29 素王、手を組む
瘴珠を回収した後、四神たちはそれぞれに去っていった。
渺蔵は「また面白いことがあれば呼べ」と言い残し、地中へ沈むように消えた。
広海はかなり疲れた顔で飛んでいく。
和子は山の奥へ消え、量哉は火の粉を散らして南へ飛んだ。
「私も帰る~!」
鳩たちがいなくなり退屈したのか、鳩女も帰っていった。帰る時も鳩の姿であった。
亜希子や啓太も帰っていったが、剛志だけは最後まで綾子を睨んでいた。
「下っ端呼ばわりは忘れん!」
「根に持つのね。」
「龍は記憶が長い。」
「便利ね。大学受験に便利そう。」
「水に落とすぞ!」
泰鳳は最後まで冷や冷やしていたが、結局怒りは口先だけだったようで剛志も帰っていった。
四神が去り、山の上には二組の素王と、それぞれの麒麟・鳳凰だけが残った。
夕暮れが近づき始めている。
このまま山中に留まるわけにはいかない。
まして、次帥轟雷法で地形を変えた直後である。
泰鳳は険しい顔で言った。
「王宮へは戻れない。」
綾子が眉を上げる。
「どうして?」
「どうして、ではない・・・。」
泰鳳は声を抑えた。
「君と前田弘貴が同時に次帥法を使った。しかもその結果、山の地形が変わった。尚英は間違いなく動く。」
「私は大王の賓客扱いじゃなかったの?」
「今まではな。」
泰鳳は北の空を見た。
「私の圧力もあり、君は大王の客として扱われていた。だが、これで状況が変わった。尚英から見れば、君は制御不能な素王だ。しかも前田弘貴という違法召喚された素王と接触し、共同で高位術式を使った。」
杏麟が静かに言う。
「王宮に戻れば、丁重に軟禁されるでしょうね。」
「軟禁?」
綾子の目が冷える。
「冗談じゃないわ。」
「だから麟徳府へ行く。」
杏麟が言った。
「麟徳府は麒麟が自治権を有する施設です。大王宮の直轄ではありません。少なくとも今夜、尚英の兵が勝手に踏み込むことはできません。」
前田は華麟を見る。
「華麟さんの関係する場所ですか?」
「はい。」
華麟は頷いた。
「総漢国の麒麟たちが管理する府です。素王や麒麟の客を保護するための場所でもあります。」
美凰も同意した。
「今はそこが一番安全だ。」
前田は即座に頷いた。
「では行きましょう。」
その返事があまりに早かったので、華麟が少し驚いた顔をした。
「前田様、即決ですね。」
「隠れ家にずっといるのも退屈でしたからね。というか、最初から麟徳府を案内してくれたらよかったのに。」
「杏麟が別の素王を合法的に召喚していたから、いくら私が大王寄りとは言え麟徳府に前田様を呼んでいるとややこしい問題になっていました。」
「なるほど。つまり佐藤さんと一緒なら問題ないわけね。」
華麟と前田のやり取りを聞いて美凰が口元をわずかに緩めた。
「判断は早いな。」
「元の世界でも、迷っているうちに面倒が増えることは多かったので。」
綾子は前田を横目で見る。
「前田くん、ずいぶん堂々としてきたじゃない。」
「綾子さんほどではありません。」
「当たり前よ?」
その返事があまりにも綾子らしく、前田は少し笑った。
麟徳府へ向かう道中、前田はふと口にした。
「というか――」
「何だ?」
美凰が振り向く。
「泰鳳さんと美凰さん、結構仲良いですよね?」
空気が止まった。
泰鳳の肩がぴくりと動く。
美凰も眉を寄せた。
「仲が良いわけがないだろう!」
泰鳳が即座に言う。
「たまたま目的が重なっただけだ。」
「その割には、さっき何度も同時に叫んでましたよね?」
綾子がにやりと笑った。
「そうよね。『やめろ!』が完全に重なってたわ。ライバル心で私たちを別々に召喚したとは思えないくらい息ぴったり。」
「ライバル心で召喚したわけではない!」
泰鳳の耳の先がわずかに赤くなる。
「私は総漢国のために――」
「私は大倭帝国の未来のためだ。」
美凰が被せる。
「お前と一緒にするな!」
「こちらの台詞だ!」
「尚英を退かせれば全てが解決するとでも思っているのか!」
「現状を放置するよりましだ!」
「短絡的だ!」
「保身に縛られるよりはましだ!」
「保身に縛られていたら違法召喚などしない!お前こそ尚英を嫌っているくせして尚英に召喚の許可を貰ってるだろ、それこそ保身ではないか!」
二人の言葉は鋭い。
だが、あまりにもテンポが合っていた。
前田と綾子は思わず目を合わせた。
その瞬間、綾子は少しだけ笑った。
元の世界で何度か見た、からかう前の表情だった。
「ほら、やっぱり仲良いじゃない。」
華麟も純粋な顔で首を傾げる。
「確かに・・・泰鳳様と美凰様、雰囲気が似ていますよね。真面目なところとか。」
「「似ていない!」」
二人の声がまた重なった。
杏麟が扇で口元を隠す。
「あら。」
美凰と泰鳳は同時に黙った。
そして同時に目を逸らした。
前田は普通に笑った。笑いをこらえろという方が無理な相談だった。
「やっぱり気が合うんですよ。」
「黙れ!」
「黙りなさい!」
また二人の声が重なった。
綾子もついに吹き出した。
山の夕暮れが迫る中、二体の鳳凰は微妙に距離を取りながらも、人形になり同じ道を歩いていた。




