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お昼の時間です  作者: ゴマサバ
第一の世界
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6/53

客間での騒動



(私……最低だわ。墨男を守ってくださった恩人に、なんて失礼なことばかり……)


紫月は内心、深くため息をついた。


(疑ってばかりで、本当に自分が嫌になるわ……)


「墨男、少しだけ自室に戻ります。あなたはリコさんとセリナさんの元に戻っていなさい。」


「……かしこまりました。」


(ごめんなさい、墨男。心遣いを無駄にして……)


サッ


紫月は自室に入ると、畳の上へ座り込んだ。


(私は、いくつ失礼なことをしてしまったのかしら……)


ぼんやりと、二人に出会った時のことを思い出す。


(まずは……お父様の使いで出ていた墨男を、私が偶然見つけたあの時。)


土下座する墨男を見て、紫月は怒りで周りが見えていなかった。


(私はあの時、セリナさんが桐生さんに怒鳴ってるのを見て……墨男に難癖をつけて殺そうとしていると思ってて、睨んでしまったわ。)


あの時は落ち着いて、セリナと桐生の会話の内容を聞いていれば違っただろう。


耳はとても良いため、それが可能だったはずなのに。


(そして次は……墨男がお礼を言っていた時。私のいない所で墨男を虐めていたのかと思って、また睨んだわ……)


頭を下げられた二人の顔は、むしろ困っていた。


それなのに、怖がらせるようなことをしてしまった自分が許せない。


(勘違いでいえば……最後が一番酷い。ただリコさんは、苦手なネギをセリナさんにあげようとしていただけなのに……)


あの時は自分でもどうかしていたと思う。

コソコソ話しながら何かしている二人に気がついた時。


(私ったら、いつもの癖で警戒してしまった……“ 黒”である墨男を庇ったあのお二人が、何かを企むはずなんてないのに……)


思い出せば出すほど、恩人への態度ではなかった。

むしろ、無礼ばかりで嫌な思いしかさせていない。


(お礼がしたくて呼んだのに、どうして私はこうなの……?)


紫月は自己嫌悪で、目尻に涙を浮かべた。


ごめんなさい……ごめんなさい……


謝罪の言葉が、グルグルと頭を廻る。


(……謝って、お礼を言う。それしかないわ。こんなところで悩んでいても、何も解決しないじゃない。)


恩知らずでいることは、彼女の人としての部分が許さなかった。


紫月は立ち上がると、客間の方へ足を運ぶ。


(それにしても、なんて謝ろうかしら……。“ 私の勝手な誤解で何度も睨んでしまい、本当にごめんなさい。”が一番伝わりそうだけれど……)


ピタッ


考えているうちに、客間についてしまった。


客間は、中がなんだか騒がしい。


(私に怒っているでしょうし、当然よね……早く謝りましょう。)


紫月は何度か、大きな深呼吸をした。


(……よし!)


そして襖に手をかけた、その時。


「だーかーらー!勘弁してよ!私もいっぱいいっぱいなの!」


「セリナの嘘つき!ウチに死ねってこと!」


セリナとリコの、揉める声が響いた。

しかも、今にも友情が壊れそうな内容だ。


これに紫月は……


(ど、どうしましょう!私のせいで、お二人が喧嘩を……!!早く謝らなきゃ……いえ、まずは喧嘩を止める方が先?こういう時は、えっと……)


完全にパニックになった。


(もう、勢いで行くしかないわ!!目を瞑れば怖くない……!!)


今度こそ覚悟を決め、襖を勢いよく開ける。


バッ!


「ご、ごめんなさい!私が失礼な事をしてしまったせいで、どうか喧嘩はやめてください!」


「「……」」


(……あら?)


深く頭を下げ謝ったが、相手からの返事がない。


呆れて声も出ないのだろうか。



「……あの、紫月さん。」


良かった、セリナが返事をしてくれた。


紫月は恐る恐る、目を開ける。


「す、すいません……ご飯が多すぎて……食べきれないですぅ……」


「ウチも無理ですぅ……すいません……ゲぷっ……」


(……ご飯?喧嘩は?なんの事なの?)


