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6 隠れ家の捜索

「全く、優雅な逃避行なものだ。」


 豊野弾正大忠(だんじょうだいちゅう)清海忌寸(きよみのいみき)直道(なおみち)――大王直轄の監察機関である総漢国弾正臺(だんじょうだい)のナンバー3、事実上の現場責任者である豊野直道は、思わず愚痴をこぼした。


 場所はさっきまで前田らがいた隠れ家だ。豊野たちが音が聞こえる距離まで近づいた後で前田と華麟が逃げたし、さらには少し遅れて――先頭の官吏が家の前に立ったその時に、美凰が荷物を持って空を飛んで行ったのである。


 元の世界で言うと、警察官が家の前まで来てから堂々と逃げ出すようなものだ。舐めているようにしか見えない。


 いや、実際、少なくとも美凰は弾正臺を舐めているのだ。


「豊野様、逃げてくれてよかったですよ。もしも本当に美凰を素王無断召喚の現行犯で捕まえていたら却って厄介なことになっていたんですから。」


 豊野の指揮下で隠れ家の捜査をしている高槻連(たかつきのむらじ)高松陽介が言う。


「大王の許可なく素王の無断召喚が違法と言ったところで、許可を得て召喚した泰鳳は反大王派なのはみんな知ってるじゃないですか。大王殿下も内心では美凰様がしたことを喜んでいるんでしょ?」


「黙れ。俺たちが守るのは本音ではない、建前だ。」


「そんなこと言ったって、本当に総漢国の鳳凰界の大王派のホープである美凰様を捕まえたりなんかしたら、大王殿下に粛清されません?」


 そうなのだ。


 総漢国の鳳凰界の長である鳳凰総領泰鳳が反大王派であることは公然の事実である。


 しかし、若くして鳳凰界の実力者となった泰鳳は、堂々と許可を得て「魔王討伐」の名目で素王佐藤綾子を召喚した。


 もちろん大王尚英は内心では許可したくなかったはずだ。


 だが、許可を得た背景には地皇の圧力があったとされる。


 地皇は鳳凰や麒麟についての帝国の事務を掌っている。


 もちろん、地皇陛下御自ら数ある連邦構成国の一国である総漢国の状況を把握したわけではなく、要は地皇宮の官吏たちの中に泰鳳に近いのがいた、ということである。


 泰鳳は総漢国の麒麟だけでなく連邦政府にもシンパを作るなど、着実に地盤を整えていた。


 その結果、大王派である美凰たちによる前田の召喚の方が“違法”であるという逆転現象が起きてしまっている。


 もっとも、美凰と華麟の背後にも人皇がいたりするのであるが――そのことはまた別の話となる。


「それにしても、この隠れ家には何もありませんね。」


 高松は一通り捜査しても何も見つけることはできなかった。


「成果は、術式の痕跡から新しい素王が土師朝臣(はじのあそん)前田弘貴(こうき)だと分かったことぐらいです。」


「逃げる準備は最初からしていたのだろうな。麒麟と鳳凰が組めばいくらでも空き家を貸すやつらはいる。」


 そこへ一頭の馬がやってきた。


「松野、戻りました!」


「おお、松野、どうだった?」


 松野好古は馬を降りて繋ぎながら報告する。


「見失いました。」


「やっぱりな。」


 豊野は別に責めるでもなく言う。


「逃げた方角は西方、具体的には腰布留山(こしふるやま)です。」


 すると高松が言った。


「腰布留山?あそこは荼枳尼(だきに)たちがよく遊びに行っているところだったな。」


「そうだな、美凰が召喚した素王とやら、生きて帰ってくると良いな。」


 豊野が呟く。


「やっぱり豊野様も美凰様が新しい素王を連れて大王殿下に尽くされることを期待しているんじゃないですか。」


 高松が笑いながら言う。


「バカ言え。法は守らなければならん。ただ、荼枳尼の餌になる人がいると寝覚めが悪いだけだ。」


「またまた~。荼枳尼も今は人を殺したりはしませんよ。」


「表向きは、な。」


 そう言いながら豊野は腰布留山の方を向いた。


「その異世界から来たばかりの素王は、荼枳尼がどういう存在が知ってるんでしょうかねぇ?」


 松野がふと呟く。


「知っているわけないだろうな。」


 豊野が言った。


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