↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お昼の時間です  作者: ゴマサバ
第二の世界
PR
53/53

個性派揃い、生徒会メンバー


((((うひゃっー!))))


赤と金を基調とした、豪華絢爛な廊下を五人は歩いていた。


天使が描かれた絵画。

壁一面に施された緻密な彫刻。

天井から吊り下げられた巨大なシャンデリア。


何を見ても高級そうなものばかりである。


さすがは王立アルカディア学園。

まるで、ベルサイユ宮殿でも歩いているような気分になれる場所だった。



「このワタクシに話しかけられたこと、一生の自慢にしてもよろしくってよ。アルカディア学園で最も強く、全てにおいて優れた、このワタクシから声をかけたんですもの。」


「「「「は、はぁ。」」」」


先頭を歩くのは、華やかな赤髪の美女・ダリアだ。


決闘場から移動している間、彼女はずっとこんな調子で自画自賛を続けていた。


「本来、貴女方は生徒会室に足を踏み入れる機会などないでしょう。なぜなら、生徒会室に入るには優秀な成績だけでなく、高貴な血筋も必要だからです。」


((((えー……))))


「ですが。特待生という立場。そして、スワンティエール家の者に勝利した功績を評価し、特別に招待してさしあげますわ。」


コツ コツ コツ……


ダリアの高いヒールの音が、広い廊下に心地よく響く。


(よくあんな高いヒール履けるなー。)

(足痛くならないのかな?)

(あれで歩ける気がしない……)

(体幹パネェぜ。)


思わず感心してしまうユキミ、ミキ、リコ、セリナ。


四人とも、動きづらい靴は大嫌いなのだ。


「ここが生徒会室よ。」


そうこうしているうちに、目的の場所へ辿り着いた。


「みんな、紹介したい子たちがいるの!!」


ダァアアンッ!!


ダリアが勢いよくドアを開く。


その先に広がっていたのは……


((((ま、眩しぃ……!!))))


学園の長い歴史と威厳を、そのまま形にしたような豪奢な応接室だった。


見上げるほどの高天井には繊細な金箔の装飾が巡らされ、中央に吊るされた煌びやかなクリスタルシャンデリアが、室内に優美な光の粒を撒き散らしている。


アーチ型の大きな窓からは手入れの行き届いた広大な庭園が見渡せ、陽光が艶やかな高級木材の床と、敷き詰められた絨毯に落ちていた。


「あら、お茶をしていたのね。ワタクシの分も用意させなさい。」


「「「「……」」」」


そして中央には、深緑のベルベットで包まれた上質なソファセット。


そこに、凛とした男女四人が腰掛け、陶器製のティーカップを持っている。


「どうしたの?何か言いなさいよ。」


「「「「……」」」」


彼らはユキミたちをジッと見つめ、


ズズッ……


紅茶を口に入れた。


((((いや無視して飲むんかーい!))))


「……まぁいいわ。それよりも聞いて!この子たち、サフィとルベウスを負かしたのよ!!」


ダリアが嬉しそうに報告した瞬間、


「「「「えぇ!?」」」」


パチパチパチパチッ!!


座っていた男女四人は立ち上がり、盛大な拍手が生徒会室に響き渡る。


「素晴らしいですわぁ〜!」


真っ先に声を上げたのは、クリーム色の髪をハーフツインにした、とても目の大きい美少女だった。


「ようやく、ダリア様に楯突く愚か者に罰が下りましたのねぇ!」


嬉しそうに両手を組み、笑みを浮かべる少女。


その隣では、褐色の肌に緑色の長髪を持つ美男子が満足そうに頷いていた。


「ダリア、そういうことは早く言え。こんなに嬉しい知らせはないだろう。」


「あら、ごめんなさい?」


ダリアも満足げに微笑む。


「サフィのあの悔しそうな顔……貴方たちにも見せてあげたかったわ。」


「それは是非とも見たかったな。」


「わたくしもです〜!」


三人は楽しそうに笑い合う。


どうやら、サフィに対して思うところがあるのはダリアだけではないらしい。


((((あの子、めっちゃ嫌われてるじゃん……))))