どうしたらご飯だけで、あんな会話の内容になるのか……?



「ご、ごはんですか?」


「「実は…」」



………そして、紫月は2人の喧嘩の理由を聞いて、拍子抜けした。









ーーーー







「「も、もう苦しぃ……もう、食べられない……ウプッ」」


今にも吐きそうなリコとセリナ。

二人は紫月から言われた通り、食事を続けていた。


「セ、セリナ……天ぷら食べきったぁ?」


「うん、何とか……しばらく天ぷらは食べない……」


「よく食べたね……油っぽいの苦手なのに……」


「いっぱい食べられないだけ……天ぷらは……好きだった……ウプッ」


もう限界である。


紫月が部屋を出てすぐ、とりあえず最初に出されたものはちゃんと食べようと相談して決めたのだ。


だが道は険しかった。

天ぷらだけで胃が悲鳴をあげている。


いったい他には何の料理が来る予定なのか……

なんて考えていると墨男が戻ってきた。


「あっ、墨男さん……こんにちは……」


「こ、こんにちはリコ様。」


「この後って何の料理が来るんですか……?」


リコのげっそりした顔に驚く墨男。


「この後は銀ダラのみりん焼き、土鍋で炊いた白ご飯、あんみつを用意しております。」


「うっ……ちなみに、量はどのくらい……?」


「リコ、やめろ!量なんか想像しただけで……オェ」


「セ、セリナ様!大丈夫ですか!」


想像で吐きそうになったセリナの背中を、墨男は優しくさすってくれた。


「あの……胃腸薬を二人分いただけませんか?……それと、料理はもう結構です……」


「用意してくださった分はすいません、もう限界で……」


「かしこまりました。こちらの鍋はどうされますか?」


墨男の提案に二人は顔を見合わせる。

おそらく、ここでいらないと言えば鍋を引いてもらえるだろう。


もう腹がはち切れそうだ。


それでも、出されたものは食べるというポリシーがそれを拒んだ。


「「が、がんばりまーす……」」


「さ、左様ですか。では、胃腸薬を持って参ります。」


墨男が部屋を出た後、なべ鍋を見る。

もう既に自分たちの判断を呪いそうだ。


「リ、リコ……次は鍋だよ……オェ」


「鍋か……これが1人前……オェ」


苦しみながらまずはカニを食べる。


「あっカニは意外と入る……お出汁があっさりしてて良かった……」


「ほんとだ……ウチの舌でも美味しく感じる……」


そしてカニを、何とか食べきった。


このまま何とか鍋を完食しようと思った2人だが、事件は起こる。


「セリナ、ネギ。」


「……いらない。」


「もらってくれるって言ったじゃん。」


「殺す気かぁ?もう限界超えてんだわ。」


リコのネギをめぐっての事件だ。


「確かに、最初は食べるつもりだったよ。でも状況は変わったんだよ。自分の鍋とリコのネギ。食べられる気がしない。しかも、リコ食べられないのネギだけじゃないでしょ?」


「うん。春菊とニンジンも嫌い。食べてくれてもいいよ?」


「アホォ!そんなに食べれるわけないやろがいぃ!」


「アホってなんやねん!ウチはネギとニンジンと春菊だけはダメなんだよ!」


「多いよ!」


お互い譲らない。


「じゃあ分かった。セリナの椎茸食べてあげるよ。椎茸はボリュームあるし、ネギと春菊との交換でウィンウィンじゃない?」


埒が明かないのでリコが妥協案を出した。


「ぜんっぜんダメだね。椎茸好きだもん。ネギと春菊で釣り合うかい!あとこういう時はウィンウィンじゃなくてトントンだから!」


「約束通り食べて!ウチ、ネギ食べたら死ぬ!」


「だーかーらー!勘弁してよ!私もいっぱいいっぱいなの!」


「セリナの嘘つき!ウチに死ねってこと!」


「リコのネギ食べたら私が死ぬよ!」


ここから取っ組み合い寸前の喧嘩まで発展。

互いにギャーギャー言い争う事態に。


すると、


