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52 同じ結論、正反対の目的

 その日の午後、総漢国の鳳凰界にある大集会所には、三百羽ほどの鳳凰が集まっていた。


 客家の土楼を思わせる巨大な円形の建物である。


 高い天井には、鳳凰が翼を広げたまま出入りできるほど大きな窓が幾つも開いている。朱塗りの柱には歴代の鳳凰総領の名が刻まれ、床の中央には演説者が立つための壇が設けられていた。


 本来は鳳凰界全体に関わる儀礼や争いを話し合う場所である。


 今日はそこへ、泰鳳に近い主流派だけでなく、美凰と同じく尚英を直ちに廃位すべきではないと考える鳳凰たちまで集められていた。


 議題は一つ、二人の素王へ聖別を与える高位の四神を、どのように探し、交渉するかである。


 ただし、壇上に立つ二羽が、その議題だけを話すはずはなかった。


「大王尚英を廃位し、綾子様を新しい大王にする!」


 泰鳳が翼を広げて叫んだ。


 主流派の席から大きな歓声が上がる。


「そのためにも、麒麟と鳳凰だけでなく、四神の中でも高位の個体による聖別が必要だ。四神との交渉を急ぎ、綾子様が総漢国を正道へ戻すにふさわしい素王であることを示すのである!」


「違う!」


 泰鳳の隣に立っていた美凰が即座に否定した。


 今度は大王派の鳳凰たちから歓声が上がる。


「尚英様を討つためではない! 総漢国が二人の素王を正しく遇し、魔王討伐へ備えていることを示すためだ! 前田と綾子の双方が高位の四神から聖別を受ければ、今回の次帥法が反逆のためではなく、魔瘴雲を祓うためだったことも説明しやすくなる!」


 泰鳳が美凰を睨んだ。


「尚英の目を覚まさせるだと? 民に重税を課し、魔王討伐を唱えながら何の成果も出せず、その責任を素王へ押しつけようとした男だぞ。まだ支えるつもりか!」


「尚英様が暗君であることと、我々が勝手に大王を殺してよいことは同じではない!」


 美凰も翼を広げる。


 双方の翼から漏れた熱気がぶつかり、壇上の空気が揺れた。


「大王位は原則として世襲だ。法皇の勅許も得ず、鳳凰の都合で王を挿げ替えれば、総漢国だけでなく帝国の連邦秩序そのものを壊すことになる!」


「だから法皇へ上訴するのだ!」


「上訴の前から討伐すると叫ぶな!」


「廃位されるべき者を廃位されるべきだと言って何が悪い!」


「それは反逆に他ならない発言だ!」


 三百羽の鳳凰が一斉にざわめいた。


 主流派からは泰鳳を支持する声が上がり、大王派からは美凰へ同意する声が飛ぶ。


 しかし、次第に別の声も混じり始めた。


「結局、二人とも高位の四神へ会いに行くことには賛成なのだろう?」


「前田と綾子の両方を聖別させる点も同じではないか?」


「手段どころか、今日の議題については結論まで同じだぞ。」


 最初は小さかった声が、次々と周囲へ広がった。


 泰鳳と美凰はまだ睨み合っている。


「四神との交渉は私が行う。」


 泰鳳が言った。


「私が鳳凰総領だ。各地の四神との連絡も、お前より多い。」


「お前一人に任せたら、綾子を大王にするための軍事同盟だと説明するだろうが!」


「事実を説明して何が悪い。」


「事実ではないだろ!」


 また言い争いが始まった。


 集まった鳳凰たちの間から、呆れたような笑いが漏れる。


「毎回こうなるな。」


「しかも、どちらも全てが間違っているわけではないから困る。」


「この二羽を同じ壇へ立たせた者は誰だ?」


「鳳凰総領の泰鳳本人だ。」


「では仕方ない。」


 笑い声が少しずつ大きくなる。


 泰鳳がようやく聴衆の反応に気づき、咳払いをした。


 美凰も翼を畳む。


「では、こうしよう。」


 美凰が言った。


「お前が候補となる四神へ連絡する。私が、二人の素王が聖別を求める事情を書面にまとめる。書面には魔瘴雲の件と、法皇へ上訴する予定だけを記す。尚英様を殺すなどというお前の妄言は一文字も入れない。」


「妄言ではない。」


「では交渉は決裂だ。」


 美凰が即答した。


 泰鳳の眉が動く。


 しばらく睨み合った後、泰鳳は不承不承頷いた。


「・・・分かった。四神への最初の書状には書かない。」


「最初の、ではなく、どの書状にも書くな。」


「それは約束できん。」


「泰鳳!」


 再び始まりかけた口論を、聴衆の一羽が大声で遮った。


「とにかく、共同で交渉することには決まったのだな?」


 泰鳳と美凰は同時に顔を背けた。


「こいつと共同ではない。」


「役割を分けただけだ。」


 言い方までほとんど同じだった。


 大集会所に笑いが起こる。


「最初からそうしておけば良かったんだろ。」


 一羽がそう言うと笑いが広がり、やがて笑いは歓声へ変わった。


 綾子を新しい大王にしたい者。


 尚英を支えながら総漢国を立て直したい者。


 ただ魔王の脅威を少しでも減らしたい者。


 集まった鳳凰たちの目的は一つではない。


 それでも、二人の素王をこのまま尚英の手へ引き渡してはならず、高位の四神による聖別を急ぐべきだという点では一致していた。


 こうして、泰鳳と美凰が率先して口論を始めた集会は、二人が共同で四神と交渉するという結論に達した。


 もっとも、その結論を皇都へ伝える者が、泰鳳の演説と美凰の演説のどちらを強調するかによって、話の意味は全く異なる。


 総漢国の鳳凰界が二人の素王を魔王討伐へ送り出そうとしている、と報告することもできる。


 鳳凰界が大王を廃位するため、二人の素王と高位の四神を集めている、と報告することもできる。


 事実を一つも付け加えずに、どちらの物語も作ることができた。

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