思わず苦笑いを浮かべるユキミ、ミキ、リコ、セリナ。


敗北をここまで喜ばれるのは少し可哀想な気もするが、四人もサフィのことは普通に嫌いなので、擁護してやる気はちっとも起きなかった。


「あんな妹に振り回されて、ルベウスも気の毒よね。彼は実力も身分も申し分ないのに……。まぁそのルベウスも、なかなか面白い姿になっていたのだけれど。」


「まぁダリア様、それは是非とも教えていただきたいですわぁ〜!」


「あの男の面白い姿か……想像できんな。」


次はサフィの兄である赤髪の青年、ルベウスへ話題が移る。


彼は妹ほど嫌われていなさそうだが、それでも楽しい話のタネにはなるようだ。


「……」


しかし、そんなダリアたちとは対照的に、一人だけ不安そうな顔をしている人物がいた。


柔らかな銀色の髪に、神秘を感じさせる金色の瞳。

線の細い、ガラス細工の如く儚げで美しい少年だ。


「サフィちゃんに勝ったことは凄いけれど……」


彼はユキミ、ミキ、リコ、セリナを心配そうに見つめる。


「その……大丈夫なの?これから、どんな嫌がらせを受けるか……」


「「「「えっ」」」」


四人は目を丸くする。


言われてみれば、プライドの高そうなサフィが負けて大人しくしている姿など、とても想像できなかった。


彼女がどんな攻撃を仕掛けてくるか。

考えるだけで、頭の痛くなる話だ。


「……いざって時は紫月ちゃんとロメッチに頼る?」


「リコ、それ名案。」


頷き合うリコとセリナ。

とてつもなく強いあの二人の力が借りられれば、怖いものなしだ。


紫月とロメオが自分たちより年下だなんて、気にしない気にしない。


しかし……


「何を情けないことを言っているのよ。そんなものに挫ける程度の人間なら、ワタクシがこの場に呼ぶはずがないでしょう?」


((((うぉおおおおいっ!!))))


そう言われてしまっては、情けなく助けを求めることなど出来まい。

虎の威を借る狐作戦は、始まる前に失敗に終わった。


((((こうなったら……!))))


もう、銀髪の美少年に期待するしかない。


「「「「……」」」」


「うっ……」


少年は四人の視線を受け、おずおずと口を開く。


「だ、だけどダリア……君って少し強引なところがあるよね?」


「何よ。」


「う、ううん……!なんでもないです!!」


((((いや、もう少し頑張れよぉおおおお!!))))


期待するだけ無駄に終わった。


そんな時、


「まぁまぁ。負けたサフィが表立って攻撃してくることはないだろうし、大丈夫じゃないかな?」


席を立った四人のうちの一人、青髪の柔和な顔立ちの青年が微笑む。


「多分、教科書を水浸しにしたり、嫌いなオカズを押し付けて来たり、同学年の女の子と組んで無視したり、重要な連絡事項を伝えなかったりしてくるだけだよ。」


((((ん?))))


言ってる意味が分からなかった。


この青髪の人は、それの何を“ 大丈夫”と認識しているのだろうか?


「え……?」


さすがのダリアも、この発言には首を傾げた。


「「「「「「「「……」」」」」」」」


「ん?」


部屋全体が微妙な空気になるが、青髪の青年は気づいていない。


そんな時、クリーム色の髪の少女が手を上げた。


「……あ、あのダリア様?わたくし、この子たちのお名前が知りたいですわぁ。」


「そ、そうね。まだお互いに挨拶もしていなかったわね。では……ワタクシたちから名乗りましょう。」


ダリアはクルリと回ると、ユキミら四人へ向き合う。


そしてスカートの裾を両手で軽くつまむと、片足を後ろへ引き、優雅に腰を落とした。


「ワタクシはアルカディア学園で生徒会長を務めております、ダリア・ルージュベルですわ。こちらのルシアンとは、婚約中という関係ですの。」


ダリアはチラリと、銀髪の美少年へ目を向ける。


少年は右手を胸に当て、もう片方の手を背に回すと、恭しく一礼した。


「生徒副会長を務めております、ルシアン・アウレリアです。どうぞよろしく。」


「貴女方はこの国の者ではないでしょうから、説明しておくわね。ルシアンはこのアウレリア王国で、継承権第一位の王子なの。つまり彼と結婚するワタクシは、次期王妃ということよ。」


「ダ、ダリア……気が早いよ!」


“ 彼と結婚”という言葉に赤くなり、モジモジとするルシアン。


しかし、四人は思った。


((((いや、自分の自慢をしてただけじゃね?))))


ルシアンが考えているような意味での発言でないことは確かだが、可哀想なのでそんなことは言えなかった。


王子が副会長で婚約者が会長というのも気になるが、ひとまず触れないことにする。



「次はわたくしが挨拶しますわね。」


クリーム色の髪の少女は微笑むと、スカートをつまんで軽やかに腰を落とした。


「わたくしは生徒会書記を務めております、キャメル・テルースですわぁ。よろしくね?」


((((か、可愛い!!))))


上目遣いでこちらを見てくるキャメルの破壊力は凄まじい。


琥珀色の瞳はこぼれ落ちそうなほど大きく、ハーフツインの髪型も相まって、垂れ耳ウサギのように愛らしい少女だ。


「全く……」


そんな彼女の顔を見て、隣の褐色肌の美青年はため息をついた。


「同じ女を相手にそんな顔をしてどうするつもりだ?」


「何を言っていますの?」


「その可愛子ぶった顔はなんだと聞いている。」


「あら。わたくし、これが素なんですのよぉ。それより、貴方も挨拶をしたらどうかしら?貴方の大嫌いなサフィを負かした子たちですわよ。」


「ふんっ」


青年は片手を胸に添え、一礼した。


「生徒会広報を務めております、シルヴァン・ヴェントです。どうぞよろしく。」


((((おぉー。))))