「ご、ごめんなさい!私が失礼な事をしてしまったせいで、どうか喧嘩はやめてください!」


目を瞑った紫月が、慌てて部屋に飛び込んできた。


「「?」」


どうして謝られたか分からない、リコとセリナ。


「……あの、紫月さん。」


紫月にどうしたのか聞きたいところだが、それよりも先に言うべき事が二人にはあった。


「す、すいません……ご飯が多すぎて……食べきれないですぅ……」


「ウチも無理ですぅ……すいません……ゲぷっ……」



墨男には食べきると言ってしまったが、もう無理だ。


「ご、ごはんですか?」


「「じ、実は……」」




経緯説明中……


途中、墨男が持ってきた胃腸薬のおかげで2人の胃は急場をしのぐ。


経緯説明後。




料理を残してしまったが、紫月は怒らなかった。

ずっと無表情ではあったが、何回か放たれた鋭いオーラを感じた後だと、怒ってないのは確かだ。


食べきれなかった料理は


「片付けさせておきますね。」


と紫月が言ったところを、二人で頼み込んで明日の朝食に回して貰った。

朝食用に、墨男が少しアレンジを加えてくれるらしい。


そして料理を残したことを紫月に謝った際、紫月からも謝罪があった。


「大変、失礼なことをしました……」


どうやら、いくつかの勘違をしてしまったらしい。


「………そういう訳で、本当にすいませんでした。」


紫月の形の良い眉毛が、少したれていた。


「気にしないでくださいよ。私達もせっかくのご飯を残しちゃいましたし。」


「墨男さんを思っての行動ですから、ウチらは全然平気です。」


真摯に謝られると、何だかムズ痒いセリナとリコ。

もう二人ともも睨まれたことは気にしていない。


「ありがとうございます。それにしても……あなた方は不思議ですね。」


改めてリコとセリナをジッと見る紫月。


「不思議……ですか。」


セリナはそう言われるのはいつもの事なので、驚かない。

むしろ、異世界の常識がないのだから当然だと思った。


「はい。リコさんは“ 赤”なのに、“ 青”のセリナさんを呼び捨てにされていますし……階級の違う者同士が、こうも仲がいいところは初めて見ました。」


「そこは、ウチら親友ですからね。」


胸を張って答えたリコ。

そういう所が変わっていると、遠回しに言われているのだが。


「言いきれてしまうところが、素敵ですね。私にはそういう関係の者はいませんから……」


目を伏せる紫月は、なんだか寂しそうに見えた。


「姫様……………」


控えていた墨男が、目を見開く。

彼は幼い頃から紫月に仕えてきたからこそ、今の彼女の気持ちが痛いほど伝わっていた。


(俺が姫様にできることは、なんだろうか……)


“ 黒”である自分を、ずっと仕えさせてくれた紫月。

彼女の願いは全て叶えてやりたい。

自分に叶えられることならば。


「リコ様、セリナ様。お願いがございます!!」


そして墨男は、動いた。

リコとセリナに向かって頭を下げる。


「「え?」」


後ろから墨男の大声が聞こえて、振り向く二人。


「す、墨男?」


彼の急な行動に、紫月も困惑している。


「お気を悪くされましたら、どうぞ私を斬り捨ててください。ですので、どうか……」


そこまで言う墨男の目には固く、瞳には強い意志が宿っていた。



「姫様の………御友人になってくださいませんか!!」


「「「………ん?」」」




その願いには、部屋にいる女性陣全員の間の抜けた声が帰ってくるのだった。

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― 新着の感想 ―
今回のお話もすごく面白かったです!私と同じ名前の女の子が頑張っている姿を見てとても元気を貰えました!また、新作もとーっても楽しみに待っています!これからも頑張ってください!!
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