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お昼の時間です  作者: ゴマサバ
第一の世界
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7/53

笑わないお姫様

「姫様の………御友人になってくださいませんか!!」


リコとセリナに、頭を下げる墨男。


「「「………ん?」」」


彼の唐突な行動に、女子三人は間の抜けた声がでた。



「あ、あのぉ……」


どういうことですか?と聞こうとしたセリナだが、辞めた。

ひよったからだ。


「……」


顔を赤くしながら、墨男を見る紫月。

よく見ると体がプルプル震えている。


(え〜〜〜〜〜〜〜リコ、どうしよう!どうしようこの空気!紫月さん!墨男さん!誰でもいいから何か喋って!)


墨男の土下座から誰も喋らない。

セリナは喋ろうにも、言葉が何も出てこなかった。


それも仕方がない。


あまり知らない人の家で食事をしたら、その家の人から“ うちの子と友達になって欲しい!”と土下座されたのだ。


こんなの、誰だって気まづい。


「えっとー、なら提案があるんですけど……」


しかし、勇者は存在した。


「一緒にお茶で飲みませんか?」


リコである。


(え〜〜〜〜〜!お前すっげぇな!どっから来るんだよその勇気!!)


見事、この空気の中で喋ったリコを称えるセリナ。


だが、安心するにはまだ早い。

紫月がお茶の提案にどう反応するのかが問題だ。


「……」


紫月は相変わらずの無表情。頷く気配がない。


(……お茶は嫌いだったかな?セリナァ、頑張ったウチを褒めてー。)


(リコ、アンタはよくやったよ……)


きっとこれは嫌がられているんだろうな、と二人が思ったその時だった。


「……よろしいのですか?」


小さな声が聞こえた。


「「……………ぇ?」」


一瞬、聞き間違えではないかと思った二人だが、同時にお互いの顔を見たので、空耳ではないことを確信。


「姫様………!」


墨男が頭を上げ、嬉しそうに顔を綻ばせた。

従者の彼には分かる。


紫月は、かなり喜んでいる。


(セ、セリナ〜これはOKってことだよね!ね!)


(リコォ〜!凄いよ!一生ついて行くわ!)


鈍い二人は心の中でハイタッチ。


そして、


「もちろんですよ!むしろ良いんですか?ウチら、お茶飲んでる時でも、結構うるさいですよ!」


「私もお茶したいと思ってました!リコと違って味は分かりますから!」


熱い眼差しを紫月に送った。


「あ、ありがとう……ございます……」


少し頬を赤く染め、俯く紫月。


今度はリコとセリナにも分かった。

彼女は喜んでくれていると。


「いつにします!?あっ、ウチら明日は暇ですよ!」


「おぉっ早速、明日にでもお茶しちゃいます?」


喜んでくれたことが嬉しくて、ついグイグイ行ってしまう。

心の動きと同様に、二人は体も紫月に近づいていく。


「あっ、あの……明日は私も暇(いとま)があるので……お茶会、しましょう。」


慣れない距離の近さにモジモジする紫月。

可愛い。


(ウフフフフッ)

(ウフフフフッ)


