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お昼の時間です  作者: ゴマサバ
第二の世界
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52/53

アルカディア学園の新入生



待ちに待った入学式。


大きな会場には、三つの科の特待生四十人が集められていた。


どうやら、一般の生徒と特待生は別に執り行うらしい。



「で、あるからして。特待生の君たちには大いに期待しています。君たちに求めることはただ一つ。成果をあげることです。結果さえあれば、我々は細かいことに口出しをしません。」


「「「「……」」」」


コンサートホールを思わせる、広く荘厳な講堂。


高い天井にはいくつものシャンデリアが吊るされ、淡い光が会場全体を照らしている。


壁には細かな装飾が施され、ところどころに狼のような紋章が飾られていた。


床には深い赤色の絨毯が敷かれ、その上には趣のある木細工の椅子が整然と並んでいる。


入学生が座る椅子は、ふかふかのクッションが備え付けられており、見るからに高級品だ。


華やかさを前面に押し出すというより、品格と重厚感を意識された空間。


さすがは王立アルカディア学園。


入学式の会場にまで、貴族たちが通う学園らしい格式が漂っていた。


「より多くのモンスターを狩り、知識を身につけ、力を蓄えなさい。そのためのサポートを、このアルカディア学園は全力で行います。」


「「「「……」」」」


教壇で丁寧に話すのは、入学試験の受付で見たダン〇ルドア似の先生。


その風貌は、こうした荘厳な会場によく似合っている。


彼の低く穏やかな声が講堂いっぱいに広がり、聞いているだけで不思議と心地が良かった。


「……今年は大変、度胸のある生徒がいるようで嬉しいです。では、みなさん。良い学園生活を。」


そう言って、ガルネリ校長は壇上から会場を見渡す。

そして……


ジロリ。


どこか一点を見つめた。


その視線の先には……


「「「「ぐー……」」」」


爆睡していたユキミ、ミキ、リコ、セリナの姿があった。


「ガルネリ・ポポル校長先生、ありがとうございました。お次は、アルカディア学園生徒会長。ダリア・ルージュベルの挨拶です。」


司会の声に、ガルネリ校長は一礼して壇上から下りる。


タッ……タッ……タッ……


すると、一人の少女がステージ近くの席から立ち上がった。


スッ。


腰まで届く、燃えるような赤い髪。


その髪がさらりと揺れただけで、周囲からパチパチと拍手が巻き起こる。


「……」


少女は凛とした表情のまま、歩き出した。


コツ、コツ、コツ……


若い年齢に似つかわしくない、堂々とした足取り。


彼女の姿を見ただけで、生徒の間では緊張が走るほど威厳と自信に満ちた歩き方だ。


「綺麗な方ですね……」


「うん。名前の通りの女の子だ。」


四人の隣に並んで座る紫月とロメオも、少女の姿を見つめていた。


異世界の王族である二人から見ても、その立ち振る舞いは驚嘆に値するものだった。


コツ、コツ、コツ……


優雅に歩く少女の姿は、とても美しい。


背筋はまるで定規でも入っているのかと思うほど、ピンと伸びている。


そして何より、美人だ。


(本当に綺麗な人……)


同性の紫月ですら、思わず息を飲んでしまう。


色白の肌。スッと通った鼻筋。形の整った眉。気の強そうな切れ長の赤い瞳。


情熱的なガーネット色の髪に負けない、華やかな顔立ち。


一つ一つのパーツがはっきりとしていて、まるで宝石が人の姿を得たような少女だった。


コツ、コツ、コツ……


そんな紫月の視線など気にする様子もなく、少女は壇上へ上がる。


「……」


そして、会場に集まった新入生を赤い瞳で見渡した。


「皆さん、初めまして。本年度、生徒会長を務めます。ダリア・ルージュベルです。」


顔立ちと違わず、意志の強さを感じさせる声だ。


「このアルカディア学園に見事、特待生として入学したみなさんを、ワタクシは歓迎しますわ。ただ、これだけは覚えておきなさい。先ほどガルネリ校長先生がお話ししていたことと同じく、ワタクシが皆さんに求めることは“ 結果”。もし結果がついてこなければ、あなた方は特待生の資格を失うことになります。」


赤髪の美女、ダリアは不敵に微笑む。


そして、眠りこけている阿呆たちへ指先を向けた。


「雪結晶(ダイアモンドダスト)」


その指が、ツゥ……と横へ移動した瞬間ーー


「「「「ひぇっー!!」」」」


間抜けな声を上げながら、四人が飛び起きた。


「つ、冷た!!」「何、何!?」「あれ、何してるんだっけ……」「うわっヨダレ垂れてたッ」


いきなりのことに慌てるユキミ、ミキ、リコ、セリナ。


よく見れば、彼女らの首筋にはキラキラと光る氷の結晶が付着している。


「ウフフ……」


その様子を見て、ダリアはクスクスと笑った。


「やはり、あと一つ覚えておきなさい。この学園ではワタクシに従い、逆らわないこと。それが嫌なら、ワタクシに決闘を申し込み、勝ちなさい。以上です。」


彼女は制服の裾をそっと摘み、エレガントに一礼。

晴れ晴れとした表情で、壇上から下りた。


「なんつー挨拶よ。」


セリナはやや引きながら呟く。


しかし、


パチパチパチパチッ!!!


