客間での騒動
ーー客間から出た紫月目線ーー
私………最低だわ。
墨男を守ってくれた恩人に………なんて失礼なことばかり。
思わず部屋を飛び出てしまった………。
疑ってばかりの自分が嫌になる。
なのに墨男はこうしてついてきてくれて…
「墨男、少しだけ自室に戻ります。あなたはリコさんとセリナさんの元に戻っていなさい。」
「…かしこまりました。」
ごめんなさい、墨男。心遣いを無駄にして。
よし…部屋に着いた。ここで少し反省しましょう…。
私は…いくつ失礼を働いてしまったかしら…。
まず最初は…そう、初めてリコさんとセリナさんに会った時。
お父様の使いで……私の傍を離れた墨男を追いかけて、見つけたあの時が始まり。
だけど、正直………あれは仕方のない部分もあったと思う。
私はあの時、セリナさんが桐生とかいう男に怒鳴ってるのを見て、墨男がぶつかってきた赤と青に難癖をつけられて殺されかけていると思ったの。
だから…リコさんとセリナさんを睨みつけてしまった………実際にぶつかったのはリコさん達が原因だったようだし………
いや…言い訳はよそう。
墨男はあの時、普通だと殺されていた。
黒が赤とぶつかったのだから。
それをあの2人は必死に止めてくれていた…なのに私は…
………やってしまった事は他にもまだあるわね。ちゃんと思い出そう。
そして次は…自宅の客間に招待し、墨男がお礼を言っていた時。
墨男がお礼を言うために手をついて頭を下げていたあの時。
私のいない所で墨男を虐めていたのかと誤解して、また2人を睨んでしまった。
墨男が説明してくれたから何も起こらなかったけど…怖がらせてしまったわ………私の勘違いで…
勘違いでいうと…さっきの勘違いが1番酷いかも。
ただ、リコさんが苦手なネギをセリナさんにあげようとしていただけなのに…。
あの時は自分でもどうかしていたと思う。
コソコソ話しながら何かしている2人に気がついた時。
墨男にリコさんが人差し指を立てていたのを見て、リコさんとセリナさんが何か良からぬことをしようとしているのでは、と思ってしまった。
私や墨男に何かするつもりなのかと…そんな訳ないのに。
墨男が藤堂家に使える者と証明するものは何も無かったのだから、藤堂家に近づくために墨男を庇うなんてことは発生しないはず…。
いや、墨男は藤堂家だと目立つから、事前に知っていて恩を売ろうとすることは可能…?
っていけない、また疑い始めてしまったわ。
………仮に2人が何か良くないことをしようとしたなら、墨男は黙ってはいないはず。
それに墨男は私に嘘をつかない。
だから本当にリコさんが苦手なネギをあげようとしただけなのよ…本当なのよ…。
それなのに…
…こんなところでウジウジしていても仕方ない。
睨んでしまったこと、その理由を正直に話して謝りましょう。そして改めてお礼を言うわ。
墨男を助けてくれてありがとうって…。
よし…客間に向かいましょう。
それにしてもなんて謝ろうかしら…。
私ったら謝り方も分からないわ。
今までにちゃんと謝ったこと、あったかしら…?
その場限りの謝罪ではなく、今までに心から謝ったことは…
あぁ、もうすぐ客間だわ。
なんだか騒がしい。
まぁ………怒っているだろうし当然よね。
よし、着いた。
大丈夫よ紫月。落ち着いて対応す
「だーかーらー!勘弁してよ!私もいっぱいいっぱいなの!」
「セリナの嘘つき!ウチに死ねってこと!」
れば…
………ど、どうしましょう!私のせいで2人が喧嘩しているわ!私が悪いのに、なんで2人が喧嘩しているの?早く謝らなきゃ…まずは喧嘩を止めるのが先?こういう時は…えっとえっと…
い、勢いで行くしかないわ!!
目を瞑れば怖くないはず!
よしっ
「ご、ごめんなさい!私が失礼な事をしてしまったせいで、どうか喧嘩はやめてください!」
「……」「……」
…………………………………………あれ?
