74 白虎・和子、再登場
その頃、仙人たちが修行している華胥国の山間部にある式部省――
式部省の建物は、切り立った山々に囲まれた狭い平地へ建てられていた。
石段の下には深い谷が広がり、その底を流れる川の音が絶えず響いている。軒の向こうには白い雲が山腹を這い、時折、風にちぎられた雲が開け放たれた廊下まで入り込んできた。
草原を主な住処とする白虎たちと違い、華胥国の仙人たちは山中へ寺院や官衙を築いて暮らしている。
修行のため人里を離れているとはいえ、彼らも大倭帝国の官人であり、位階を持ち、文書を作り、人事を争う。俗世を離れた山中にも、俗世と同じ官僚機構があった。
式部卿の稲田省治は人形になった白虎の和子を笑顔で出迎えていた。
部屋の奥には書状や名簿を収めた棚が並び、中央の卓上には湯気を立てる茶器が置かれている。
稲田の笑顔は、遠方から戻った使者を労うものに見えた。しかしその視線は、和子が持ち帰った情報を一刻も早く聞きたいという期待を隠していなかった。
「おうおう、良い情報を持って来てくれた。」
稲田は和子の報告を聞き終えると、満足そうに何度も頷いた。
和子は出されたお茶を飲みながら言う。
白虎の姿であれば茶器を扱う必要もないが、今日は使者として官衙を訪れている。人形になった和子は両手で茶碗を持ち、香りを確かめてから静かに口をつけた。
「稲田様、阻止なさいますか?」
問われた稲田は、すぐに首を横へ振った。
「いや、せんよ。むしろ二人の素王に同じ四神が聖別した後でことを起こした方が面白い。」
そう言って稲田は笑う。
白蓮康成が二人の素王へ聖別を与えることは、本来であれば稲田にとって警戒すべき動きだった。
前田と綾子が同じ白虎から主君として認められれば、両者の政治的な権威は増す。しかも白虎界の重鎮である康成は、華胥国の仙人たちが簡単に命令できる相手ではない。
だが稲田は、それを妨害するよりも利用する方を選んだ。
「もちろんいざと言う時には康成様にも私の側についてもらうことになる。」
稲田の口調には、それが当然であるかのような響きがあった。
「康成さまのご意向を断言はできませんが、私もそのように説得はさせていただきましょう。」
和子は慎重に答えた。
康成を敬っているからこそ、その意思を本人に代わって約束することはできない。稲田もそれ以上は求めず、別の問いを口にした。
「それで、お前自身はどうする?」