部屋が和やかな空気に変わったところで、襖の向こう側から女性の声が呼びかけてきた。


「お話中失礼します、よろしいでしょうか。」


「えぇ、何でしょう。」


紫月が返答するとゆっくり襖が開く。

出てきたのは、色白で綺麗な女中さんだった。


「姫様、セリナ様、リコ様。湯殿の準備が整いました。」


「分かりました。あなたはお二人を大浴場に案内してください。私は少し後に行きます。」


「かしこまりました。ではセリナ様、リコ様。ご案内致します。」


どうやら風呂の時間のようだ。

実は今日一日、リコとセリナは食事や風呂や寝床を紫月の厄介になるのだ。


「では、また後でお話しましょう。大浴場まではあの者が案内します。ついて行ってください。」


「分かりました。ありがとうございます。行こ、セリナ。」


「ありがとうございます、紫月さん。」


リコとセリナが部屋から出る。


「大浴場だってよ!セリナ!」

「大浴場だってよ!リコ!」


大浴場と聞いてウッキウキの二人。

料理もそうだが、紫月の家は全てが大きくて豪華なのである。


彼女の家は最初に見た街並みと違い、由緒正しき日本家屋で大豪邸。

家の中もかなり綺麗で、障子や木製の家具など様々な部分で藤の花があしらわれている。


家にある物、一つ一つが目玉が飛び出るほど高いことは想像に易い。


なので、二人が大浴場と聞いて浮き足立つのは仕方のないことなのだった。


「藤の花とか浮いとるんやない?」


「今は時期じゃないでしょー。」


「じゃあセリナはどんなお風呂だと思う?」


「それは見てのお楽しみってやつでしょぉ。」


大浴場に想像を馳せ盛り上がっていると、


「あの、失礼かとは思いますが……お聞きしてもよろしいでしょうか?」


前を歩いていた女中さんに話しかけられた。


「何でしょう?」


セリナが聞き返す。


すると、女中さんは少し強い口調で質問をしてきた。


「お二人は、本当に姫様の御友人になられたのですか?」


「「え?」」


質問の意図が分からなかったので、思わず疑問形で返事をしたリコとセリナ。


実はこの女中、


(もしかして、このお二人は無理をされているだけなのでは……?姫様は、あまり愛想がいい方ではないから……)


友達のいない紫月が、ずっと心配だったのだ。


(会話を聞いていたけれど……あれでは、断れるものも断れないわよね……)


もしかしら、今日をすぎれば二人は紫月の元を離れてしまうかもしれない。

そう不安が募っての発言だった。


「はい!」

「友達になれたと思います!」


しかし、リコとセリナに女中の懸念を察知する機能はない。


なので、普通に笑顔で答えた。


「そ、そうでしたか……失礼しました。えっと……すいません、もう一つよろしいですか?」


「なんですか?」


リコが首を傾げると、彼女は立ち止まって振り返った。


「姫様の笑顔を見ましたか?」


((笑顔……?))


リコとセリナは、思い返す。


「……」

「……」


……笑っていない。

どの場面を思い出しても、笑っていない。


墨男絡みで感情が先走っていたのだから、無感情ではないはずなのに。


「その様子だと見ていないのですね……」


二人の顔を見て、女中は方を落とした。


「まだウチらとそこまで親しくないから笑ってないんじゃないですか?」


「私もそう思いました。それと感情表現が苦手なのかなって。えっと……紫月さんの笑顔がどうかしたんですか?」


わざわざ聞いてくるということは、何かあるのだろう。


セリナの質問に女中はそっと目を伏せた。


「………姫様は、二年ほど前から笑顔を見せなくなりました。」


「え、二年も前ですか?」


リコが驚きの声をあげる。

何かあっても寝たら大体は忘れるリコからすると、信じられない年月だ。


「元々、物静かでしたが……それでも嬉しいことがあると、穏やかに笑う御方でした。」


「……どうして、笑わなくなったんですか?」


当然、理由が気になるセリナ。


「実は……」






ーーーーーー




「………ふぅ。」


墨男と二人、部屋に残った紫月は息をつく。


そして、


「墨男、少しお話があります。」


彼を自分の側へ呼び寄せた。


「……申し訳ございません、姫様。」


呼ばれた墨男は頭を畳に擦り付け謝罪し、罰を受けることを覚悟する。


(俺は姫様に、恥をかかせてしまった……)


従者の自分が頭を下げた時、紫月はどんな思いをしたのだろうか。

きっと誇り高い紫月は自分を許さないだろう……


そう考えていると、


「顔をあげなさい。」


凛とした声が聞こえた。


「……はい。」


ずっと墨男の心を掴んで離さない、声が。


言われた通り顔を上げると、紫月と目が合う。


「……」


「……」


この世の何よりも綺麗な、紫色の瞳が見えた。


ずっと墨男を見てくれる、優しい瞳が。


ーーッ


罰を覚悟していたはずなのに、紫月の声や瞳で一喜一憂してしまう。


(……馬鹿なことを考えるな。姫様や大旦那様への恩を思い出せ。お前のその心は、不敬以外の何物でもない。)


「墨男、その……」


何かを伝えづらそうにしている紫月。


墨男はその様子に、解雇を言い渡そうとしているのだろうと思った。


「あの……………えっと……」


(姫様が困っている。……ここは、俺から申し出るべきか。)


紫月から離れるのは嫌だが、迷惑をかけるのはもっと嫌だった。


「姫さ」


「ありがとう。墨男。」


(……俺は今、礼を言われたのか?)


