表へ出さない。しかし自分の廃嫡を事実上求める伝統主義者の集会については、思わず率直な言葉で主催者を尋ね、東宮大夫の松村から言葉の選び方を教えられた。


 自分の婚姻が自由意思によるものとされながら、実際には官人や皇族、麒麟、鳳凰の思惑によって決められようとしていることを理解している。法皇の裁可や皇太子の自由意思といった帝国の建前を、松村との冗談にして楽しめるほど聡明である。


 女性である自分が夫を迎え、その子へ法皇位を継がせることに反対する勢力から、異母弟の直仁親王へ地位を譲るよう求められている。一方では、華麟らが前田を夫候補として召喚している。本人の意思とは無関係に、存在そのものが帝国の皇統を巡る政争の中心となっている。


松村彰人(まつむらあきと)


 東宮大夫として、彩比売の生活と政務を支える男性官人である。


 第三章では、金環国の祭典、総漢国での二人の素王召喚、角陽国での内通者拘束、華胥国の伝統主義者集会、典羅国のバナナ豊作まで、帝国各地の出来事を彩比売へ報告した。重大な政争から庶民の暮らしに関わる産業まで、次代の法皇が等しく知っておくべき事柄として伝えている。


 幼い頃から彩比売を見守り、単に命令へ従うだけでなく、感情をどのような言葉へ置き換えれば皇太子として適切かを教える帝王学の教師でもある。彩比売とは、帝国政治の空虚な建前を冗談にできるほど信頼し合っている。


蒼龍真君(そうりゅうしんくん)


 大倭帝国の青龍における最大部族・一燈族の長であり、湯谷国で強い信仰と声望を集める古参の青龍である。


 自他ともに認める保守派で、華胥国の伝統主義者集会へ参加し、彩比売ではなく直仁親王を皇太子にする主張へ賛同した。彩比売を廃嫡して自由に恋愛させることが本人のためだと考えている。


 女系法皇を偽帝とまで呼ぶ一方、一燈族では長女の七面龍女を後継者に選び、同母弟をその下へ置いている。その矛盾を娘から指摘されても、帝国と一燈族は別だと答えた。


 青龍の中でも高位であることから、前田と綾子へ聖別を与える候補にも挙げられている。しかし第三章終了時点では、美凰と泰鳳の書状を託された遠縁の広海が、湯谷国へ向かっている途中である。


七面龍女(しちめんりゅうにょ)


 蒼龍真君の長女にして、一燈族の跡取り娘である女性青龍。


 古式の祭礼を厳格に守り、若い青龍が本土風の装飾を身につけただけでも小言を言うほどの保守派である。その一方、正統な皇太子としてすでに立てられた彩比売を後から退けることこそ、皇室の秩序を壊す行為だと考えている。


 幼い彩比売と面識があり、自分の母が彩比売へ聖別を与えた時のことも覚えている。女系法皇に反対する父へ真正面から反論し、たとえ親であっても朝敵となるならば私情を挟まないと宣言した。


 一燈族の次代の長として、海難救助や治安維持でも実績を持つ。台風の際に遭難した漁師を救わず家で休んでいた広海を厳しく叱ったことがあり、広海からは名前を聞くだけで怯えられている。


和秀(かずひで)大王


 大倭帝国本土の東方にある島国・湯谷(ゆたに)国の大王。見た目は四十歳ほどだが、数百年を生きる仙人である。


 七面龍女から女系法皇について問われた当初は、どちらの立場から聞かれても言い逃れのできる曖昧な答えを返した。しかし彼女が女系法皇反対派ではないと知ると、女系法皇が國體(こくたい)に反するという主張は彩比売の誕生以前には聞いたことがなかったと証言した。


 法皇の裁可前に大王として特定の継承論へ深入りすることは避けながらも、すでに立太子され、聖別を受けた彩比売を後から生まれた理屈で退けることには反対している。正統な東宮を廃嫡することは、仏法が禁じる破和合に当たると考える人物である。


綺凰(きおう)


 総漢国鳳凰総領府で受付を務める女性鳳凰である。


 普段は来庁した鳳凰の書類を確認し、担当部署へ回す仕事をしている。第三章では、泰鳳の主流派と美凰の大王派が総領府へ集まり、互いを反逆者や佞臣と罵り合う異常事態の中でも受付業務を止めずに働いていた。