シルヴァンの所作は、お手本のように美しかった。


恐らく、彼がどんな服装をしていたとしても、今の一礼を見れば誰もが彼を高貴な人物だと認識するだろう。


「じゃあ、最後はボクか。」


少し前に空気を凍らせた青髪の青年も、同じようにして頭を下げる。


「生徒会会計を務めております、カイル・ザフィーロです。よろしくね。」


彼は美形というわけではないが、笑顔には不思議と安心できる、庶民的なオーラがあった。




「これで、生徒会メンバーの挨拶は以上よ。次は貴女たちも役職と、名前を名乗って同じように挨拶なさい。アルカディアでは誰に対しても、丁寧に、上品に挨拶をしなければならないの。今日のうちに覚えて帰りなさい。」


「「「「……」」」」


四人は顔を見合せる。


「何よ、どうかしたの?」


「あの、聞きたいんですけど……」


恐る恐る、リコが手を挙げた。


「役職ってなんの事?」


「あぁ、言い忘れていたわ。これから貴女たちには、生徒会補佐の役職に就いてもらいたいの。そして三ヶ月後、生徒会の誰かとペアを組んで、ダンジョンに入りなさい。」


「「「「えぇ!?」」」」


驚きの声を上げたのはユキミたち四人ではなく、生徒会メンバー四人だった。


「ダ、ダリア様?補佐はまだ納得できますが、どうして一緒にダンジョンへ?正直、足を引っ張られないか……」


「もちろん、成長の機会を与えるためよ。新入生四人と、生徒会メンバー四人。新入生は先輩の戦い方を見て学び、キャメルたちは下の者の育て方を学ぶ。どちらにとっても良い刺激になりそうでしょう?」


「で、ですが……生徒会は五人、補佐となる新入生は四人ですわぁ……?」


「完璧なワタクシには必要のない機会ですもの。ルシアン、キャメル、シルヴァン、カイルの四人に決まっているじゃない。嫌なの?」


「そ、そんなことありませんわ……ダリア様……」


キャメルは渋々ながらも承諾した。


二人がどういう関係か分からないが、どうやらキャメルはダリアに頭が上がらないらしい。



「いや、ワタシは反対だ。」


シルヴァンは腕を組んだまま、険しい表情を崩さなかった。


「どこの国の者か分からない、しかも、闇魔法使いの集団を生徒会に加えれば、我々の品位が疑われる。……いや、品位どころか正気を疑われるだろう。」


「貴方の言いたいことは分かるわ。でも、それならサフィと同じではなくて?」


「ッ……」


「自分たちと違うものを否定するのは簡単よ。でも、人の本質は見た目でなければ、使える魔法でも決まらない。きちんと相手を見て受け入れてこそ、貴方の望む世界が作れると思うの。」


「……そうか」


ふいっ、とそっぽを向くシルヴァン。


なんとなく、彼の瞳に罪悪感の色が混じったのは気のせいだろうか。



「すごい、すごいよダリア!生徒会や後輩たちのことを、そこまで考えているだなんて!」


「ルシアン様の仰る通りですぅ!さっすが、ダリア様ですわぁ〜!」


「ありがとう。貴方たち二人は見る目があって好きよ。」


「「きゃっ〜!!」」


ダリアが不敵に笑うと、ルシアンとキャメルは揃ってクネクネと身体を揺らす。


「この子たちを君が望むなら、さっそく仕込まなきゃだね!」


そして、ルシアンは輝く瞳でユキミら四人を見つめた。


「ほらほら、君たち!ダリアがここまで考えてくれているんだから、早く挨拶してごらん!何が正す箇所があれば、朕(ちん)が教えるから!」


「「「「ちん……?」」」」


「スカートをこう、鳥の羽のように優雅に広げるんだ!そして片足を引いて、ゆっくり腰を落として!花のように可憐にねぇ!あ、朕(ちん)がお手本を見せるよ。」


彼は制服の裾をつまみ、そっと微笑む。


声を聞かなければ、少女と勘違いしてしまうほど可憐な顔立ちだ。


「朕はダリアほど綺麗に挨拶できないけれど……朕の真似をすれば、それなりに見えるはずだよ。はい、まずは君から!」


「え……は、はい!」


最初に、ミキが指名された。


「緊張はしなくていいけど、テンポよくしたいから……隣の子が挨拶をしたら、どんどん挨拶をしていってね。アドバイスは最後にするよ。」


「「「「は、はい……」」」」


さっそくミキはルシアンのポーズを見ながら、ぎこちなく真似をしてみる。


「せ、生徒会補佐のミキです。よろしくお願いします。」


「……えっと、生徒会補佐のユキミです?」


「生徒会補佐のリコです。よろしく。」


「生徒会補佐を務めております、セリナです。よろしくお願いします。」


カックカクの動きで、順に挨拶をしていく四人。

ぎこちないながらも、なんとか最後までやり遂げた。


さて、そんな彼女たちへの生徒会メンバーの評価は……


「なんというか、慣れてないね……」

「不細工な挨拶ね。」

「練習するべきですわぁ〜!」

「見るからに庶民だな。」

「うん、って感じ。」


((((はぁ?))))


