80 彩比売の人柄
「はい。菜食生活にはすっかり満足しました。」
光顗は前田の食べ方を見て、穏やかに目を細めた。
素王となった前田も仙人であるため、肉を口にすることはない。
元の世界で肉を食べていた記憶はある。それでも不思議なことに、こちらへ来てから肉を食べたいとは思わなかった。
肉を我慢しているという感覚すらない。
山菜や豆、穀物を食べれば身体は十分に満たされる。肉料理を思い浮かべても、かつて好んでいた食べ物の記憶として浮かぶだけで、今すぐ食べたいという欲求には結びつかなかった。
仙人の身体へ変わった影響なのか、それとも召喚されてから経験した出来事によって食べ物の好みまで変わったのか、前田自身にも分からない。
「実は私も東宮殿下にはご進講を少々させていただいたことがございます。」
光顗は食後の茶を注ぎながら、何気ないことのように言った。
それを聞くと前田は興味津々に聞いた。
箸を置き、自然と光顗の方へ身を乗り出す。華麟も茶器を持つ手を止め、二人の会話へ耳を傾けた。
「東宮殿下はどのような方なのですか?」
「実に聡明な方です。教えたことを覚えるだけでなく、それが民の暮らしとどう結びつくのかを必ず尋ねられました。」
「私のような者が夫候補としてお会いしてもよいのでしょうか?」
「それをお決めになるのは殿下です。ただ、もしお会いになれたなら、皇太子としてではなく、一人の人間としてそのお言葉を聞いて差し上げてください。」
光顗は前田を試すような言い方をしなかった。
素王だから相応しいとも、庶民の出身だから相応しくないとも言わない。彩比売が前田を夫として選ぶかどうかは彩比売自身が決めることであり、周囲の者が先に答えを定めることではなかった。
同時に、次代の法皇という立場だけを見て接すれば、前田もまた彩比売を政治のための存在として扱うことになる。
「ありがとうございます。私も東宮殿下のために尽くさせていただきます。」
前田は彩比売のために動くことを心に決めた。それを見て華麟も満足そうに頷く。
華麟は前田を彩比売の夫とするために召喚した。
しかし、前田が命じられたから彩比売へ仕えるのではなく、本人の話を聞いたうえで自分の意思によって支えようとすることを望んでいた。その意味で、今の前田の答えは華麟にとっても嬉しいものだった。
「素晴らしい。前田さま、ではこの坊主が一つだけお願いしたいことがございます。」
光顗は茶器を卓上へ置き、前田へ真っ直ぐ向き直った。