予想外の出来事に、墨男は目を開く。


その顔を見た紫月は、少し不服そうな表情をした。


「……私がお礼を言うのは、そんなに意外なの?」


「い、いえ……その、てっきり姫様に恥をかかせてしまった罰を言い渡されるものかと思っていましたので……」


墨男は驚きのあまり、思っていたことをまんま言ってしまう。


「ま、まぁ!墨男ったら私をなんだと思っているの……!」


「あっ……も、申し訳ございません!」


墨男は、深く頭を下げた。


「はぁ……顔を上げてって言ったばかりでしょう?」


そんな出来の悪い従者の傍に、紫月は寄る。


「墨男、顔をあげなさい。それとよく聞きなさい。」


「は、はい。」


墨男が顔をあげると、紫月は墨男の目をジッと見つめた。


「あっ、あの……」


至近距離で紫月に見つめられて、赤くなる墨男。


対する紫月も、頬をほんのり染めて話始めた。


「墨男、ありがとう。私のために頭を下げてくれたのよね。確かに少し……あの時は恥ずかしかったけど、今はとても嬉しいわ。素敵なお友達が二人も出来そうなのですもの。だから、ありがとう。あなたがいてくれて良かったわ。」


ートクンッドクンッ


墨男の鼓動が、どんどん大きくなる。


(姫様……)


“ 黒”である、自分に優しくしてくれる紫月。

その上こんな幸福までもらっていいのだろうか。

ここは夢ではないのか。

きっと……今が1番幸せだ。


そう思えるほど、墨男は舞い上がっていた。


だが、


(姫様、やはり笑われないのですね……あのお二人ならと思ったのですが……)


同時に悲しい事実にも気づく。


二年前から彼女は笑わない。

何か大きなきっかけがあれば笑ってくれる、そう思っていたのに。


「墨男?」


「あっ……失礼しました。ありがとうございます、姫様。」


紫月に呼びかけられたことで夢から戻り、緩みかけていた表情を引き締める。


そして自分の考えてることが悟られないよう、まっすぐ紫月を見た。


(……あら、いけない)


自分を見るその目に、紫月は今頃になって墨男との距離の近さに気づく。


「そ、それにしても……不思議ね、あの二人。」


「ッ姫様もそう思われましたか。」


新しい話題を出して離れたことにより、近づいていた距離が元に戻る。


「えぇ。あの二人には身分を感じないわ。リコさんは“ 赤”なのに、“ 青”のセリナさんを呼び捨てだし……ネギを押し付けていたし……なによりお転婆すぎるかも……」


紫月は、ネギごときで喧嘩をしていたリコとセリナを思い出す。


「そうですね。“ 黒”である私を庇ってくださったお二人には失礼ですが……あまり令嬢らしさを感じませんでした。いい意味で、ですが。」


墨男は、腹痛に苦しむリコとセリナを思い出した。


「……改めて、とっても愉快な二人ね。」


「私もそう思います。」



ーー




ここで補足。


紫月たちの国では、厳しい身分制度がある。


上から、


紫、青、赤、白、緑、茶、黒


の七段階だ。


例えるなら、


王、上級貴族、中級貴族、下級帰属、国家公務員、平民、人権なし


と言った具合だ。


基本的に、自分より上の階級には頭を下げ、下の階級にはふんぞり返る。


友達になるなら、同じ階級のもの同士でが普通だ。



補足終わり。


ーー



身分関係なく、仲の良さそうなリコとセリナを少し羨ましく感じる紫月と墨男。


「……」


「……」


2人の間に少しの沈黙が落ちる。


「それにしても墨男、どうして私がお二人と……その……お、お友達になりたいと……思っていたことが分かったの?」


これは紫月が最も疑問に思っていることだった。


紫月は、自分の感情が顔に出ないことを自覚しているからだ。


これに墨男はあっさり答えてみせる。


「……幼き頃より共にいますから。」


少し淡白に聞こえるかもしれないが、この答えには墨男の想いが全て詰まっていた。


…言えない想いまでも。


「ありがとう、流石ね。」


何となく嬉しくなる紫月。


「……」


「……」


「……私も湯殿に行くわ。墨男、リコさんとセリナさんの布団の準備をお願い。」


「かしこまりました。部屋は……一緒がよろしいでしょうか?」


「ええ。湯殿に抵抗なく二人で行っていたもの。」


「かしこまりました。まず、姫様と湯殿までお供する女中を呼んで参ります。では、失礼します。」


墨男が一例し、部屋を出た。


「……」


部屋に残ったのは紫月一人。


(全く……今日の墨男には驚いたわ。墨男のおかげでお友達が出来そうで嬉しいけれど……。あら、そういえば……お友達って何をすればいいのかしら?)


