104 聖別者・七面龍女
その頃、湯谷国――
案の定、広海は小さくなっていた。
龍が小さくなるというのは、蛇のように髑髏を巻いて小さくなるのである。
場所は蒼龍真君の家。龍たちは家も上の方から入ったりするのだが、広海は部屋の下の方の端で縮こまっている。
「女性皇太子の夫だと!?そんなもん、みとめられるものか!」
「お父様、東宮殿下への忠義を示すべきです!」
目の前で言い合っているのは、蒼龍真君と七面龍女だ。
広海は二頭に怒られると思っていたが、もっと恐ろしい目に遭っていた。二頭の父娘喧嘩を目の前で見る羽目になったのである。
「儂は國體に忠実だからこそ言っておるのだ!男を迎えて子を儲ければ女系になるではないか!」
「彩比売様御自身は法皇陛下の御子です!前にも申し上げたでしょう!」
「だから皇位継承権を放棄して、自由に恋愛していただけば良いと言っておる!」
「それを東宮廃嫡と言うのです!御本人の御意思も聞かず、何が彩比売様のためですか!」
あまりもの剣幕に広海は全く声を出せない。ただ、二頭の前で小さくなるだけだ。
「もういいです!お父様が行かぬというならば私が聖別に行きます!」
「お前は儂の跡取りだろ!どうしてそんなことを――」
「お父様の跡取り娘が代理に向かえば東宮殿下に対して不敬にはならぬでしょう。まさか、お父様は広海に堂々と『東宮廃嫡を望むゆえ、断る』と言う手紙でも出すおつもりですか?」
広海がギクッとした顔をした。本当にそんな手紙を持って行かされると、本格的に泰鳳に「物理的に」どうにかされそうだ。
「そうは言っておらぬ!」
「では、二人の素王への聖別には異論はございませんね?」
「前田とやらに聖別を与えれば、儂がその婚姻を認めたように受け取られるではないか!」
「聖別は魔王討伐のためです。東宮殿下の婚姻をお決めになるのは、お父様ではありません!」
「わかった、もうよい、好きにせよ。」
激しい応酬の末に蒼龍真君は匙を投げた。だが、これは自分が堂々と東宮の廃嫡を言えないことを察したからだった。
「だがな、本当に彩比売様が婚姻したら儂は東宮とは認めぬからな!」
「それは婚姻自体には反対では無いということでよろしくて?」
理詰めで語る七面龍女に蒼龍真君はムカッとした顔をしたが、すぐに表情を戻していった。
「その素王とやらが良い男だったらな。それならば皇位を譲って二人でのんびり愛し合えば良かろう。」
七面龍女はそれ以上何もツッコまなかった。言質は取ったのだ。
「ではお父様、私が代わりに行くという旨、広海に伝えさせますので。良いですね?広海。」
広海は泣きそうな顔で頷いた。彼は最後まで巻き込まれ役となってしまった。
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