「「「「「ダリア様ー!!!!」」」」」


会場にいる生徒の反応は違った。


「なんと麗しい御方でしょう!!」

「氷の魔法、お見事です!!」

「さすがは未来の王妃様ですわ!」

「誰にも真似出来ない気の強さ!そこにシビれます!あこがれますゥ!」


皆、ダリアに羨望の眼差しを向けている。


むしろ、


「入学式で寝るだなんて……」

「校長先生とダリア様に失礼よね。」

「ほんと、凄い度胸。」


寝ていた四人の方が、困惑と呆れの視線を向けらていたのであった。






ーーーーーー







入学式が終わり、教室へ移動することになった一同。


「あの赤い髪の子が、佐々木さんの言ってた人だよね。」


「うん。綺麗だけど、何か怖い子だったね。」


ユキミとミキは、あくびをしながら歩いていた。


二人はダリアの挨拶が終わったあとも、話の長い人が続いて現れたので、懲りずにまた寝ていたのだ。


「あー冷たかった……」


一方、リコは恨めしそうに紫月とロメオを見つめる。


「紫月ちゃんもロメッチも、起こしてくれたら良かったのにぃ。」


「いえ、何度か起こしましたよ?」


「そうだよ。起こしても、またすぐに寝るんだもん。」


「えっ、そうなの?ごめーん。」


ツンツン


謝るリコを、セリナが肘で小突く。


「高校から変わらないよね〜。座って話を聞く系の授業で、リコが起きてたの見たことないもん。」


「いや、数学とかは起きてたよ。寝てたのは現代文とか古文とかだから。」


「だから漢字が苦手なんじゃない?」


「お黙りっ!」


そうこうしているうちに、


「あ……私たちはここまでです。」


「ほんとだ、立派な建物だね。」


紫月とロメオが通う、剣士科の棟が現れた。


アルカディア学園は超マンモス校であり、剣士科、魔法剣士科、魔法科の三つの棟で分かれている。


それぞれの棟は内部で繋がっており、一つの巨大な建物になっているのだが、混雑を避けるために区画が分けられ、入口も複数設けられているらしい。



「では、また後ほど会いましょうか。本日は学園案内があるそうですから……もしかしたら、お夕飯の時間になるかもしれませんね。」


「今度は寝たりしちゃダメだよ。またね、みんな。」


笑顔で手を振る紫月とロメオ。


二人はダリアに負けない優美な佇まいで、校舎へと入っていく。


その時。


「キャーッ!」

「私も剣士科に変えようかしらっ!」

「あの美しい人は剣士科なのか……」

「俺、あの人とお話ししてみたい……」


多数の男女が黄色い声をあげた。


「気持ちは分かるけど、うるさいな。」


リコが眉を顰める。


彼らは入学式が終わった瞬間から、ずっと紫月とロメオの後をついてきているのだ。


特に、女子はロメオが微笑む度にバタバタと倒れていく。


うっとおしくて仕方がなかった。



「……改めてあの二人、制服似合ってるなー。剣士科の制服可愛いよね。」


ポツリと、ミキが呟く。


剣士科の制服は、白を基調とした気品のあるデザインだった。


女子は純白の上衣に金色の植物意匠が施されたドレススタイル。

首元はハイカラーで引き締められ、腰には黒いベルト。


そこから裾へと広がるシルエットが、まるで貴族の礼装のような優雅さを醸し出していた。



一方、男子は白のロングコートを基調とした、よりスタイリッシュなデザインだ。


黒と金の装飾が施された胸元に革ベルトとハーネスを合わせ、ロメオのすらりとしたシルエットを際立たせている。



「確かに、二人とも超美形だから着こなしがレベチだね。でもミキも可愛いよ?」


「え〜、ほんとぉおう?」


「う、うん……」


セリナに褒められ、ミキはぶりっ子ポーズで喜んだ。

なんだコイツ。


「ウチらの制服は黒多めだね。ユッキー、クルッと回って!」


「あっふ〜ん。」


リコの指示で、謎の奇声をあげながらユキミがターン。


ふわっ


制服についたフリルが、軽やかに舞う。


魔法剣士科の制服は、剣士科とは違って黒を基調としており、クラシカルでゴシックな雰囲気の衣装だった。


首元には黒と金色のレースフリル。


白いパフスリーブには星の刺繍が散りばめられ、黒のグローブやベルトが全体を引き締めている。


腰から下は重厚な黒のスカートに、白いティアードフリルが重なったデザイン。


黒を主体としながらも、白と金の装飾が随所に施されており、どこか高貴な雰囲気を漂わせていた。


「こういう服憧れてたんだよねぇ〜!どお、似合う?」


「似合ってる〜!ミキたち何でも似合っちゃうから良かったね!」


制服のデザインにキャッキャと喜ぶセリナとミキ。


一方、


「うーん……可愛いんだけど、普通に動きづらいし、レースが痒いんだよねぇ。それにウチ、似合ってる気がしないんだけど。」


「似合ってないというか……イメージと違うかも。首元のレースが痒いのは分かるわ。」


普段はシンプルな服を好むリコとユキミには、不評なようだ。


「んー、それにしても凄い制服だよね。私らは特待生だからタダだけど、他の人はこれを買わなきゃいけないのか。おいくら万円なんだろ。」


セリナが首を傾げた、その時だった。


バシャーーーー!!