冷静に考えると、友達との付き合い方が分からないことに気づいた。

それもしょうがない、今までいなかったのだから。


(うーん…ひとまず明日のお茶会の場所を決めればいいかしら?リコさんとセリナさんはかなり少食だから……難しいわね。)


無意識に、体がソワソワし始める。


(そうだ、湯殿から出たらお二人に聞いてみましょう。友人同士なら、相談して決めるものよね。)


名案だ!と自分で感心してしまう紫月。


一人で楽しくなっていると、


「姫様、お迎えにあがりました。」


リコとセリナを案内した女中とは別の女中が紫月を呼んだ。


「ありがとう。すぐ行きます。」


返事をして、立ち上がる。


「行きましょう。」


「はい。」


「……」


「……」


女中と共に、無言で廊下を歩く。


(あっそうだ。)


「一つ、お願いがあります。」


「はい、姫様。なんなりと。」



「アレを用意して欲しいの。」




ーーーーーー





入浴を済ませたリコとセリナは一つの部屋に案内された。

紫月も後で来るらしい。


「セリナ〜紫月さんの家、広すぎん?」


「まさか、この豪邸が紫月さん専用の家とは思わなかったよねぇ。」


これは二人を大浴場に案内した女中、雪乃に聞いた話だ。

雪乃と話したのは移動の間だけだが、もうすっかり仲良くなったのだ。


案内されたのは、紫月が夜食をとるための部屋らしい。

小さなキッチンが備えられ、夕食を食べた畳の広間とは違い、床も壁も温かみのある木造りになっている。


部屋の中央には大きな机が一つと、高そうな椅子が四脚。

そのうち二脚に、リコとセリナは腰を下ろしていた。


「なんかジ〇リで出てきそうな部屋だよね。」


「確かに。リコ好みの部屋だね。私は机の上の紫陽花がお気に入り。」


「おっセリナ好きそうだと思ってた。」


「リコは花に興味ないからね。」


「なんやとぉー」


机の下から、リコが足で軽く蹴ってくる。


「やめんかいっ」


セリナもすぐに蹴り返した。


「やめてセリナ!虐めないで!」


「何言っとんねん。」


そんな他愛ない蹴り合いも、すぐに終わる。


紫月が来るまでまだ時間がある。

二人はのんびりと、おしゃべりを続けることにした。


「それにしてもお風呂凄かったよね。温泉かと思ったよ。紫陽花が浮かんでたし。」


「それ!ウチもびっくりした!豪華すぎたよね。」


「美肌の湯とかあったよ?一応は家なのに。」


二人の興奮は、まだ冷めていなかった。


案内された大浴場は、高級温泉旅館のような造りで、露天風呂まで備わっていたのだ。


そして、風呂のことを思い返すと、自然ともう一つの出来事も頭をよぎる。


「……ウチ、びっくりしたよ。紫月さんが笑わなくなった理由。」


「ちょっとリコ、それは紫月さんの口から聞くまで知らないフリをする約束でしょ。いくら今が二人しかいないからって、迂闊に口にしちゃダメよぉ。」


「そうやったね。ごめーん。」


「もー話題変えよう。」


二人とも、本当は今すぐ語り合いたい。


だが、雪乃との約束を破るわけにはいかなかった。


「……ユッキーとミキ、どうしてるかな?」


「そら心配してるでしょ。私らが呑気すぎるよ。」


「間違いない。でも仕方ないよね〜。」


「まぁねぇ。あっそれよりも明日のお茶会だよ!勢いで明日!とか叫んだけど、明日帰るんだよ?」


「あっ!そうだった!」


二人は同時に固まった。


「「うーーーーん……」」


腕を組んだまま、揃って頭を悩ませる。


(ハッ。)