 その実務能力を美凰と泰鳳から評価された結果、本人の意思を確認されないまま、前田と華麟を直轄領で迎えて宿舎へ案内する役に任命された。美凰には下半身を蛇へ変えた姿で受付から連れ去られ、泰鳳からは出張用の朝服を準備するよう命じられている。


 政治的立場の異なる鳳凰たちを相手にできる有能な受付であるが、その能力ゆえに難しい仕事を押しつけられた、鳳凰総領府の苦労人である。


釈道宣(しゃくどうせん)


 大倭帝国法祇官(ほうぎかん)で法参議を務める比丘。三百年近くを生き、寺院行政、僧侶の統制、国家的な祈祷や神異に関わる案件を扱っている。


 皇太夫人とは現在の地位へ就く以前からの知り合いであり、二百年近い付き合いを持つ。大安寺で前田たちを迎える光顗は、道宣の弟子に当たる。


 第三章では沙耶親王の訪問を受け、前田と華麟が直轄領の寺院へ宿泊する件について、妨害しないと約束した。その上で、鎮護国家とは単に国の形を守ることではなく、国にある迷いを消すことでもあると沙耶へ説いた。


 神通力を持つ比丘が崇められる風潮を、自ら小さな光を出してみせながら批判する。神通力に似た現象は仙術や機械でも起こせるのであり、重要なのは菩薩として人々を救う行いだと考えている。また神眼通によって、争う意思のない者同士を争わせようとする動きが帝国に広がっていることを察し、沙耶へ警告した。


白蓮康成(びゃくれんやすなり)


 華胥国の草原に暮らす、白虎界の重鎮である。


 幻術と隠形に優れた古参の白虎であり、各地の白虎から長老として敬われている。生態系の頂点に立つ者らしく、広い草原の真ん中で無防備に昼寝をしているが、それは眠っている彼を襲って無事に帰れる者がいないためである。


 これまで人間や仙人の権力争いへ巻き込まれることを嫌い、聖別を求められても応じてこなかった。しかし前田と綾子が、政治的な思惑の違いを越えて協力していることを面白がり、二人への聖別を受け入れた。


 泰鳳と美凰が互いを信用せず、別々に使者を送ってきたことも見抜いている。二人の素王から自由に命令されるつもりはないが、魔王へ一発食らわせられるのであれば面白いと考え、皇都へ赴く意思を示した。


稲田省治(いなだしょうじ)


 華胥国の式部卿を務める仙人。第二章で若手官吏を扇動した地皇宮権大進・稲田幸博の兄である。


 華胥国で千人以上の純仙を集めた伝統主義者集会を主催し、彩比売ではなく直仁親王を皇太子とする運動を進めている。


 第三章では、白蓮康成が前田と綾子の双方へ聖別を与えるとの情報を和子から得た。これを妨害するのではなく、同じ四神から聖別を受けた二人を一つの勢力として見せた後、綾子を女系法皇反対運動の旗印に利用しようと考えている。


 さらに、彩比売の夫候補と見なされている前田まで反対派へ取り込めば、東宮にとって致命的な打撃になると計算する。前田や綾子の現在の意思を重視せず、政治を知らない異世界人ならば、情報と利益を与えることで容易に誘導できると思い込んでいる。


 自分たちの筋書きへ従わない者は政治力で排除できると考えており、庶民出身の前田が権力を得た時に何をするかを想像できていない。この思い込みは、後の悲劇につながる致命的な誤算となる。


釈光顗(しゃくこうぎ)


 大安寺が山中に設けた別院で、旅人や賓客を迎える比丘。道宣法印の弟子である。


 第三章では、皇都へ向かう前田と華麟を寺へ迎え、典羅国から運ばれたバナナや、山菜と豆を使った夕食でもてなした。前田へ、この世界では電気がなくとも、長命な仙人と職人たちが何世代にもわたって技術を積み重ね、持ち運べる氷室などを作っていることを教えた。


 以前、彩比売へ進講した経験があり、彼女を、教えられたことを覚えるだけでなく、それが民の暮らしとどう結びつくのかを必ず尋ねる聡明な人物だと評した。前田には、皇太子という地位だけを見るのではなく、一人の人間として彩比売の言葉を聞くよう助言している。


 そして前田へ、権力や名誉のためだけでなく、善人として称賛されたり天界へ生まれたりするために善行を積むことも捨て、常に他者のために生きるよう求めた。その教えは、前田が素王として何のために力を使うのかを定める、新たな誓いにつながった。

第三章から主要人物の登場人物は毎回行うことにしました。

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