む、無言なの?リコさん、セリナさん!その無言はどういう意味なの?私はどうすればいいの!
「…あの、紫月さん。」
良かった、セリナさんの声…もう目を開けよう…。
えーっと………この状況はいったい…
「す、すいません。…ご飯が多すぎて…食べきれないですぅ。」
「ウチも無理ですぅ。すいません…。」
…ご飯?喧嘩は?なんの事なの?
「ご、ごはんですか?」
「「実は…」」
………そして、私は2人の喧嘩の理由を聞いてかなり驚いた。
ーー客間に紫月が戻る少し前のリコ&セリナーー
も、もう…くるしぃ…もう…食べられない…ウプッ
今にも吐きそうなリコとセリナ。
2人は紫月が部屋を出てから言われた通り食事を続けていた。
「セ、セリナ…天ぷら食べきったぁ…?」
「うん…何とか…もう…しばらく天ぷらは食べない…」
「よく…食べたね。油っぽいの苦手なのに…。」
「いっぱい食べられない…だけ。天ぷらは…好き…だった…ウプッ」
もう限界である。
紫月が部屋を出てすぐ、とりあえず最初に出されたものはちゃんと食べようと相談して決めたのだ。
だが道は険しかった。
天ぷらだけで胃が悲鳴をあげている。
いったい他には何の料理が来る予定なのか…。
なんて考えていると墨男が戻ってきた。
「あっ…墨男さん…こんにちは…」
「こ、こんにちは…リコ様。」
「この後って何の料理が来るんですか…?」
リコのげっそりした顔に驚く墨男。
「この後は銀ダラのみりん焼き、雑炊、あんみつを用意しております。」
「うっ…ちなみに、量はどのくらい…?」
「リコ、やめろ!量なんか想像しただけで…オェ」
「セ、セリナ様!大丈夫ですか!」
想像で吐きそうになったセリナの背中を優しくさすってくれた。
「ふぅ…ありがとうございます…あの…胃腸薬をいただけませんか?2人分………それと、料理はもう結構です…………」
「用意してくださった分はすいません…もう限界で………」
「かしこまりました。こちらの鍋はどうされますか?」
墨男の提案に2人は顔を見合わせる。
おそらく、ここでいらないと言えば鍋を引いてくもらえるだろう。もう腹がはち切れそうだ。
それでも、出されたものは食べるというポリシーがそれを拒んだ。
「「が、がんばりまーす…。」」
「さ、左様ですか。では、胃腸薬を持って参ります。」
墨男が部屋を出て、鍋を見る。
もう既に自分たちの判断を呪いそうだ。
「リ、リコ…次は鍋だよ…オェ」
「うん…鍋か…これが1人前…オェ」
苦しみながらまずはカニを食べる。
「あっリコ…カニは意外と入る…お出汁があっさりしてて良かった…。」
「ほんとだ…ウチの舌でも美味しく感じる…。」
そしてカニ、何とか食べきる。
このまま何とか鍋を完食しようと思った2人だが、事件は起こった。
「セリナ…はい…ネギ。」
「…いらない。」
「もらってくれるって言ったじゃん。」
「…殺す気かぁ?もう限界超えてんだわ。」
リコのネギをめぐっての事件だ。
「確かに、最初は食べるつもりだったよ。でも状況は変わったんだよ。自分の鍋とリコのネギ。食べられる気がしない。しかも、リコ食べられないのネギだけじゃないでしょ?」
「うん。春菊とニンジンも嫌い。食べてくれてもいいよ?」
「アホォ!そんなに食べれるわけないやろがいぃ!」
「アホってなんやねん!ウチはネギとニンジンと春菊だけはダメなんよ!」
「多いよ!」
お互い譲らない。
「じゃあ分かった。セリナの椎茸食べてあげるよ。椎茸はボリュームあるし、ネギと春菊との交換でウィンウィンじゃない?」
埒が明かないのでリコが妥協案を出した。
「ぜんっぜんダメだね。椎茸好きだもん。ネギと春菊で釣り合うかい!あとこういう時はウィンウィンじゃなくてトントンだから!」
セリナは納得しない。セリナも春菊はそんなに好きじゃないからだ。それとツッコミは忘れない。
