69 魔法の現実
「短期的には自分のためになるさ。例えば未来を予知したり物体を自由自在に動かしたり死んだ親と話をしたり――な?お前もそれが出来るなら魔王についてもいいかも、って顔しているな。」
黒鉄将軍はニヤッと笑いながら人々を見渡す。
質問した仙人は慌てて顔を引き締めた。
しかし、鉄蔵の指摘は完全な見当違いではなかった。
未来を予知できれば、官人として失敗を避け、出世につながる選択だけをすることもできる。物体を自由自在に動かせれば、多くの人間を働かせる必要もない。死んだ親と話すことができるならば、一度だけでも声を聞きたいと願う者は少なくなかった。
魔王の思想に賛同しなくとも、その力だけは欲しいと思う者が現れる理由を、鉄蔵は何度も見てきた。
「だがな、未来を予知するというのは試験で言うとカンニングだ。物体を自由に動かすというのも人間で言うと他人を奴隷にするのと同じだな。死んだ人に会いたい気持ちはわかるが、仙人ですら寿命があることでもわかるだろ?これらは全てこの世の理を無視して自分だけがズルして利益を得ようとすることだ。そんなことをして本当に幸せになれるわけがない。」
鉄蔵は乱暴な言葉で言い切った。
魔法を使えば、通常ならば長い時間と多くの労力を必要とすることを、一瞬で実現できる。
だが、その不足分がどこからも生まれないわけではない。
術者が払わなかった代価は、周囲の人間や動植物、土地そのものの生命力から奪われる。それは便利な力というよりも、自分の負担を見えない誰かへ押しつける方法だった。
鉄蔵は魔法の威力を知らないから否定しているのではない。
長く魔王軍と戦い、その威力も誘惑も、使用した後に残るものも知っているからこそ、安易に使おうとはしなかった。
人々は納得したように語り合った。
「未来を見られたら幸せになれると思っていたが、カンニングと言われると気味が悪いな。」
「予知した未来に縛られて、かえって何も自分で決められなくなるかもしれないぞ。」
「物を動かすのも、誰かの生命力を使っているなら無料ではないんだな。」
「そもそも自分の生命力まで失ったら元も子もないわ。」
「死んだ親だって、いつまでもこの世へ呼び戻されたくはないだろう。」
「魔法は便利なのではなく、代価を他人に払わせているだけなのか。」
最初の百姓は、瘴気の消えた窪地へ目を向けた。
百人が自分の意思で少しずつ霊力を出し、全員で土地へ生命力を戻す瘴気払いと、周囲から生命力を奪って一人だけが利益を得る魔法。
目に見える現象だけならば、どちらも不思議な力である。
しかし、力がどこから来て、誰が負担するのかは正反対だった。
だが、先程の仙人が再び質問をした。
「死んでから天界に行けるという魔法は?」




