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31 麟徳府到着

 麟徳府は、総漢国の都から少し外れた丘陵地に建っていた。


 大王宮ほど豪奢ではない。


 だが、威厳があった。


 青銅で飾られた大門、龍と麒麟の文様が刻まれた石柱、白い壁と黒い屋根――華美ではないが、隅々まで整えられた建物だった。


 前田は門の前に立ち、ほっとした。


 ここなら少し休める。


 そう思ったのも束の間、門番たちは一行を見た瞬間に顔色を変えた。


「そ、素王が二人・・・?」


「華麟様と杏麟様まで・・・。」


「しかも泰鳳様と美凰様が同時に・・・?」


 門番の一人が槍を持ったまま硬直している。


 別の門番は奥へ走ろうとして、足がもつれそうになった。


 綾子は当然のように言った。


「通しなさいよ!」


 泰鳳が眉を寄せる。


「少しは穏やかに言え。」


「疲れているの。」


 前田は華麟を見る。


「華麟さんの許可があれば使える場所なんですよね?」


「はい。私と杏麟は雲客相当の麒麟ですから、麟徳府の使用権限があります。」


「雲客?」


「ええと、従五位以上というとわかりますかね?」


「なんとなく。」


 麟徳府書吏の福西健太が帳簿を抱えて出てきた。


 門番から「素王が二人来た」という話を聞いたせいか、顔が青い。


「華麟様、杏麟様。お越しは承っておりませんが・・・。」


 杏麟が微笑む。


「緊急です。」


「緊急・・・。」


 書吏は一行を見た。素王と麒麟だけでなく、鳳凰までいた。


 泰鳳と美凰を見てその顔がさらに青ざめる。


「鳳凰界主流派の泰鳳様と、大王派の美凰様が同時にお越しとは・・・これは、その・・・悪夢では?」


「悪夢ではない。」


 美凰が言った。


「現実だ。」


「余計につらいです。」


 福西は泣きそうだった。


 泰鳳が懐から公印を取り出す。


「泰鳳の名において通行を保証する。」


 美凰も紋章を示した。


「美凰も保証する。」


 書吏・福西の手が震えた。


「両名の保証があれば、形式上は問題ございません。しかし、これを受け入れれば大王宮から何を企んでいるのかと疑われます。」


「拒めば?」


 前田が聞く。


 福西はすがるように華麟を見た。


 華麟は申し訳なさそうに言った。


「すべての麒麟と鳳凰を敵に回しますね。」


 福西は杏麟を見て、今度は自分で聞いた。


「受け入れれば?」


 杏麟はにっこり笑った。


「大王に睨まれますね。」


 書吏は天井を仰いだ。


「俺の人生、終わった・・・。」


 それからしばらく沈黙し、諦めたように印章を手に取る。


 朱肉に沈む音が、妙に大きく響いた。


「どうぞ。お通りくださいませ・・・。」


 綾子は振り返りもせず、ひらひらと手を振った。


「ご苦労さま~。」


 福西はさらに疲れた顔になった。


 華麟は申し訳なさそうに頭を下げる。


「ごめんなさい、うちの麟徳府なのに大騒ぎになってしまって。」


「華麟さんが悪いわけではないです」


 前田は言った。


 実際、悪いのは主に自分と綾子が次帥法を使ったせいである。


 だが前田は、不思議と後悔だけではなかった。


 瘴雲は消えた。


 人里は守られた。


 なら、次に考えるべきは後始末だ。


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