3 皇位継承問題
「大王は原則として世襲だ。総漢国の大王家もそうだ。だが、素王という存在は例外を作る口実になる。魔王討伐のために召喚された素王が、民のために大王位を請願する。法皇はそれを無下にはしにくい。」
「つまり、綾子さんは魔王討伐の名目で召喚されたけれど、本当は総漢国の新しい大王になるために動いている。」
「そう見ていい。」
「そして私は、彩比売殿下の夫になるために召喚された。」
「それも正しい。」
「・・・・・・政治の駒じゃないですか。」
「今さら気づいたか。」
美凰の返事は冷たかった。
華麟が慌てて前田の前に出る。
「でも、前田様をただの駒にしたいわけではありません。私は、前田様に彩比売殿下を支えてほしいんです。殿下が法皇になれば、女系法皇の道が開かれます。そうすれば、帝国の血統秩序も変わります。」
「私がその夫に。」
「はい。将来は、男性皇后となられるお立場です。」
「男性皇后・・・・・・。」
前田は額を押さえた。女系継承に男性皇后とは、現実世界で聞いたあの議論を強く連想する。
会社員が皇位継承論争の当事者に。人生の転落なのか出世なのか、判断がつかなかった。
美凰が歩き出す。
「ここから山道に入る。皇都へ向かう前に、別の隠れ家で正式な聖別を行う。」
「聖別って、先ほど言っていた契約ですか。」
「そうだ。華麟と私が、お前を主君と見做し、麒麟と鳳凰としての力を付与する。皇太子の夫候補として動くなら、最低限それが必要になる。」
「受けなかったら死ぬとかではないんですよね?」
「死にはしない。お前は既に純仙だ。だが、聖別なしでは政治的にも霊力的にも弱い。素王として名乗ることはできても、彩比売殿下の夫候補としては不足だ。」
華麟が補足する。
「聖別を受けると、私たちと深く想いを通わせることができますし、危険を察知したり、霊力を扱うための助けにもなります。もちろん、それは主従の契約でもありますから、軽いものではありません。」
「主従・・・・・・。」
「はい。私は前田様を主君としてお仕えしたいと思っています」
華麟はそう言って、少し頬を赤らめた。
その反応に、前田はどう返していいか分からなかった。
美凰が横目で華麟を見る。
「華麟。余計な感情を混ぜるな。」
「混ぜてません!」
「混ざっている顔だ。」
「美凰!」
緊迫しているはずなのに、二人のやり取りにはどこか日常の親しさがあった。
美凰は少し前田の方を見る。
「麒麟は主君のことを好意的に見る傾向がある。客観的な意見は鳳凰に聞いた方が良い。」
「なにさりげなく自分を売り込んでいるんですか!?」
前田は少しだけ息をついた。
状況は最悪だ。意味も分からない。だが、少なくとも華麟は自分を守ろうとしている。美凰も冷たいが、敵ではない。
それだけは、今の前田にも分かった。