「「「「ぶえっ」」」」


四人は、大量の水を横から浴びた。


「え、水?」

「鼻に入った……」

「耳に入った……」

「どうして水が飛んでくるわけ?」


混乱しながらも、水が飛んできた方向を見るユキミ、ミキ、リコ、セリナ。


「ふんっ」


そこには、水色の髪を持つ愛らしい少女が仁王立ちで構えていた。


「その制服は下民が纏えるものではなくってよ!!ほんっとうに汚らわしい!!おぞましい!!」


「「「「んん……?」」」」


四人は、その少女に見覚えがあった。


「あれって……試験の受付の時に、ウチを突き飛ばした子だよね?」


「「「うんうん。」」」


そう。


入学試験で何故かリコを突き飛ばし、罵ってきて、紫月にぶたれ、ロメオにフラれた、あの金切り声がうるさい小娘である。


「早くその制服を脱ぎなさい!!その制服は、私たち本物の特待生しか着られないのよ!!」


((((あ、そうなんだ。))))


どうりで金のかかった制服のはずだ。


特待生を象徴するための物なら、ここまでデザインが凝っているのも納得できる。


「聞こえないの!?流れものの分際でーー」


「やー!」


バシャァッ!!


「「「え!?」」」


なんとセリナが魔法を放ち、少女へ水を浴びせた。


「え……」


濡れた少女は、信じられないという表情で固まる。


セリナはその顔を見て、満足そうに鼻を鳴らした。


「うるさい。ヒジョーにうるさい。なんでそんなに突っかかってくるわけ?そもそも君、誰よ。」


「わ、私を知らないですって!?何て侮辱!!私は公爵家の生まれなのよ!?」


「で、誰?」


「なっ!?」


少女はゆでダコのように顔を赤くする。


しかし、その顔はすぐに性格の悪そうな笑みへと変わった。


「私はあのスワンティエール公爵の娘、サフィ・スワンティエールよ!!」


「え?ごめん、もう一回!」


「……は?」


「スワン……ピエール?」


「スワンティエールよっ!!この国の大貴族なのよ!?知らないはずがっ」


「偉い人かもしれないけど、知らない。」


「ーーッ!!」


サフィの顔が再び、ゆでダコのように赤く染った。


「この下民め!!勝負しなさい!!そのおマヌケ顔、私が矯正して差し上げるわ!!」


「……おマヌケ顔??」


ブチんっ


セリナの中で、何かがキレた。


「私の顔がおマヌケ顔なわけないでしょ!?勝負!?いいよぉ!?受けてやるよぉ!!」


「そこのキノコ頭とアホっぽい女とおチビさんも参加させなさいよ!!全員、私が躾てさしあげるわ!!」


「いいぜぇ、やってやろうじゃねぇかぁあああ!!」


グルんっ


セリナは勢いよく後ろへ振り向く。


「話は聞いてたね!?あいつをぶっ飛ばそう!!」


「「おぉー!!!」」


ミキとリコは、ヤル気満々で腕を上げた。

アホっぽい女とキノコ頭呼ばわりされただけに、結構ノリ気だ。


「えっと……」


ユキミは、まだ戸惑っている。


確かに、自分をおチビさんと呼んだサフィにムカつきはしたが、だからといって喧嘩しようという考えにはなれなかった。


「「「……」」」


三人の視線が、ユキミに集まる。


「…………や、やるよ……」


「「「うっしゃぁああああああ!!」」」


しかし、ジッと見てくる三人に抗えず、結局は頷いてしまうのだった。







ーーーーーー







場所は学園の決闘場。


コロッセオのような構造の建物に、一同は移動していた。



「話は分かった。つまり、己の誇りをかけた勝負なのだな?それで、俺に立会人になって欲しいと。」


「「はい!」」


セリナとサフィは頷く。


二人は不正を防ぐため、立会人を頼んだ。


その相手は、入学試験の体力テストで試験官を担当していた先生、グラントだ。


今日はミトコンドリアのような柄のシャツを着ていて、相変わらず残念なファッションセンスである。


「よぉし。要望通り、俺が立会人になろう。ルールは……これを奪い合うようにしよう。」


グラントは、ベルトにつけた革製のホルダーから二つのペンダントを取り出した。


ペンダントには、小さな水晶が輝いている。


「この水晶は、魔力でも力技でも、強い衝撃を受ければ割れる仕組みになっている。これが割れるほどの攻撃は禁止だ。制限時間は無し。代表者一名がこのペンダントを身につけ、相手チームのペンダントを奪ったチームを勝ちとする。いいか?」


コクリ。


誰も、異論はないようだった。


「こちらのチームは私が身につけます。先生、ペンダントを。」


「あぁ。」


敵チームでは、当然サフィがペンダントを受け取った。


彼女のチームは四人。


サフィと、冴えない男が三人のチームであった。


「お兄様、頑張りましょうね。」


「あぁ、妹よ。お前のために、俺の学年でも優れた生徒を呼んでおいたぞ。」


「当たり前でしょう?下民に私たちの力を思い知らせる為とはいえ、何を当然のことを仰っていますの?」


「あぁ……スマン。」


ヘコヘコと頭を下げる赤髪の男。


彼はサフィの兄らしいが、顔だけはとびきり可愛い妹とは違い、特徴のなく凡庸な風貌の男だ。


「安心しておくれよ。僕ら二人も特待生だからさ、ぜひ頼って欲しいな。」

「そうですよ、サフィ様。土魔法なら私におまかせを。」


「フンッ……」


その兄が連れてきた緑髪と黄色髪の男は、

分かりやすくサフィの機嫌をとろうとしている。


おそらく、何か見返りを狙っての態度であろう。



「……あっちのチーム、あんまり団結してないね。」


ユキミが首を傾げながら呟く。


その言葉に、セリナは鼻で笑った。


「下心の寄せ集めチームだからね。私らの敵じゃないよ。」


「う、うん。ペンダントは誰が持つ?」


「私はリコがいいと思う。」


セリナの視線を受け、


「……え、ウチ?」


リコは驚く。


「なんで?セリナが持てばいいじゃん。」


「いやー……私はガサツだし、ミキちゃんはウッカリ握りつぶしそうだし、ユキミはオシリで潰しそうだし。」


「そう言われたら、ウチしかいないな。」


こうしてリコがペンダントを受け取り、双方戦いのゴングが鳴るのであった。







ーーーーーー






「始め!!」


グラントの声と共に、戦いは始まった。


シュゥウウウウ……


「水弾(ウォーターバレット)」


先手を打ったのはサフィだ。


彼女は水滴を細く練り上げ、高速で回転させることで殺傷能力の高い弾丸を生成していく。


それを空中に、五十ほど生み出した。


「多少怪我でもして、教訓を得るといいわ!!」


狙いはーー


ヒュッッ!!