ルシアン、ダリア、キャメル、シルヴァン、カイルの順で、容赦なく貶されたのであった。







ーーーーーー







「ってことがあったんだよぉ〜。」


セリナは空のトレーを持って、入学式後の出来事を話していた。


「それは災難でしたね……」


「でも凄いよ。この世界で重要人物のダリアさんと、もう接点ができたんだから。」


話し相手は紫月とロメオである。


四人はダリアから、


「新入生は今日限定で、学食が無料で楽しめるのよ。せっかくだし行ってみなさい。」


と勧められたので食堂へ向かっていたところ、同じく食事に向かう二人に遭遇し、今は一緒に注文の列に並んでいるところだ。


学食はAメニューがお肉、Bメニューがお魚となっており、注文した内容のものがオバチャンたちによってトレーに置かれていく仕組みである。


「いや、パシリになっただけだよ。学校行事とか色々と手伝わされるみたいだし。」


「いいではないですか。なんだか楽しそうです。」


「そーかなぁ?」


セリナはタコのように口をすぼめた。


その後ろから、リコがひょこっと顔を出す。


「そういや、紫月ちゃんとロメッチはどうだった?ウチらすぐにバトったから、みんなが教室に移動して何したか知らないんよね。」


「「あー……」」


二人は顔を見合せ、紫月が先に口を開いた。


「思い返せば、皆さんと似たような流れになりましたね。最初は自己紹介などをしていましたが、剣士科ということで一人ずつ素振りを披露することになりまして……」


「披露した後、紫月と僕は次々と模擬戦を申し込まれて、途中で移動したんだ。同じクラスの子とは全員戦ったけれど、残念ながらみんな一振りで終わってしまったよ。」


「「へ、へぇ……」」


流石は紫月とロメオ。

ギリギリの戦いをした四人とは違い、こちらは余裕勝ちだったようだ。


と、その時。


「はい、次の子〜!」


いよいよ、注文の順番が回ってきた。


先頭のロメオは一歩前へ進み、震えるほど美しい顔で微笑む。


「僕はAメニューをお願いします。」


「ま、ま〜〜!!!!」


バタン。


オバチャンはロメオを見るなり顔を赤らめ、その場に倒れてしまった。


((オ、オバチャーーーン!!))


口をあんぐりと開くリコとセリナ。

心配になり、思わずカウンターの向こう側を覗き込む。


「ご、ごめんなさいねぇ……Aメニューの量は……」


「特盛でお願いします。マダム、大丈夫ですか?」


「私は幸せよぉ……」


((あ、生きてた……))


オバチャンは鼻血を出して悶えていたが、何とか無事だった。


「よかったです、お怪我がないようで安心しました。」


「うふふ……」


((あ、また鼻血。))


それにしても、なんと恐ろしい美貌なのだろうか。

彼が微笑みかけただけで、相手は問答無用で骨抜きにされてしまうのだから。


「ロメオさ……ロメオは綺麗ですからね。お仕事の時も、女性に挨拶をすれば毎回こうなってしまうんです。」


「それはなんと言うか……」


「紫月ちゃんも大変だね。」


チラリと、カウンターへ目を向けるリコとセリナ。


「「あっ!」」


そして気づいてしまった。


「ん、二人ともどうしたの〜?」

「何かあった?」


後ろに並んでいたミキとユキミも前に詰め、カウンターを覗き込んだ。


「え、これどうしたの!?」

「何で!?みんな倒れてる!!」


そう。


ロメオの微笑みで、オバチャンたちは全滅していたのだった。






ーーー






ぐぅうううううう……


「やっと食べられる……」


リコは大きなお腹の音と共に、ため息をついた。


「ロメッチ美しすぎな?ウチ、もうお腹空きすぎてヤバいよ。」


「え?……ご、ごめん。」


困ったように笑うロメオ。


あの後、オバチャンたちが仕事ができる状態になるまで三十分ほどかかってしまい、リコの空腹は限界を迎えていたのだ。


それは彼のせいといえば彼のせいなので、ロメオはただ謝るしかなかった。



「そういえば、セリナはロメオを見ても平気なの?」


「ん?」


ミキの問いに、セリナは首を傾げる。


「だってセリナ、イケメン好きじゃん。ロメオと話してる時はいっつも顔がニヤけてるし。倒れそうにならないの?」


「あぁ、なるよ。だからロメオを見てる時は頭ん中で“ ナメコ”って連呼してる。」


「ナメコ?」


セリナは頷くと、ロメオへ視線を向けた。


「ナメコ ナメコ ナメコ ナメコ ナメコ ナメコ……」


「なんか嫌だなぁ……」


ちょっぴり顔をしかめるロメオ。


実は、ナメコは大の苦手なのだ。



「ねぇ早く食べよー。早くしないとユッキーを食べそう。」


「え?殺人事件になるよ?」


「大丈夫、ユッキーは人じゃないから。」


「んん?」


リコが急かすので、一同はナイフとフォークを手に取った。


((((((美味しそう……))))))


Aメニューを注文したのはユキミ、ミキ、リコ、紫月、ロメオ。

Bメニューを注文したのは、肉が苦手なセリナだけだ。


パン、スープ、サラダはどちらも共通なのだが、Aメニューは牛肉のステーキ、Bメニューはカレイのムニエルがメインとなっている。

どちらも盛り付けが工夫されており、学食とは思えないクオリティだ。


「「「「「「いただきます。」」」」」」


六人はそれぞれ、ステーキやムニエルにナイフを入れた。


そして、一口。


パクッ


「「「「「「……」」」」」」


食べた瞬間、水が入った木製のジョッキに五本の腕が伸びる。


ゴクゴクゴクゴクッ!!