先に何かを思いついたのは、セリナだった。


「ねぇリコ。明日はお店営業すると思う?」


「え……多分、仕込みとかやってないよね。ユッキーもミキも心配性だから、それどころじゃないでしょ。」


「ってことは明日は臨時休業でしょ?ってことはだよ。」


「なんとかなるってことか!!」


意外なほどあっさり、問題は解決した。


「「いぇーーーーい」」


二人はパチンとハイタッチを交わす。


「もう考えるのめんどいし暇だし、数字しない?」

「えー、リコ負けたらめっちゃ強く叩くじゃん。」

「えっへへ。いいじゃーん。お願い!」

「今日こそは負けないからな?」


やることもない二人は、とりあえずいつものゲームを始めた。


「「すーうーじ!」」

「123!」

「456!」

「789!」


「あ!やば!」


10分後……


ようやく紫月が部屋へやって来た。

彼女の手には、お盆が乗せられている。


その頃、セリナの手は真っ赤っか。


コトッ コトッ コトッ


机の上に、湯気の立つコップが三つ並んだ。


「遅くなってごめんなさい。温かい牛乳を用意しました。最近は雨の日が多くて冷えますから、どうぞ召し上がってください。」


(温かい牛乳を飲むと、何故かよく眠れるのよね。二人は知っているかしら……?)


紫月が用意したのはホットミルクだった。


友人という存在が今までいなかった彼女なりに考えた、精一杯のおもてなしである。


「ありがとうございます!ウチ、ホットミルク大好きです!」


「私もです!寝つきがよくなりますよね!」


(あら、知っていたのね。少し残念。でも喜んで貰えて嬉しい……。)


リコとセリナは笑顔でコップへ手を伸ばす。


その時だった。


「?」


紫月の視線が、セリナの手で止まる。


真っ赤に腫れたその手を見て、彼女は小さく目を見開いた。


「セリナさん、その手はどうしたんですか?」


「うぅ……紫月さん、数字っていう手遊びをしてたんです。知ってますか?」


「いえ、知らないです。よろしければ教えていただけますか?」


空いている椅子に座り、知らない遊びに目を輝かせる紫月。


「もちろんです! まずジャンケンをして、勝った人が数字を三つ数えるんです。例えば、一、二、三。次は四、五、六って感じで。」


「なるほど。」


「それを繰り返して、アイコになったら、その時まで数えた数字の分だけ直前のジャンケンで負けていた人の手を叩くんです! あっ、それと一番最初だけは『すーうーじ!』って言いながらジャンケンします。」


「面白そうな遊びですね。」


そう言った紫月だったが、その声はどこか暗い。


(あれ……?紫月さんどうしたんだろう?)


(あ!)


ルール説明をしただけなのに落ち込む紫月に困惑していると、リコが何かを閃いた。


「紫月さん、ウチと数字やります?」


「「え?」」


突然の誘いに、紫月は目を丸くする。


それはセリナも同じだった。


(えぇぇぇぇぇぇ!?リコってば、相手はお姫様だよ!?勝ったら手を叩くんだよ!?最悪、打ち首だよ!?)


首が飛ぶ未来が見え、恐る恐る紫月の様子をうかがう。


「……いいんですか?」


「やりたいです。」


意外と乗り気のようだった。


「じゃあ行きますよ!」


リコもやる気満々だ。


(負けろ負けろ負けろ負けろ負けろ負けろ負けろ負けろ負けろ負けろ負けろ負けろ負けろ負けろ負けろ負けろ)


こんなくだらない事で死にたくないセリナ。

全力でリコに呪いをかける。


「せーのっ」


「「すーうーじ」」

「1、2、3」

「4、5、6」

「7、8、9」


ここまで紫月が全て勝っている。

いい調子だ。


「10、11、12」


あっマズイ。紫月が負けた。


「13、14、15!」


とてもマズイ。アイコになった。


ということは……


「いぇーい!ウチの勝ち!!」


そう、リコの勝ちということ。


「負けました……十五回ですよね?」


(リコ……どうしてそういう時は勝っちゃうんだよ…いつもゲームはバカ弱いくせに…)


セリナは、自分の呪いが跳ね返ってきたのではないかと本気で思った。


「はい!じゃあ行きまーす!せーの!」


リコは勢いよく手を振り上げた。


しかし、


ピタッ。


紫月の手の甲の前で止まる。


「リコ?」


「リコさん?」


「え……っと」


(セ、セリナーーーー!ウチ紫月さんの手を叩いていいの!?死刑にならない!?)


