73 共闘の面白さ
「いえ、そんなことをおっしゃっても、これまで誰にも聖別をしなかったではありませんか。」
和子はツッコミを入れた。
聖別を受けたいと申し出た者が、これまでいなかったわけではない。
古参の白虎である康成から聖別を受ければ、高い霊力だけでなく、白虎界から主君として認められたという権威まで得られる。大王や皇族に近い者ほど、それを欲しがった。
「ま、人間同士の下らん権力闘争に巻き込まれたくはなかったからな。」
康成は鼻を鳴らした。
聖別した相手が権力争いに敗れれば、白虎まで敗れた側へ数えられる。勝ったとしても、今度は褒賞や官位を巡る争いへ巻き込まれる。
仙人や荼枳尼、天狗等の亜人も人間の亜種である以上、白虎からすると人間である。
何百年生きようと、空を飛ぼうと、権力を欲しがって集団で争うのであれば、康成には同じ生き物に見えた。
「だが、今回は別々の勢力が召喚した二人の素王が合同で申し込んできたんだろ?面白いじゃないか。」
康成の尾が、先ほどまでとは違って楽しげに草を叩いた。
「面白い、というだけでよろしいのですか?」
「白虎が誰を主とするかに、それ以上の理由が要るか?」
「片方だけならともかく、今回は二人です。」
「だからこそ面白いと言っている。」
「同時に二人を主にすることになりますが。」
亜香子は念を押した。
聖別は、単に力を分け与える術ではない。聖別する側が相手を主君として認め、その命運に自らも関わることを公に示す儀礼である。
別々の勢力から召喚された二人を同時に聖別すれば、二人が協力している間はよい。だが、いつか二人の利害が衝突した時、康成自身もどちらを選ぶか問われることになる。
「二人の素王が対立した時は好きにやらせてもらうよ。」
そう言って康成は笑った。
低い笑い声が草原を渡り、近くの草むらに隠れていた小動物が一斉に息を潜めた。
亜香子は呆れたように康成を見たが、反論はしなかった。
白蓮康成は人間の政争を嫌っている。だが、政争から逃げたいのではない。どちらかの都合に縛られ、自分の意思で獲物を選べなくなることを嫌っているのである。
そして、二人の素王が手を組んだことは好意的に見ていた。政治的に思惑が違うのに手を組めるとは、人間にしては良い奴かもしれん、と。
聖別によって康成まで二人の思惑へ従うとは、誰も考えない方がよかった。




