75 旗印
「もちろん協力します。」
和子は迷わず答えた。
そう言った後、和子は続けた。
「もっとも私は前田様が憎いわけではありません。むしろ前田さまが改心されるよう働きかけますが。」
元の世界から召喚された前田は、和子にとって憎むべき敵ではない。
総漢国で共に魔瘴雲を払い、その後の姿も近くで見ている。臆病なところはあっても、民を見捨てるような人間ではないことは分かっていた。
だからこそ和子は、自分たちの考えを教えれば、前田も正しい側へ来るはずだと信じている。
「おうおう、それでよい。」
稲田はニヤリとした。
前田を傷つけずに取り込めるのであれば、稲田にも異論はない。
前田本人の意思を尊重しているからではない。異世界から来た素王が自ら女系法皇へ反対したという形を作れれば、武力で排除するよりもはるかに大きな政治的効果を得られるからだった。
稲田が和子に語っているのは、二人の素王に同じ四神が聖別した後で、佐藤綾子を「女系法皇反対」の旗印にする案である。
綾子自身は、そのような旗を掲げるとは一度も言っていない。
しかし稲田にとって重要なのは、今この時点で綾子が何を考えているかではなかった。大王になることを望み、泰鳳を始めとする反尚英派を従えた素王である。相応しい理屈と利益を示せば、自分たちの側へ立つと考えていた。
「同じ四神に聖別させると運命共同体となるからな。」
稲田は卓上に二つの茶碗を並べ、指先で同じ方向へ動かした。
法的に一方が他方へ従うわけではない。それでも、同じ四神から同時に主君として認められたという事実は、二人が一つの勢力であるという印象を帝国全体へ与える。
「ええ。そして婚約者が女系法皇反対派に取り込まれたら、東宮にとっては再起不能なスキャンダルとなるでしょう。」
彩比売の夫はまだ何も決まっていない。
それでも前田を皇太子の夫にするという華麟の意向が広まったことで、反対派はすでに前田を東宮の婚約者であるかのように扱い始めていた。
事実でないならば否定すればよい。しかし東宮が否定すれば、今度は素王との婚姻そのものを断念したと宣伝できる。曖昧にすれば、婚約者が皇太子の継承に反対したと宣伝できる。どちらに転んでも稲田たちにとって損はなかった。
「前田の方もこちらへ来ると思うか?」