リコは今頃気づいた。


(た、助けてぇ!セリナァァァァ!)


助けを求めるように視線を送る。


「うふふ……。」


ダメだ。

セリナは、すべてを諦めたような笑みを浮かべていた。


「リコさん、遠慮しなくて良いんですよ。怒ったりしませんから。思いっきりやってください。」


紫月はずっと手を引っ込めない。


(もう後には引けない……やってやんよぉ!)


リコは恐怖から、目を閉じた。


「では紫月さん。いきますよ?」


「はい。思い切りお願いします。」


「1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15ッッッ!!!」


紫月にお願いされた通り、思いっきり叩いた。


ふすっ


(……ん?)


今、誰か笑っただろうか?


少しづつ目を開くリコ。

最初に見えたのは無表情の紫月、次に見えたのは驚いた顔をしたセリナだった。


「紫月さん……今、少し鼻で笑いましたか?」


「………………………え?」


セリナの指摘に目を大きく開く紫月。


「え、そうなのセリナ!?」


「うん。口元は変わってなかったけど、鼻が少し動いてた。」


目を瞑っていたリコには分からなかったが、確かに「ふすっ」という小さな音だけは聞こえた。


「ごめんなさい、怯えながら手を叩く様子とリコさんの顔が可笑しくて……でも、自分でも驚きました……」


「「……」」


さらりと失礼なことを言われた気もするが、今はそこではない。


「リコォーーーー!すごいよ!確かに、私もビビってるリコの顔見て笑いそうになったもん!」


「セリナァーーーー!その性格の悪さがブレないところは流石だよ!でもありがとう!!」


お互いディスりながら仲良くハイタッチしていると、


ふすっ


また鼻で、ちょっぴり笑う音が聞こえた。


「ご、ごめんなさい。その……久しく笑っていないものですから、可笑しいと口ではなくて鼻で反応してしまうみたいで……」


申し訳なさそうに眉尻を下げる紫月。


本人としては、「鼻で笑う」という行為が失礼に思えてしまったのだろう。


「いえいえ良いんです!リコを見て少しでも笑えたならそれで十分ですよ!」


「え、それウチの台詞……」


「いいじゃない、細かいことは。」


「えー……」


あはははっと笑うセリナに、リコは呆れ顔になった。



「……ありがとうございます。それと、知っていたんですね。私が……笑わないこと。」


「「!!」」


その言葉で、二人はようやく自分たちの失言に気づいた。


紫月が笑ったことを、あまりにも喜びすぎてしまったのだ。


つまり、自分たちが事情を知っていると白状したも同然だった。


「「あっ、えっと……あの」」


こういう時に嘘がつけないリコとセリナ。

揃って目が泳いでいる。


「「……」」


そして、


「はい……ウチら知ってました。」


「少し小耳に挟みました。」


観念して正直に白状した。


それを聞いた紫月は、小さく息を吐く。


「……おしゃべりな従者がいるものですね。」


呆れたような口調だったが、怒っている様子はない。


「ということは……理由も聞いたのですか?」


「ウチらは外国の人との婚約がきっかけだって聞きました。」


「まぁ……そうですね、そうだと思います……」


リコは聞いた通り答えたのだが、紫月はいまいち歯切れが悪い。


「あの……紫月さん。ひとつ聞いてもいいですか?」


「何でしょう、セリナさん。」


質問の許可が出たところで、リコとセリナはお互い視線を交わした。


(言うよ?お風呂で話したことを。)


(セリナ、ファイト!)


そして、同じタイミングで頷いた。




「あの……紫月さんは、その…………墨男さんが好きなんじゃないですか?」

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― 新着の感想 ―
新作待ってました!墨男さんの一言で、りこさんもせりなさんも受け入れる姿がとても素晴らしいと思いました!これから姫様と2人の女子会が気になりますね!偶然にも数字という遊びがあるとは驚きました!墨男さんと…
この世界にも数字という手遊びはあるのですねw リコさんがセリナさんの手を思いっきり強く叩いたんだな〜ということが想像できました。 私は墨男さんが紫月さんを好きだと思っていたので両思いだといいですね!墨…
今回の物語もすごく面白かったです。相変わらずのリコとセリナのおバカさ。これが面白くて沼から抜け出せないです。これからもエピソードが更新されるのを楽しみに待っているので頑張ってください!墨男さんファイト…
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