「「「「うわっ」」」」


四人の頬、腕、脚だ。


「リタイアするなら早い方が身のためよ!!」


並外れたコントロール力と緻密性で、狙った場所を確実に抉る攻撃。


これをミキとリコは、


「「あぶなっ」」


ダッ!!!


上に高く跳び、見事回避した。


セリナは、


「土壁(アースウォール)」


魔法で乾いた土の壁を作り、水を吸収。


そしてユキミは……


ダダダダダッ!!


「うわぁああああああああ!!!」


咄嗟に防ぐことが出来ず、思いっきり攻撃を受けてしまった。


「「「ユキミー!!」」」


重なる三人の叫び。


ユキミを助けに行こうとするが、それは敵が許さなかった。


「炎槍(フレイムランス)!」


ジュッッ!!


すかさず、サフィの兄がセリナに向けて大きな炎の槍を放つ。


ドゴォオッッ!!


「おわっ」


水を吸って柔らかくなった土の壁は、炎槍(フレイムランス)であっけなく破壊された。


「水撃(ウォーターショット)!」


迫りくる炎を、セリナは水で相殺しようとする。

だが……


「甘いぞ、愚民め!!」


サフィの兄が指を振ると共に、炎は正面から斜め右へ軌道を変え、


ブォオオオ!!


「あたっ」


セリナの左腕へと直撃した。



「僕が上げます!!」


「任せたよ。」


同時に、黄色髪と緑髪が連携で畳み掛ける。


「土柱(グランドピラー)!」


黄色髪が地面に手をつき、巨大な柱を空に向かって生成した。


ドゴォオオオオオオ!!


その柱の先端には緑髪が乗っており、跳んで宙にいるミキとリコの前で構える。


「君たち、素晴らしい身体能力だ。魔力循環は私たちよりも上手いかもね。」


シュゥウウウウ……


緑髪は風で太刀を作り、


「風刀(ウィンドカッター)」


不可視な風の刃を、二人へ向けて放った。


シッッ!!


「「いてっ」」


ミキとリコは体勢を崩し、そのまま尻から落下していく。


ドゴォオオオオオオ!


地面に、大きなクレーターが二つ出来上がった。


「え、ミキ太ったかな……」

「ウチもラーメン控えようかな……」


「何を呑気なことを言ってんの!!」


やられていて緊張感がない二人に、セリナは声を荒らげる。


「あらあら、口ほどにもないわね。しかもお仲間割れだなんて……」


「ムキーッ!!」


サフィの煽りに、セリナの怒りはさらに上昇した。


「絶対に負けるものかぁあ!!こうなれば作戦会議だ!!しゅうごーーーーーーう!!」


彼女は丸まったユキミの体を抱え、ミキとリコの元へ走る。


「ユキミ!!土の魔法でドーム作って!!イメージは阿蘇ファームランド!!」


「わ、わかった……」


ユキミは顔をあげると、


「えっと……ドーム!!」


半球体が四人の周りを囲った。


ドドドドドドッ!!


「暗っ!」


ミキがそう叫ぶほど、土のドームの中は真っ暗だ。

実際に、誰がどこにいるのかも全く分からない。


「んじゃ、光の魔法で……ライトッ」


ポワッ……


セリナが指先からピンポン玉ほどの光の玉を出し、暗い穴蔵に明かりを灯した。


「ユキミ、この外にもマトリョーシカみたいにドームを三つ作って。作戦会議の時間を少しでも稼ぐのだ!」


「う、うん。」


ドドドドッ


ユキミがイメージを膨らませ、ドームを形成していく。


そんな中……


「「「はぁぁ……」」」


ミキ、リコ、セリナは大きなため息をついた。


「みんなゴメーン。水かけられてから頭に血が上って、気づいたら喧嘩買ってた……」


「しゃーないよ、ウチもムカついたし。アイツらボコしてやりたいと思ったもん。」


謝るセリナに、リコが首を振る。


彼女の表情は何だか楽しそうだ。


「でも、アイツら結構強いなー。ウチら逆にボコされたね。」


「それなー。やっぱ、付け焼き刃で魔法を覚えた私らと、ずっと英才教育を受けていたであろうサフィちゃん達とは差があるよぉ。連携も向こうのが上だし……さすがは特待生。」


悔しそうにするセリナ。


実際に、サフィが使用していた水弾(ウォーターバレット)だけを見ても、今の四人にはとても放てない技だったのだ。


あれを十発ほど、ただまっすぐ放つだけならどうにか出来るかもしれない。

だが、サフィのように五十発もの水の弾丸を四つの標的へ正確に操作するには、相当練習しないと出来ないことが感覚で分かっていた。



「そういえばユキミ、大丈夫?サフィって子の魔法が直撃してたよね。」


「そういえばって……え?」


ついでのように心配するミキに、ユキミは目を大きくして驚く。


「ミキは平気だけど、怪我とか大丈夫?」


「え、うん……怪我はないけど、ちょっと痛かったかも。ツボを押されたときみたいな。」


「あ、そんなもんなんだ。なら次は手で潰そうかな。なんかイケる気がする!」


(((え?)))