(((((う、うわぁ!!)))))


はっきり言うと、料理はマズかった。


「なにこれ……香辛料使いすぎじゃない?味が渋滞している上にクドいんだけど!」


「素材の味が全くいかせていません。このお肉はもっと、シンプルな味付けでないと。」


真っ先に辛口な評価を下したのは、セリナと紫月だ。


「無駄に塩っ辛いだけで、味の深みってのが無いよね。しかも謎に甘いし……」


「同意見です。香辛料が食べたいわけではありませんのに……」


「二人とも、落ち着こうか。確かに少しスパイシーだけど、せっかくの食事だから楽しく食べよう?」


ロメオが間に入って宥めるも、その表情は引きつっている。

彼の口にも、この料理の味はキツイようだった。


「……そだね、ごめん。」


「うぅ……ごめんなさい。」


さすがに二人もそれ以上文句は言えず、沈んだ表情で料理を口に運んでいく。


「えーっと……」


場の空気が暗くなるのを感じ、ロメオは楽しくなりそうな話題を探した。


「……そういえば、生徒会メンバーはどんな子たちだったのかい?」


「なんか、チンチン言ってる人がいた。」


「えぇ!?」


ブフッッ!!


リコの言葉に、スープを飲んでいたセリナが吹き出す。


「ウェホ……ゲホッ!!ちょ、リコ!!食事中に何言ってんの!!」


「だって銀髪の男の子が朕って言ってたじゃん。チンって。ククッ……チンって……フフッ!」


「……朕は国家なり。」


「クククッ……」


「チンダル現象。」


「ブフフッ!!」


「チンギス・ハーン!!」


「カーカカカカッ!!」


“ チン”という言葉に、腹がよじれるほど笑うリコ。


リコは、こういう低レベルな下ネタが大好きなのである。


「フフッ……フッ……」


意外にも、ロメオもクスクスと笑っていた。

実は、彼も低レベルな下ネタは割と好きなのだ。


しかし、ロメオは王子。

紳士としてのプライドや立場が、それを許してくれなかった。


(こ、こんなことで婚約者の前で笑うわけには……!!)


ロメオは気を誤魔化すために、必死にミキへ目線を向ける。


「それで……フフッ……どうだったの?」


「え?えーっと……」


ロメオに聞かれ、ミキは記憶を辿った。


「なんか……クセが強かったな。ミキたちを置いて話がどんどん進んでくし、ミキたちがお願いしたわけじゃないのに、生徒会補佐になれって言われた時は文句を言われたし……」


「え、何を言われたんだい?」


「どこの誰か分からないとか、闇魔法使いとか。闇魔法を使えるのはリコだけなのにねぇー。」


「あぁ……それは髪色のせいだね。」


ロメオは自身の金髪を、そっと摘んだ。


「身分と同じ髪色で生まれる僕の世界とは違って、この世界では持っている魔法の因子によって髪色が決まるらしいんだ。例えば、火の因子が強ければ赤い髪色になるそうだよ。」


「ミキたちは黒髪だから闇魔法ってこと?」


「そう。聞いた話だと、闇魔法は犯罪に使われることが多いから、あまりいい顔はされないんだってさ。」


「なるほどねー。」


ミキが納得したように頷く。


その隣で、ユキミは青い顔をしていた。


「なんか……ダンジョンに入るって言ってたよね。あたし、戦える気がしない……」


「えー、ミキは結構楽しみ!ダンジョンってワクワクしない?」


「えぇ?いや、でも……無理な気がする……モンスター退治とか無理無理……」


と、その時。


ピンポンパンポーン!


『至急、生徒会補佐は正門へ集まりなさい。グラニス高原に、ダークバイソンの群れが出現しました。捕獲に向かいますので、装備を整え次第、正門へ集まりなさい。』


聞き覚えのある声が、天井から食堂中に響き渡った。

無論、声の主はダリアであろう。


「……さっすがユキミ。フラグ回収が上手いね。」


「いやだぁあああああああ!!」








ーーーーーー








「ホウキは!?回復ポーションは!?連絡用の魔石は!?」


「「「「スイマセーン……」」」」


正門についた瞬間、四人はダリアから激しく怒られた。


その理由は、至極単純。


「ワタクシ、ちゃんと“ 装備を整えて集まりなさい”と伝えたわよねぇぇえええ?なのに……どぉぉぉして手ぶらなのかしらぁぁあああああ!?」


((((ひ、ひぃ……))))


「ホウキが無くて、どうやって高原まで移動するつもりなの!?ポーションが無くて、もし重傷を負った時はどうするの!?連絡手段が無くて、どうやって指示を仰ぐの!?」


ということらしい。


そんなことを言われても、四人とも魔法のホウキなど持っていないし、そもそも目にしたことすらないのだ。


佐々木さんからも、


「アイテムの種類や使い方は、これから授業で覚えていったらいいよ。そんな早々、クエストなんか連れて行かれないから焦らなくて大丈夫!」


と言われており、本当に何も教わっていないのである。


それなのに、いきなり呼びつけられた上、年下の女の子に鬼の形相で叱られるのだから、理不尽な話だ。


「ダ、ダリア……新入生に怒りすぎだよ……」


「新入生だから何よ。高価なポーションはともかく、ホウキさえ持って来なかったのよ?」


「でも……いきなり呼びつけた朕たちも悪かったし……」


「えぇ?」


「ご、ごめん……!!」


ルシアンがどうにか宥めようとするも、ダリアが落ち着く気配はない。

それどころか、彼のオドオドした態度が火に油を注いでいるようだった。


((((こわーい……))))


