68 瘴気の正体
「そもそも瘴気って何なんですか?なんで魔王は常に瘴気を出してくるんですか?」
若者が鉄蔵将軍に訊く。彼にとって瘴気は、物心がついた時から角陽国を覆っていたものである。
魔王がこの国を苦しめるために作った毒霧だと教えられてきた。瘴気の向こうには魔王軍がいて、そこへ近づけば生命力を奪われる。それ以上のことを考える余裕はなかった。
「ああ、ここら辺の瘴気は自然現象だよ。」
黒鉄将軍は何でもないことのように答えた。
「え?」
質問した百姓だけでなく、その場にいた者たちが一斉に鉄蔵を見た。
「魔王は意図的に瘴気雲を送ってくることもあるが、実際の瘴気の多くは魔法使用による副作用だ。魔法は便利だが使うと周囲の生命力を奪う。場合によっては術者自身の生命力も削られる。そうした負の生命力とも言うべきものが形になったのが瘴気だ。」
鉄蔵は足元の土を長靴の先で掻いた。
瘴気そのものが物質として埋まっているわけではない。生命力が失われた状態が、霊的な現象として目に見える形を取っているにすぎなかった。
魔王が瘴気を支配に利用しているのは事実である。
しかし、角陽国に存在する瘴気の一つ一つを、魔王が意識して送り込んでいるわけではない。長年にわたって魔王軍が使った魔法や、魔王へ対抗する側が使った魔法によって奪われた生命力が、土地へ積み重なっているのである。
人々はあっけにとられる。
自分たちが長年恐れてきたものが、魔王の妖術そのものではなく、魔法を使った後に残される副作用だとは考えたこともなかった。
「魔王がわざと作ったものじゃないのか?」
「魔王を倒せば全部消えると思っていたぞ。」
「では、魔法を使う者がいる限り瘴気は生まれ続けるのですか?」
意外そうに口々に喋った。
魔王を倒せば、角陽国を覆う瘴気も一斉に消え、昔の国土がそのまま戻ってくる。
人々は漠然と、そう信じていた。
だが、魔王がいなくなっても、失われた生命力が自動的に戻るわけではない。誰かが土地を浄化し、木々を育て、畑を耕し、人と獣が再び暮らせるようにしなければならなかった。
下級官吏だった仙人も質問する。
彼は朝服の上へ厚い毛皮を重ね、百姓たちと同じ輪の中で瘴気払いに参加していた。
「それなら魔法は誰の得にもならないのでは?」
当然の質問であった。
周囲の生命力を奪う上に、場合によっては自分の生命力を奪うのが魔法なのであれば、どうして魔王は魔法による国家を作ろうとし、しかもそれに賛同者まで出たのか。
自分の生命力をも奪う「魔法」とはいったい、どこに魅力があるのか、彼は問うた。