ここで、何故かワクワクしているミキはさすがだ。

何か変なものが目覚めなければいいのだが……



「てか、ミキが暴れたらそれで終わりじゃない?だって握力ゴリラ超えだよ?ウチらはここに隠れてるからさ、ウガーってやってきたらいいじゃん。」


「えぇ〜。みんなでやろ〜よ〜。」


リコの提案に、ミキはクネクネしているが満更でもなさそうだ。


「いや、ダメダメ。」


しかし、セリナが首を横に振った。


「それは私も考えたけど、ミキは力加減が出来ないから。思い出してみ?私らがこの身体になって、ミキが何個フライパンを握りつぶしたことやら。さすがにあの子らがミニトマトみたいに潰されるところは見たくないね。」


「う、うぬ……」


これにはミキも、顔を顰める。


今は特訓したおかげで包丁は扱えるようになったが、彼女はフライパンを十三個破壊しているのだ。


壊す度に、


「え、力込めてないのに〜。」


と反省する様子がなかっただけに、ミキの力加減を信用する訳にはいかない。



「とはいえ、ミキのパワーが活かせないのは惜しいな。それに、私らがアイツらに勝ってるのは頑丈さと身体能力だけだし……となれば……」


セリナは少し考え、ニヤリと笑った。


「リコ、頑張ってね。」


「え、ウチ?」








ーーーーーー









「まだ終わらないのかしら……」


「妹よ、もう良いのではないか?下民が考えた作戦ごと潰したいという気持ちは分かるが……これ以上、我々がアイツらを待つのも馬鹿らしいと思うぞ。」


「……それもそうね。あんなお粗末なドーム、もう壊してしまいましょう。」



シュゥウウウ……


サフィが掌に魔力を集中させた、その時だった。



ッドォオオオオオン!!!


土のドームが、内側から爆ぜる。


「みんな、伝えた通り頑張って!」


「「「お、おぉー!!」」」


そして中から、やや自信の無さそうな四人が現れた。



(……あらあら、お顔が物語っているわ。無傷には驚くけれど、余裕がないようね。)


これにはサフィも、思わず悪い笑みが浮かび上がった。


「随分と時間がかかったのね。ようやく諦める決心がついたようでなによりです。ねぇ、お兄様方?」


「全くだ、妹よ。手早く済ませよう。」


嘲笑しながらも、しっかりと敵へ構えるサフィチーム。

油断して隙を作らないあたり、流石は特待生だ。


シュゥウウウ……


「では、ごきげんよう。あなた方の退学は、お兄様からダリアに進言してもらいましょう。」


空中に無数の水弾(ウォーターバレット)が浮かび上がった、その瞬間。


ダッッッ!!


ミキが前へ飛び出した。



「無謀よ!!」


すかさず、サフィは弾丸を放つ。


狙いは首、目、みぞおち、心臓。

その攻撃の全てが、当たれば無事ではすまない部分を狙っていた。


(頑丈なのだから、このぐらいはさせて貰うわ!!)


シィィイイイイ!!


銃弾よりも速く、水弾(ウォーターバレット)はミキの額へ……


「えいっっ!!」


ガシッッ


着弾する前に、彼女は瞬発力で弾を握りつぶした。


「なっ」


「よし、イケるッ!!」


ミキは楽しそうに手を広げ、


ダァァアアアアンンッッ!!


ハエでも叩くように腕を下ろし、易々と地面を叩き割る。


「どんどん行くよぉ!!」


ダァアアアンッッ!!

ダァアアアンッ!!

ダァアアアンッッ!!!

ダダダダダダッ!!


飛んでくる水弾(ウォーターバレット)をたたき落とすその姿は、まるでドン〇ー・コングのようだ。


これに思わず、サフィの兄は


「お、女じゃない……あれはゴリラだ……!!」


とドン引きした。

無理もないことだ。


「やぁぁあ!!!!」


ダァアアアンッッ!!!


ミキは最後の弾丸を堕とし、スイッチの入った目で辺りを見渡す。


「……」


「「うわっ」」


目が合った緑髪と黄色髪は、露骨に顔を顰めさせた。


「ミキがヤるのは、あの二人か……」


ダッ


ミキは強く地面を蹴ると、緑髪と黄色髪の間まで一気に跳び、平手打ちで強烈な一撃を叩き込む。


「えいっ!」


ダァァアアアアアンッッ!!


うるさい地響きと共に、大きくひび割れる大地。


「「はぁ!?」」


ダッ


強く地面を踏み込み、黄色髪と緑髪は後方へ跳んだ。


「閉じ込めるんだ!!」


「はいッ!!」


ミキのあまりのパワーに驚きながらも、二人は目を合わせ、瞬時に魔力を集中させる。


シュゥウウウ……


「土檻(アースジェイル)!」

「風撃(ウィンドショット)」


ドゴォオオオオオオ!!

シュイイッッ!!


高さ二十メートルはある土の檻で対象を閉じ込め、無数の見えない刃で攻撃。

敵を確実に切り刻むことを考えた、残酷で恐ろしい技だ。


「不可視の攻撃は怖いだろうけれど……許しておくれ。」


柔らかく微笑む緑髪。

よほど、自分の魔法に自信があるらしい。


シィィイイイイッッ!!