四人は顔を見合わせ、そろって口を窄めさせる。


もし他の生徒会メンバーが一緒なら、誰かが間に入ってくれたかもしれない。

いや、入らないかもしれないが。


しかし、今回、正門にいるのはダリアとルシアンの二人だけ。

ダリアの怒りを鎮めてくれる人間は、どこにもいなかった。


「もういいわよ。ホウキが無いのなら走って移動しなさい。行くわよ、ルシアン。」


「走って移動は少し可哀想じゃないかな……」


「行かないの?」


「い、行くよぉ……」


右手に持っているホウキを地面に置き、スノーボードのように乗るダリア。


パチンッ!


指を鳴らすと、彼女の足はホウキに枷のようなもので固定される。


「ふんっ」


ダリアが腹立たしそうに顔を背けると、ホウキは宙に浮かび、瞬く間に飛び去ってしまった。


シュゥウウウウッ……!


「……ごめんね。」


ルシアンはホウキに跨(またが)り、すぐさま婚約者の後を追いかける。


シュゥウウウウッッ……!!!


全力でホウキを飛ばすと、何とかダリアの横に並んだ。


「……ダリア、君は少し厳しすぎるよ。」


「あら。ワタクシは間違ったことは言っていないわよ。クエストに手ぶらで現れるだなんて……あれは、生徒会補佐としてありえない行動じゃない。まず、常識が無いわ。」


「手ぶらだったことには朕も驚いたけど……生徒会補佐は君が勝手に決めた役職でしょう?」


「だから何よ。ワタクシに指名されたのだから、これ以上ないほど努力をすることが当然のこと。もう、あの子たちはクビね。」


「……それは横暴じゃないかな。もう少し様子を見てみようよ。」


「なら、走って追いつけたのなら考えを改めてもいいわ。実力があれば文句なんてないもの。」


「うーん……」


シュゥゥウウウウウウッッ……!!!


ダリアはさらに、ホウキを加速させた。


高度は約六十メートル、速度は時速七十キロを超えているだろう。


「よくその体勢でホウキに乗れるね。かなり速いし、振り落とされないかヒヤヒヤするよぉ……」


「土魔法で固定しているから平気よ。それに、ワタクシは跨った状態の方が疲れるわ。…………ん?」


「どうしたの?」


ダリアは下をジッと見つめていた。


目を凝らしてみるものの、日が暮れて暗闇に包まれた地上の様子はよく分からない。


「……少し、下が騒がしい気がするの。明かりをちょうだい。」


「わ、わかった。……輝光(ルミナス)!」


ルシアンは眩い光を放ち、灯台のように地面を照らした。


「「!」」


すると、そこには……


ダダダダダダッ!!


「「「「うぉおおおおおおおお!!」」」」


お世辞にも可愛いとは言えない顔で走る、ユキミ、ミキ、リコ、セリナの姿があった。


「す、凄いよあの子たち……!!走って朕たちに追いついているよ!?」


「……」


「ねぇダリア!どれだけ魔力循環が上達すれば、あれだけ速く走れるんだろうね?」


「……知らないわよ。確かに速いけれど、あれではグラニス高原に着く前に魔力切れを起こすに決まっているじゃない。」


ダリアはホウキを、さらに加速させる。


その速度は、時速八十五キロほどに達していた。




そして、十五分後……



「凄いね。あの子たち、走ってグラニス高原まで来れちゃったよ。」


「フンッ……意外にやるわね。」


目的地であるグラニス高原に到着。


広々とした高原には、ところどころに巨大な岩が点在し、その陰では小型や中型の魔物たちが眠っていた。


「あの魔物は危険じゃないかな?」


「もしダークバイソンの群れに突っ込めば、あの魔物たちはペシャンコよ?大丈夫でしょう。」


「……一応確認するけど、朕とダリアは加勢するんだよね?」


「そう思っていたけれど、少し待ちましょう。あの子たちの実力を確認したいわ。」


「えぇ!?」


心配そうに地上の四人を見つめるルシアン。


彼の瞳には、四人の近くを猛然と駆けているダークバイソンの姿が映っていたのだった。







ーーーーーー






「さすがにちょっと疲れたね……」


「だねぇ。あんだけ走ってこの程度で済むのは、この体の凄いところだよ」


ふぅ、と息をつくユキミとセリナ。

彼女らの額には、うっすらと汗が滲んでいた。


「それにしても、あの光、けっこう眩しいな……」


ミキは空を見上げ、目を細める。


「それな。あの先輩、なんでウチらをずっと照らしてくるんだろ?」


「上から見るためじゃない?それより……なんかドタバタ聞こえるんだけど。」


「そうねぇ……」


リコも耳を澄ませる。


ドドドドドドド……!!