「約束通り食べて!ウチ、ネギ食べたら死ぬ!」
「だーかーらー!勘弁してよ!私もいっぱいいっぱいなの!」
「セリナの嘘つき!ウチに死ねってこと!」
「リコのネギ食べたら私が死ぬよ!」
ここから取っ組み合い寸前の喧嘩まで発展。
互いにギャーギャー言い争う事態に。
すると、
「ご、ごめんなさい!私が失礼な事をしてしまったせいで、どうか喧嘩はやめてください!」
紫月が慌てて部屋に飛び込んできた。
何故、謝られたか分からないリコとセリナ。
「…あの、紫月さん。」
紫月にどうしたのか聞きたいところだが、それよりも先にやるべき事が2人にはあった。
「す、すいません。…ご飯が多すぎて…食べきれないですぅ。」
「ウチも無理ですぅ。すいません…。」
墨男には食べきると言ってしまったが、もう無理だと判断。
「ご、ごはんですか?」
怒られてしまうかも、と思ったが仕方ない。
「「じ、実は…」」
経緯説明中…
途中、墨男が持ってきた胃腸薬のおかげで2人の胃は急場をしのぐ。
経緯説明後…
料理を残してしまったが紫月は怒らなかった。
ずっと無表情ではあったが、何回か放たれた鋭いオーラを感じた後だと怒ってないのは確かだ。
食べきれなかった料理は「廃棄しておきますね。」と紫月が言ったところを、2人で頼み込んで明日の朝食に回して貰った。
朝食用に墨男が少しアレンジを加えてくれるらしい。
そして料理を残したことを紫月に謝った際、紫月からも謝罪があった。
何回も勘違いで睨みつけてしまって申し訳なかったと。
「………そういう訳で、本当にすいませんでした。」
紫月の形の良い眉毛が少したれている。
「気にしないでくださいよ。私達もせっかくのご飯を残しちゃいましたし。」
「墨男さんを思っての行動ですからウチらは全然平気です!」
そんなに真摯に謝られると何だかムズ痒い2人。
もうリコもセリナも睨まれたことは殆ど気にしていない。
「ありがとうございます…。それにしても…あなた方は不思議ですね。」
改めてリコとセリナを見る紫月。
「不思議…ですか。」
セリナはそう言われるのはいつもの事なので驚かない。むしろ今日の出来事を考えると当然だと思った。
ここ異世界だし。
ただ「不思議」というより「変」と言われることの方が断然多いので、そこが少し慣れない。
「はい…。リコさんは赤なのに青のセリナさんを呼び捨てにしている。しかも、いくら仲が良くても自分より上の階級にあそこまで砕けた態度でいられる人は見たことがありません。」
「そこはウチら親友ですからね。」
胸を張って答えたリコ。そういう所が変わっていると遠回しに言われているのに。
「私は…正直、あなた方が羨ましいです。私にはそういう関係の者はいませんから…。」
紫月が、本音を漏らした。
この本音にリコとセリナはかなりビックリ。
だが、もっと驚いている人物がいた。
「姫様……………」
墨男である。
墨男は幼い頃から紫月に仕えてきたが、紫月からこんな本音は聞いたことがなかったのだ。
(私が姫様にしてやれることは…なんだろうか…)
黒である自分をずっと仕えさせてくれた紫月。
彼女の願いは全て叶えてやりたい。
自分に叶えられることならば。
「リコ様、セリナ様。お願いがございます!!」
そして墨男は、動いた。
リコとセリナに向かって頭を下げる。
「「え?」」
後ろから墨男の大声が聞こえて急いで振り返る2人。
「す、墨男?」
墨男の急な行動に紫月は困惑している。
「今からの私の無礼…気分を悪くすればどうぞ私を斬り捨ててください。ですので…どうか…」
気に入らなければ自分を斬り捨てろ、そこまで言う墨男の目には固く、強い意志が宿っていた。
「姫様の………御友人になってくださいませんか!!」
「「「………はぁ?」」」
その願いには、部屋にいる女性陣全員の間の抜けた声が帰ってくるのだった。