「ムッ!」


しかしミキは、舞う土煙の流れと己の直感で刃の位置を察知。


「やぁあ!!」


ダダダダッ


迫るカマイタチをダッシュで切り抜け、そのまま自身を閉じ込める檻へ、勢いのままビンタをくらわせた。


ドゴォォオオオッッ!!


豆腐のように砕ける壁。

飛び散った巨大な石の欠片が、緑髪と黄色髪を襲う。


ヒュゥウウウ……!!


「竜巻(ストーム)!!」

「土壁(アースウォール)!!」


ドゴォッッ!!ドゴッ!!


魔法で何とか避けていくが、その度に鈍く大きな音が響いた。


「な、なんて子だ!!あの岩が当たればひとたまりもないよ!!」


「下手すれば、この子だけで我々は全滅です!!」


「僕らで食い止める!!それしかない!!」


「……ですよね」


暴れまくるミキを、遠い目で見つめる二人。



「私も手を貸そう……」


そんな彼らに加勢すべく、一人の男が魔力をかき集めていた。


シュゥウウウ……


(何としても、あの女は潰しておかなければ!!もし負けでもしたら……妹から嫌われてしまう!!)


ものすごい形相で気合いを込めているのは、サフィの兄だ。


彼はテニスボールサイズの火の玉を空に浮かべ、未だ楽しそうに暴れるミキへ、照準を定める。


「炎追跡(フレイムチェイス)」


ブォオオオオッッ!


放たれた炎は七百度。

速度は五十メートルを一秒で通過できるほどに速い。



ゾクッ……


「!」


ミキはすぐに、迫りくる危機を感じ取った。


(さ、流石にアレはヤバい気がする……!!)


ダッ


急いでその場を離れるが、


「な、なんで付いてくるのぉ!?」


炎追跡(フレイムチェイス)はその名の通り、どこまでもミキを追いかけ続ける。


「うわーん……!!当たったら熱そうだよぉ!!」


「妹のためだ。温度をかなり上げたから、そのまま逃げ続けていていればよい。」


一番危なそうな奴の足止めに成功し、サフィの兄がほくそ笑んだ、その時だった。


「膝カックン!」


「おぁ!?」


カクッ


突如、何者かに体のバランスを崩される。


「えいっ」


さらに力が抜けた瞬間、


ドンッ


背中を押され、サフィの兄はうつ伏せに倒れてしまった。


ドサッ


「手錠&砂風呂!!」


「お、おい!!」


サァァアアアアアア……!!


横たわった身体は石の鎖で固定され、細かく大量の砂の中にみるみる姿を消していく。


あっという間に、顔以外の部分が埋まってしまった。


「あーら贅沢、快適な砂風呂の完成!!」


「おい下民!!なんのつもりだ!!」


「なんのつもりって……作戦を実行しただけだよ。馬鹿じゃないの?」


「作戦だと!?」


ニヤリと笑う、ツリ目気味の女。

サフィの兄を砂に閉じ込めたのは、セリナだった。


「まず、ミキに直接攻撃しないっていう制約付きで、何も考えずに暴れて欲しいってお願いしたんだよ。そしたら、期待通りに緑髪と黄色髪の人を足止めしてくれた。あとは状況を見て何とかしようと思ってたけど……君までミキに気を取られてたから、チャンスをものにしただけ。」


「き、貴様……!!よりによって、こんな屈辱的な捕らえ方をするなど、許されると思っているのか!!」


「ボーッとしてたアンタが悪いんじゃん。言っとくけど、魔法での脱出は考えない方がいいよ。もしお得意の火の魔法を使ったら、蒸し焼きになるから。」


「な、ならば他の魔法で脱出するまでだ!!」


「首周りしか動かせないし、ちょいと厳しいと思うけどな。でも一応……砂風呂が壊れないように、土魔法が得意な子を配置しとくね。」


するとセリナは振り返り、チョイチョイと手招きをする。


「ユキミー!」


「あ、あたし??」


「うん、見張りをよろしく。一応、簡単に脱出ができないように、魔法で分厚ーい粘土を作って砂風呂の上を覆ってやりなさい。」


「う、うん……分かった。」


「多分暇だろうし、粘土を大きっきな尻型に加工してもいいねぇ。美尻じゃないと許さないから。」


「……大丈夫かな。もし火で襲われたらヤバくない?」


「大丈夫、砂は燃えないから。窒息させないことだけ気をつけて、抵抗されたら砂をかけまくればなんとかなる。任せたよ。」


「わ、わかった。」


ユキミは不安そうに頷いた。


サー……


そして律儀に、サフィの兄のお尻辺りに砂を盛り始める。

まずは土台作りからしているのだろうか。


(えっ冗談だったのに……)


セリナは目を瞬かせながらも、


(まぁいっか。次だよ次。)


この喧嘩の原因である、サフィへと目を向けた。



シュゥウウウウ……!!


「水弾(ウォーターバレット)」


「うわっまた!」


サフィは鋭い水の弾で、リコを追いかけ回していた。


ダダダダダッ!!


「くぅー!」


走って逃げ回るリコ。

しかし、彼女もやられっぱなしではない。


(当たらないように狙うの大変なんだよなぁ……)


リコは土の魔法で野球ボールを作り、


「フンッ!」


ブンッッ


サフィの足元を目掛け、豪速球を投げる。


ドッ!


「クッ……!」


サフィは跳躍して玉を避けるが、飛んできた物のあまりの速さに、その愛らしい顔を歪めさせた。


(ここまで離れていて攻撃手段があるとは……想定外だわ。)


シュゥウウウ……ダダダダダダッ!