すると確かに、地面を揺らすような音が、遠くから響いているのが聞こえた。


「まさか、ブラックなんちゃらの群れだったりして!」


ミキが冗談っぽく笑った、その時。


パッ……。


ルシアンが光を消し、途端に辺りは真っ暗になる。


「えっ、ちょっ、急に消さないで!?」

「これじゃ何も見えんやん!」

「みんなどこー?」

「べっ!口に砂が!!」


暗闇の中、四人が騒いでいると……


ブルゥフフフフ!!


「「「「!」」」」


聞き慣れない獣の鳴き声。

それと同時に、地響きが一気に大きくなった。


ドドドドドドドドドドッ!!


「え、え、え!?何!?何の音!?」

「やっぱミキの予想通りかも……」

「じゃあミキのせいでウチらは死ぬんだね。」

「えー!イケメンと終わりたかった……」


暗闇の向こうから、何かが迫ってくる。

その正体を確かめる間もなく、頭上からダリアの声が響き渡った。


「ダークバイソンが貴女たちに近づいているわ。どんな手を使ってもいいから、一匹も逃さず捕獲しなさい。」


「「「「はぁぁぁあああ!?」」」」


「一つ助言だけをしてあげるわ。誰か明かりをつけてみることね。」


ポワァ……!


「あんの女ァァアアア!」


すぐさま、セリナは音の方へ光の球をとばす。


シュッ……!!


ブモォオオオオオオオオ!!!


光に照らされた場所には、ダークバイソンの名に違わぬ黒い巨体と黒い角、そして赤い目を持つ恐ろしい牛の姿があった。


電球ほどの大きさしかない光球で照らせる範囲だけでも、確実に十頭はいる。


「「「「うわぁあああああ!!」」」」


ドドドドドドドドッ!!


四人の大声に驚いたのか、ダークバイソンたちは進路を変え、闇夜へと溶けていった。


「やばいって!やばいって!!これやばいって!!」


しかし、足音は遠ざかるどころか、依然として近くから響いている。


ユキミは恐怖のあまり、その場にうずくまり、近くの岩陰に身を隠した。


その瞬間、


ドガッ!!!


ユキミに、一頭のダークバイソンが突っ込んだ。

強靭な脚に蹴られ、彼女の身体はコテンと横へ転がる。


「「「ユキミ!!」」」


「ひぃいいいいん……!」


(((あ、大丈夫そうだ。)))


しかし、第一の世界の影響を受けたユキミもまた、強靭な肉体の持ち主。

頭を抱えて怯えているものの、怪我はないようだった。


むしろ、


ドサァァアアアアア……!!


ユキミに突進したダークバイソンの方が、派手に吹っ飛んでいる。


そのダークバイソンに別のダークバイソンが引っかかり、一匹が転ぶとその後続のダークバイソンが巻き添えになっていた。


「ナイス、ユキミ!!」


ポワァ……!!


セリナは群れの位置を把握しようと、ユキミのいる場所を光球で照らす。


すると、


ダダダダダダダダッ!!


ダークバイソンは光を避けるように進路を変え、再び暗闇へと逃げた。


「もしかして、光が苦手なんじゃない?」


「えっ!!……ミキに遅れをとるとは!!」


「なんだよそれー。」


先にミキが弱点を見つけたことが悔しいのか、セリナは不満げに唇を尖らせる。


「まぁいいや。いい感じの戦法は思いついたし。」


そしてニヤリと笑うと、セリナは魔力を上空に集中させた。


「えっと……チンダル現象!!」


「ふひっ」


光のカーテンが、辺りを広く囲う。


ブモォオオオオオオオオ!!


それによって辺りがうっすらと明るくなり、計五十頭ほどのダークバイソンが姿を現した。


「これで多分、群れは閉じ込められたと思う!あとは……」


ゴゴゴゴゴ……!!


次に、セリナは地面を手について、少し離れた場所に逆円錐形の穴を掘る。


「ユキミ!地面を掘るの手伝って!そんで、終わったらサラッサラの砂を上にかけるよ!」


「え!?ちょ、ちょっと……」


「ユキミ、頑張れ!あのちょっと離れた辺りにお願い!!できるだけ大っきくね!」


「う、うん……!!」


ユキミは指定された場所へ手をかざし、セリナと共に穴を掘り進めていく。


「ミキとリコは、これが終わるまで私らを守って!」


「「お、おう……!」」


守ることを頼まれた二人は、ダークバイソンへと向き直った。


ドドドドドドドドドドドッ!!


群れは今までにないほどの剣幕で、こちらへ迫ってきている。


「……これ、ウチらには無理じゃね?」


「え、ミキは行ける気がする!」


「ん?」


何故かミキは瞳を輝かせ、腕を横にピンと伸ばしながら群れへと突っ込んで行った。


「うぉりゃぁぁぁぁあ!」


ブモォオオオオオ!?


まぁ、何と言うことでしょう。


ミキによって、ダークバイソンはボウリングのピンのようになぎ倒されていくではありませんか。


「やっぱアイツ、ゴリラだよ……」


リコの目には、それでも立ち向かっていく牛の方が哀れに映った。


ブモォオオオオオ!!


