41 素王の共闘
泰鳳の過激な発言、華麟の彩比売への夫発言、杏麟の綾子大王推し――三者三様の思惑が交錯して、もはや誰の目的が魔王討伐なのか怪しくなってきている。
綾子がこめかみを押さえた。
「ちょっと待って。整理させて。私は大王になって国を立て直したい。で、泰鳳はそのために私を召喚した。杏麟もそう。でも美凰は反対。華麟は――」
華麟はにっこり微笑んだ。
「前田様に彩比売様と結婚していただきたいです。」
綾子がぴきっと固まった。華麟に膝枕されている前田を見る。前田は顔を華麟の方に向けているから後頭部しか見えないが。
「は?」
美凰は怒りと困惑が混ざった顔をした。
「そもそも素王が皇太子と結婚するには法皇の許しがいる。今の法皇は素王の皇族入りには消極的だと聞いているぞ。尚英が根回ししているからな。」
泰鳳がさらりと言った。
「だから尚英を排除すればいいだろ。」
「話が戻るな!」
美凰が叫ぶ。
杏麟は楽しそうに笑った。
「つまり全員の目的は、結局同じところに帰結するのよ。尚英を失脚させて、素王に然るべき地位を与える。手段が違うだけ。」
綾子は前田をじとっと見た。
「あんた・・・とんでもない政争に巻き込まれてるわね。同情するわ」
前田は即座に返した。
「同情と言われても、大王にさせられそうなのは佐藤さんだけだから」
綾子は、はっと目を見開いた。
それから、ゆっくりと口角を上げる。
「・・・あら。そう、そうだったわね。大王になれるのは私だけ」
前田を見下ろして、余裕たっぷりの笑みを浮かべる。
「ねえ前田くん、もしかして私の方が出世しちゃう? あなた、彩比売って人の夫になるんでしょ? 私、大王よ? 格下じゃない?」
華麟がむすっとした。
「格下じゃありません。皇后は大王よりも上です。」
綾子はふふんと鼻で笑った。
「でも皇后って要するに王妃でしょ? 王は私。女王の方が偉いに決まってるじゃない。」
泰鳳が感心したように言う。
「ほう、なかなか頭が回る。」
華麟は首を横に振った。
「いえ、大王国はあくまでも帝国の連邦構成国の一つ。帝国全体の皇后の方が上です。前田様は格下ではありません。」
美凰は頭を抱えたまま呟いた。
「なんでこいつらこんなに呑気なんだ・・・。大王から追手が来てるんだぞ?」
杏麟が、ぱん、と扇で膝を打った。
「はいはい。では方針を確認するわよ。第一に華麟が法皇へ上訴。第二に泰鳳と美凰で鳳凰界を纏めて二人の素王の四神聖別の段取り。第三に私が麟徳府に留まって尚英大王と交渉すること。異論は?」
泰鳳と美凰が同時に叫んだ。
「「異議あり! なんでこいつらと組まないといけないんだ!」」
一拍置いて、華麟がころころと鈴のように笑った。
「あらあら、二人とも仲良しですね。」
泰鳳が舌打ちして美凰を睨んだ。
「誰がこんな奴と!」
美凰も歯を剥いた。
「こっちの台詞だ!」
綾子は二人を見比べて首を傾げた。
「ねえ、鳳凰同士ってこんなに仲悪いものなの? 華麟と杏麟はここまで仲悪くなさそうだけど。」
泰鳳は苛立ったように言った。
「大王を倒すために綾子様を素王として召喚した私と、大王を支持するために対抗素王として前田を支える美凰が、組めるわけがないだろう!」
華麟は首を傾げる。
「だけど、綾子様も前田様も対立する気はなさそうですよ?」
前田は華麟の膝の上から少し身を起こした。
「そりゃ、元の世界でも友達だし・・・。いや、私を育ちが悪い男扱いする女だし、佐藤さんが大王に反逆するのは協力できないけど、強いて対立する動機はないよね。」
泰鳳は前田を射抜くような目で見た。
その視線には、自分の計画を根底から揺るがしかねない男への警戒が滲んでいた。
「友達? この女はお前を育ちが悪いと見下して振ったんだろう。それで友達面か?」
華麟は泰鳳の棘のある言い方に少し顔を曇らせたが、すぐに前田の手を取った。
「でも前田様がそう言うなら、それが一番大事です。綾子様と対立しないならそれで・・・私たちには十分です。」
綾子はふん、と鼻を鳴らした。
だが、どこか居心地悪そうに目を逸らした。前田に対して「育ちの悪い男」と言った過去を蒸し返されて、さすがに少しだけ気まずいらしい。
「別に、あんたを虐めてたわけじゃないわ。事実を言っただけよ。でもまあ、協力するって言うなら・・・悪くはないんじゃない?」