再び水弾(ウォーターバレット)を放つも、リコはまた走って回避していく。


「もう!!ちょこまかとッ!!」


「セリナァ、まだなの〜!?どんだけ走らせんの!!」


リコが恨めしそうな声を上げた、その時だった。


「はい、失礼。」


「っ!!」


いつの間にか、サフィの後ろに立っていたセリナ。

彼女は指先に光球を創造し、


「印(マーキング)!」


ピュッ


サフィの額を指でなぞった。


「な、何をするの!!」


ドッ


「あぐぅっ」


サフィはセリナのみぞおちを肘で殴り、距離をとる。


「な、何よこれ……取れないわ!!」


ゴシゴシ、ゴシゴシ。


サフィがいくら額を擦っても、セリナが付けた光は取れない。

むしろ、段々と大きくなっていくようだ。



「リコォオオ……」


殴られたセリナは、苦しそうに地面に伏していた。


「最後に魔法を使うから、あとは頼んだ……」


「うん、任せろ。」


「霧(ミスト)……」


プシュゥウウウウウ……


セリナが放った魔法によって、辺りは濃い霧で包まれていく。


「なに!?こ、こんなことしたら何も見えないじゃない!」


「ふぅ……」


混乱するサフィとは反対に、リコは一度、落ち着いて深呼吸をした。


(あの光ってるのがサフィちゃんか。向こうからウチは見えてないんだよね。)


濃霧の中で、ぼやぁと光り輝いている部分がある。

あれは、セリナがサフィに付けた印(マーキング)だ。


これはサフィの視界を奪い、光で位置を捕捉できるリコだけが一方的に攻撃を仕掛けられるという、実に底意地の悪い作戦である。


(サフィちゃんが使う魔法は水だから、火だと消えちゃうよね。てか、火傷させたら申し訳ないし。なら……粘土で捕まえるか。でも、なんで粘土は土魔法で作れるんだろ?)


粘土は漢字に“ 土”がつくのだから土魔法で作れるはず、とセリナは教えていた。

しかし、リコには“ 粘土”の漢字が分からなかった。


(まぁいっか。適当に終わらせよう。)


リコが光に向かって腕をのばした、その時だった。


ゴッ


「いてっ!」


肩に、パンチをくらったような衝撃が走る。


ダダダダダダッ


「うわっ、いてっ!イテテ!!」


襲い来る連撃。


ツボを押されたような痛みを感じた場所は、全て水で濡れていた。


「これって……」


リコは直感で悟る。

この魔法を放った人物が、誰なのか。


「なんで……」


「水槽(アクアリウム)」


気に覚えのある甲高い声。

その声と共に、


ズズズゥゥゥゥゥ……!!


「ゴブッ……!?」


リコはキューブ型の水へ閉じ込められた。


どういう仕組みか分からないが、水の表面には膜のようなものがあり、足で蹴ってもブヨブヨと跳ね返るだけだった。


「……??」


「風撃(ウィンドショック)」


鋭い風で、急速に晴れていく霧。

その中心で、


「私、風魔法も得意なのよ?」


サフィが意地の悪い顔で笑っていた。


「ふふっ。泳いでいる魚が貧相だと、水槽まで貧相に見えてしまうわね。」


「ブクブク……!!」


「確かに、策としては悪くなかったわ。ただ相手が悪かったわね。水魔法の扱いで、私に勝てる者はいないもの。」


「ブク、ブクブクブクブクッ……?」


「私も霧を発生させたの。そちらの放ったお粗末な霧とは違って、魔力を込め続けた霧よ。その霧で空気の流れを感じ取って、貴方の居場所を割り出したの。お分かり?」


「ブクブクブクブクブクブク……」


「あら、ごめんなさい。水の中では、私の声が聞こえないのね。でも……安心なさい?そのネックレスを受け取ったら、もう少し苦しませてから解放してさしあげますわ。」


「ブクブクブクブ……」


「ダメよ、許してあげない。」


水槽(アクアリウム)の水流を操り、ネックレスを浮かせるサフィ。


彼女は気づいていなかった。

というより、勘違いをしていた。


リコは水中で、サフィに語りかけていたのではない。


魔(・)法(・)を(・)詠(・)唱(・)し(・)て(・)い(・)た(・)のだ。


ブォオオオオオオオ!!


「!?」


突如、サフィの前に現れた青い波。

まるで吹き荒れる海のような波だ。


だが、それは“ 水”ではない。


(青い……炎!?ありえないわ!!)


サフィは驚きつつも、即座に水魔法を放つ。


「ッ水撃(ウォーターショット)!!」


バシュッ……ブォオオオオ!!



しかし、炎は消えなかった。


「ど、どうしてよ!?その威力の炎なら、私が放った魔法で……!!」


ブォオオオオ!!


青い炎が美しい髪を、白い肌を、桃色の唇を、愛らしい顔を焼き焦がそうと猛威を振るう。


「ひっ」


サフィが涙目になった、その時だった。


「粘土!!」


「きゃっ」


ベチャッ


サフィの体は横へ飛び、炎を回避。

同時に彼女の体は、粘土でエビフライのように包まれた。


ブォオオオオ!!


標的を失った炎は、そのまま立会人・グラントの元へ向かう。


「おっ、これは……」


ブォッ!!


グラントは掌から赤い炎を出し、


ッドォオオオオンッッ!!


青い炎と衝突させた。

ぶつかり合った二つの炎は、花火のように弾け飛ぶ。


「たった今、勝負がついた!!敵のネックレスを奪い勝利したのは、ユキミ&ミキ&リコ&セリナチーム!!おめでとう!!」


パチパチパチッ!!