「おっ、やば」


何頭かの脚がこちらへ向き、リコもぼんやりとはできなくなる。


ドドドドドドドドッ!!


リコは突っ込んできたダークバイソンをひらりと躱し、


「ぅおりゃあ!!」


バシッ!!


右ストレートを決めた。


「シュシュシュシュシュシュッ!!」


その後も、自分で風を切る音を口ずさみながらパンチを繰り出していく。


ブモォォオオオ!!


ダークバイソンは殴られる度によろけ、耳が痛くなるほどの鳴き声をあげた。


「うぉりゃぁあああ!」


「シュシュシュシュシュシュッ!!」


ミキはビンタとラリアットで、リコはボクシングの真似をしながら、次々とダークバイソンを蹴散らして行く。


パワー型のミキ、技巧派のリコと言ったところだ。


と、その時。


「二人ともー!残りの牛は穴の場所に誘導して!!でも二人はその上を通っちゃダメだからね!」


「「えぇ?」」


セリナが腕をバッテンにしながら叫ぶ。


その声を聞いて、ミキとリコは首を傾げた。


「あの穴に落とすわけね。なんか、掘ってた時より小さく見えるけど……」


「誘導って、走ればいいんかな。」


「そうじゃない?」


二人は頷き合うと、穴の縁まで走り……


ダッ!


「「おりやぁ!」」


跳んだ。


スチャッ!


ミキとリコは無事に向こう側の縁に着地する。


しかし、ダークバイソンは……


ブモォオオオオオオオオオオオオオ!!


そのまま突っ込み、穴へと落ちてしまった。


ドドドドドドドドッ!


それでもダークバイソンは勇敢に大地を踏みしめ、穴から這い上がろうとする。


だが、


サァァァァアアアア……


サラサラとした砂に足を取られ、もがけばもがくほど、身体は穴の底へと後退していった。


ブモォオオオオオ!!


「これなに?なんで牛たちは上がって来れないの?」


「ミキちん、いい質問だね。」


目を丸くするミキに、セリナは鼻を高くして答える。


「蟻地獄(アリジゴク)だよ。アイスのコーンみたいな形の穴を掘って、サラサラの砂をある程度積もらせるの。そしたら、踏みしめる度にサラサラすぎる足元が崩れて、そのまま下に落ちてくってわけ。うろ覚えにしては上手くできたと思うよ。」


「へぇ〜。」


「つっても、ミキとリコに任せとけば罠なんか要らなかったかもね。」


「ミキも、なんかイケちゃう気がした!」


「コイツ〜!」


二人でケラケラと笑っていると、


「閃光繭(フラッシュコクーン)」


ピュ ピュ ピュ!


ルシアンの声と共に、空から星が降ってきた。


「「「「ん!?」」」」


星の光はどんどん近づいて、


ブモォオオオオオ!


ダークバイソンに降り注ぎ、その巨体を繭のような光で拘束する。


パチパチパチッ!


そして拍手と共に、ホウキに乗ったダリアとルシアンが降りてきた。


なんだか、二人とも機嫌の良さそうな表情だ。


「合格よ。正直、見直したわ。ホウキやポーションなんて、貴女たちには必要無かったのね。」


「みんな凄いね!今度、君たちの魔力循環を朕にも教えてくれる?」


「「「「……」」」」


ダリアは光で拘束されたダークバイソンを一瞥すると、妖しく微笑んだ。


「本当はここまでして欲しかったのだけれど、動きを封じただけで良しとしておいてあげるわ。次からは、ちゃんと最後まで行うことね。」


「「「「……」」」」


「何よ、なにか言いたいことでもあるの?」


「「「「いや別に……」」」」


「ならいいじゃない。」


本当は、ダリアに言いたいことは山ほどあった。


急に呼び出したこと、怒って自分たちを置いていったこと、知らない土地でいきなり戦わされたこと。

彼女の行いは何もかも勝手で、こちらへの配慮など微塵も感じられない。


だが、それを言ったところで聞く耳など持たないだろう。

それに、年下相手に文句を並べるのも大人げない。


四人はそう考え、口を噤むのだった。


そんな彼女らの心境を察したのか、ルシアンはどこか気まずそうに、胸に下げた水晶のペンダントへと語りかける。


「……みんな、どうかな? この子たちと組んでダンジョンに入る気になってくれた?」


ビュッ!


すると、ペンダントからビデオ通話のような映像が映し出された。


そこに映っていたのは生徒会室。

そして、そこで紅茶を飲むキャメル、シルヴァン、カイルの姿だった。


「思っていたより強いですから、いいですわよぉ〜!」

「ワタシも賛成するが、足手まといにはなるなよ。」

「ボクはどっちでもいいよ。」


あっちの三人も三人で、とても偉そうである。


パンパン!


生徒会メンバーの意見を聞き終えると、ダリアが手を叩いた。


「全員賛成により、貴女たちを正式に生徒会補佐に任命します。その立場に恥じぬよう学園で力を磨き、実力と教養を身につけるように。そして、ワタクシたちと共にあれる栄誉に感謝なさい。」


((((また勝手に……))))


どこまでも上からツンッとしている彼女に、

四人はこれからの学園生活が不安になるのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。