盛大に拍手をするグラント。


彼の視線の先には、ネックレスを誇らしげに抱えるセリナがいた。


「とったどぉおおおおおおお!!!」







ーーーーーー








喧嘩も無事に終わり、一同はグラントを交えて反省会を行っていた。



「やはり、あの青い炎が勝負を決したな。リコ、どうやって出したんだ?」


「勘です。水の中で、サフィちゃんの髪が揺れて見えて……何となく?」


「そ、そうか……。よくやったな。」


リコは感覚派だ。

どうやったのか説明しろと言われても、本人にも分からない。


「……サフィ、お前も見事だったぞ。魔法の技術力、相手の作戦を逆手にとる機転も素晴らしかった。ただ、今回は惜しかったな。」


「ッ……」


グラントは微笑みかけると、悔しがっているサフィの頭を撫でる。


「あの炎は、お前が本気で対処すれば消せたはずだぞ。どうして最後に手を抜いたんだ?」


「……あの規模の炎なら、先ほど出した水量で打ち消せると思ったからです。」


「赤い炎なら、そうだったろうな。だが、青い炎は赤い炎よりも温度が高い。……だったか?」


グラントの視線に、セリナは頷いた。


「青い炎は完全燃焼に近い状態で出るんです。発生させるには沢山の酸素が必要なはずなんですけど……そこはリコのことですからね。感覚で出したんでしょう。」


「う、うーむ。なるほど!」


「先生。人に知識を教えるなら、ちゃんと覚えてからにしてくださいよぉ。」


「す、すまん……」


グラントはションボリと肩を落とす。


「……」


そんな二人のやり取りを見つめながら、サフィは奥歯を噛みしめていた。


「……お兄様、もう帰りましょう」


「待ちたまえ、妹よ。私にも先生の評価を……」


「ふざけないでっ!!!私たちアラバスターが負けたのよ!?しかも、先生はこんな異邦人たちの味方をして!!情けなくてっ!!」


「す、すまないッ!」


虫の居所が悪そうな妹に、兄はオロオロと視線を泳がせる。


「す、すいません先生。私と妹はこれで失礼します……」


「あ、あぁ。気をつけて帰れよ。」


「ありがとうございます。……ほら、お前たちも来い。」


サフィに兄が手招きすると、緑髪はすぐに二人の元へ向かい、黄色髪はミキの元へ駆け寄った。


「全てを砕くあなたのパワー……惚れ惚れしました。今度、お食事などいかがでしょう?」


「え?い、いいですけど……」


「良かった。では、また会いにきますね。」


黄色髪は爽やかな笑顔を浮かべ、ウインク。


そして足早に仲間たちのもとへ戻っていった。



「「「……」」」


ユキミ、リコ、セリナは、無言で顔を見合わせる。


(((あ、クズの予感……)))


三人に頭痛が走った。

ミキの男運のなさを、長い付き合いで知っているからだ。



「帰ろう、妹よ。家に着けば、お前の好きなマカロンをたくさん用意させるさ。」


「……その前に、新しい制服を買いましょう。こんな身なりで帰れば、お父様に何を言われるか……」


「……そうだな。この制服は捨てて、着替えてから帰ろうか。」


「えぇ。……この制服を汚した者は、絶対に許さない。」


サフィは、ギロリとユキミを睨む。


「覚えてなさい……」


「ひいっ!だって……ひ、火が危なかったから……」


実は、最後にサフィを粘土で包み、炎から救ったのはユキミだ。


そんな彼女を睨むなど、完全な逆恨みである。


「ほら、帰るぞ。どこか水浴びができる場所も探そうか。これ以上、泥だらけのお前を兄は見たくない。」


「……ふんっ」


こうしてサフィチームの四人は、トボトボと帰路についた。



「あ、あたし……セリナに呼ばれて、あの子を助けただけなのにぃ……」


「「「可哀想に……」」」


落ち込むユキミを、友三人が優しく慰める。


「でも、勝ったからいいじゃん。ミキたちの友情の勝利だよ?」


励まそうと、ユキミの背をバシバシッと叩くミキ。


「いたッ………ミキちゃん、背中は叩かないでぇ!いてっ!」


「え?大袈裟だなぁ。」


ユキミは本気で痛がっているが、ミキは冗談だと受け止めているようだ。



「はぁぁぁ……」


その隣で、リコは深くため息をついた。


「ねーセリナァ。ウチ、溺れて死ぬかと思ったぁ。」


「私もヤバいなと思ったよ。ユキミを呼んで何とかしようとしたら、自力で脱出してたからびっくり。」


「えへっ、なんか閃いちゃった。」


「さっすがリコ!勝ったお祝いに、今日は美味しいものでも食べに行こう!」


「賛成!いつも食べてるけどね!!」


パチンッ!


リコとセリナがハイタッチを交わした、その時だった。



「入学早々、こんなにも本気の勝負をするとは驚きましたわ。」


「「「「ん?」」」」


コツ 。


コツ。


コツ。


心地のいい足音が、こちらへ近づいてくる。


「しかもサフィを相手に勝利を収めるとは、中々やりますわね。」


「「「「あっ」」」」


四人が振り返る。


そこに立っていたのは……


「ふふっ。」


燃えるような赤い髪に、宝石のような赤い瞳。

そして、見る者を惹きつける華やかな顔立ち。


佐々木さんから聞いていた、あの美女だった。


「その実力を評し、貴女方を生徒会室に招待しましょう。」


「「「「生徒会室……?」」」」


「えぇ。光栄に思いなさい。」




ダリア・ルージュベルは、静かに微笑んだ。

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